特使14 花
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
私はヤン殿下の意向をユエ執務官に伝えた後、特使の離宮を出た。
︎急いで公爵閣下の執務室を目指す。
公爵閣下の秘書官に昭国の意向を伝えると、明日からダンスの練習ができるように手配するとの回答だった。
私は執務室を出て、昭国の離宮に向けて歩く。
離宮に戻ったらユエ執務官にお願いして、事前に夜会用の衣装を確認させてもらおう。昭国の衣装でダンスができるか確認しておきたい。
その時の私は夜会のダンスの事で頭がいっぱいだった。
今は使われていない部屋が並ぶ通路の角を曲がると、急に腕が引かれた。
「!」
覚えのある腕の中に捕えられる。
彼の匂いに包まれた。
空き部屋に入り、静かに扉が閉まる音がする。
見上げるとアイスブルーの瞳と目が合う。
︎
「……ユリウス様、誰かに見られたら……」
こんなところを見られたら、あっという間に噂になってしまう。
私達の婚約のことはまだ伏せられている。
ユリウス様の職務に支障が出るのは避けたい。
私は抗議の目線を送ったが、ユリウス様は表情が変わらなかった。
「レイが珍しく無防備だった。何を考えていた?」
私はヤン殿下が夜会のダンスの練習を希望しているので、手配してきたことを伝えた。夜会に向けて準備することが一気に増えたから、気を取られていたのかもしれない。
ユリウス様は面白くなさそうな顔で聞いていた。
途中で私の髪に、彼の目線が固定される。
「レイ、これは?花?」
「えっ?あ、ヤン殿下が付けられたのです」
「ふーん」
ユリウス様は私の髪から花をサッと抜き取り、私の目の前に差し出す。
「この花の意味、わかる?」
「えっ?」
私が答えた時には、顎を持ち上げられていた。いきなり口を塞がれる。
「んっ、んっ」
手で抵抗しようとしても捕らえられてしまう。触れているところが熱い。繋がれた指も。
こうなってしまうと何も考えられない。
思考が塗り替えられてしまう。
目の前の人のことのみに。
「レイの周りは男ばかりだから、もう少し警戒すること」
そう言ってユリウス様は部屋を出て行った。
私は手の中に残された花をぼんやりと見つめる。
ペゴニアの花の意味を考えようにも、頭が働かなかった。
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