特使13 庭園
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
私はヤン殿下と2人で、昭国の離宮の中にある庭園を歩く。
本当なら護衛官を連れて行くのだがヤン殿下が嫌がったため、仕方がないから私達から離れたところに複数名を配置してもらった。
「アレキサンドライト、これで残す公務は夜会だけだナ」
「はい」
第二王子殿下とは、前任者の時に一度茶会が催されていた。そのため本日の王太子殿下との茶会をもって、王宮側の公務はなんとかクリア。あとは夜会へ参加するのみだ。
「こちらの夜会ではダンスとやらがあると聞いたが誠カ?」
「はい。社交の一環として、ダンスをして親睦を深めるのです」
「世もやル。教えてほしイ」
正直意外だった。
昭国はダンスの習慣がない。だから特使もダンスは免除される。
しかし、もしヤン殿下がダンスに参加されるなら、我が国に対し昭国側の親睦の意を示すことになるだろう。
「承知致しました。直ぐに教えられる人材を手配します」
「お主が教えるのダ」
「大変恐縮ですが、私では教えられません。ダンスは男性と女性がペアになって行うのですが、それぞれ動きが違うのです。そのため私では男性側の動きを教えられません」
「分かった。だが練習相手が必要になるのだろう?お主が務めヨ」
「それならば……承知致しました。夜会まで日がありませんので、早速練習の手配して参ります」
ダンスの習慣のない殿下に今から手解きして間に合うかは分からないが、とりあえず教師と場所を確保しないと。
急いで場を去ろうとする私を、ヤン殿下が呼び止める。
「これをやル。ハンカチの礼ダ」
そう言って、殿下は庭園にある花を手折って私の髪に刺した。
後ろに髪を束ねている所に刺したので、私からは見えないが、ピンクの……ペゴニア?
ヤン殿下との距離が近い。
背の高い殿下が私を覗き込むように、私の髪に花を飾ったから。
私は殿下の顔を見上げる。
「うむ、よう似合っておる」
一瞬、昨日話した、別人の様な殿下に向き合っている感じを受けた。
年相応の落ち着きのある、むしろ年齢よりも大人びた思慮深い貴人のようだ。
黒い髪が日差しを受けて、光沢を放っている。
顔付きがいつもと違う。
いつもの、私を見る目とは違う。
黒曜石の様な綺麗な瞳だと思った。
「ありがとうございます」
私は礼を言ってその場を離れた。
ヤン殿下の眼差しが、しばらく頭から離れなかった。
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