特使11 依頼
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
昭国の離宮から退出した私は、クローディア公爵閣下の執務室に急ぐ。
閣下は私の報告を聞いて、難しい顔をした。
私の現在の上司はクローディア公爵閣下であるため、昭国の特使襲撃の報告も閣下に行う。
「閣下、特使団のうちこの者達の、入国してからの足取りを追えませんか?」
私は資料を渡す。特使が滞在する残りの日程を考えれば、急ぎで調査をお願いしたいところだ。
「できるだけやってみよう」
「複数の拠点に出入りしている場合、海に面している所を重点的に探って頂けませんか?港に私の知り合いがいるので、協力できれば早く突き止められると思います」
閣下は少し驚いた顔をしてニヤリと笑った。
「何か考えがあるのか?」
「はい。
今回のヤン殿下の襲撃事件は昭国の手の者の仕業です。使われた武器と毒が昭国特有の物であること、及び証拠が持ち去られた点を鑑みて間違いないと思います。ユエ執務官が同行者を探っていたことも含めて、確実かと」
「あの国は王子同士を争わせて、より強い王を選ぶ慣習があるからな。我が国にいる間に第一王子を亡き者にしようとしているのか……」
「ユエ執務官は証拠を揃えて、敵を追い詰める機会と考えているようです。
そこで閣下にお願いしたいことがございます」
「聞こう」
閣下の顔は宰相としてのそれだ。
この底知れない笑顔に、向き合う者は試されてしまう。そして思い知るのだ、自分と目の前の方の実力の差を。
その外交能力で現在の役目を任された、切れ者と称される大貴族の長、宰相クローディア公爵閣下。
これが上に立つ者の在るべき姿なのかと、改めて思った。
✳︎
公爵家別宅に帰宅し夕食を終えて自室に戻ったところで、ユリウス様が帰宅された。今日も王宮に泊られると思っていたので、少し驚いた。
「レイ、襲撃されたって⁈」
ユリウス様が慌てて部屋に入ってきた。
「ユリウス様、ご心配をおかけしました。
私は大丈夫です」
ユリウス様に抱き締められる。
公爵閣下経由で然るべく情報が渡ったのだろう。
激務を推して駆け付けてくれたのが嬉しい。
「レイが危ない事に巻き込まれるのは嫌だ」
「これからは気をつけます」
ユリウス様は抱き締める腕を強めた。
それが彼の答えだろう。
ユリウス様にも分かっている。
今私が役目から逃げるわけにはいかないことを。
特使が滞在するのもあと1週間。
この間を無事に過ごせれば良いのだ。
「ユリウス様、お願いがあります。
今の王宮において、クローディア公爵家と対立している家門を教えて頂けませんか?」
「急にどうして?」
「誰かが、私が伯爵令嬢であることを昭国のユエ執務官に伝えたのです。その狙いを知りたいのです」
ユリウス様の雰囲気が変わる。
婚約者ではなく、第二王子の側近のそれに。
彼は気が付いたのだろう。
昭国の特使の任が仕組まれていたことに。
通常、官吏の個人情報は特使側には伝えられない。伝えられるとしても、今までの職務内容くらいだ。
私の場合なら「下級官吏として平民向けの業務を担当している」こと、それくらいなら昭国側に知られているかもしれない。
実際、ヤン殿下の取り巻きや同行者達は私のことを知らなかった。
しかしユエ執務官だけは私の身分を知っていた。
しかも下級官吏の情報の中に貴族令嬢は含まれない。公爵閣下も上手く情報操作をして下さっているので、少なくとも特使が知っている情報ではない。
おそらく私の出自も把握して、ヤン殿下に会わせたのだろう。
つまり、王宮内にわざわざ私の情報を昭国に流した者がいる。
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