クローディア領へ
お立ち寄り頂きありがとうございます。
こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
「ようこそおいでくださいました、若奥様」
私はユリウス様とクローディア領に来ている。
ここに来るのは前公爵様のお部屋を訪れて以来で、私は3度目となる。
✳︎
結婚式も披露宴も無事に終わり休暇に入った私とユリウス様は、公爵邸でゆっくり過ごす予定だった。
お義父様とお義母様の時は、結婚式の後に旅行に行かれたそうだ。しかし私もユリウス様も仕事の関係で旅行を計画する間もなく式の日を迎えたため、休暇中はゆっくり過ごそうということになった。
しかし休暇中にも関わらず方々から仕事の話が入るのに嫌気のさしたユリウス様が、急遽領地に引きこもると言い出したのだった。
「やっとユエ宰相が帰国したのに、次々に新しい出仕の話ばかり……どれだけレイを働かせれば気が済むんだ」
最近のユリウス様は、より表情が表に出るようになったと思う。
「そう言って、私をセレス領に連れて来て下さるつもりだったのでしょう?」
私は彼を宥めるように言う。
「まあな、レイも行きたいかと思って」
おかげでセレス領にいる家人と領民に報告ができた。彼らは式には来られなかったから、直接報告できて嬉しかった。
そして亡き両親にも成婚の報告ができた。
先にセレス領に寄って、それからクローディア領に入る。
そして屋敷に着いて、使用人達から歓迎を受けたところだった。
「改めてよろしくお願い致します、ケビンさん」
私は領地の家令であるケビンさんに挨拶する。
使用人に挨拶するなんて、と思われそうだが私は敬意を持って彼に接したい。そして彼から学ばせてもらいたいと考えている。
クローディア公爵家の領地家令は、セレス領で領主の仕事に相当する職務を担っている。
クローディア公爵家の歴代の当主は抜きん出た才能で名を馳せており、その結果、国の機関の要職に就いている。
必然的に王都に居る時間が長く領地に足を運ぶ機会が限られるため、領地の家令に領主相当の権限を与えて領地の運営に支障が出ないようにしている。
しかもクローディア領は広大だ。
この国有数の商業区がある。大きな街道が通っており、人の行き来も活発だから大きな街が幾つもある。
そのためエリアごとに管理者を置いて、それを家令が統括している。
だからお義母様から領地に関する引き継ぎはなかった。その代わり実際に領地に行って良く見ておくようにと言われた。
私もセレス家にいた時には領地運営に関わっていたから、その大変さは少し分かる。それよりも広大な規模で、組織的に行われている管理手法に興味がある。
「若奥様はめずらしい御方でいらっしゃる。
領地経営に興味をお持ちとは」
ケビンさんに一言挨拶しただけで、あっさり見抜かれてしまった。こんなこともあるんだなぁ。
明日から領地の様子を色々見て回る予定なので、今日はこのまま屋敷でゆっくり過ごす。
ユリウス様はこの機会に、前公爵様が残した魔術細工の箱を解析するらしい。
前公爵様の部屋で夢中になって取り組むユリウス様を見ているのも楽しいのだが、邪魔をしたくない気持ちもあって、私はお茶を淹れてくると言って部屋を出た。
私は魔術のことは分からないが、前公爵様が遺したものなのだから、何らかの学びがある。それがユリウス様をさらに豊かにするだろう。
「若奥様、どうかなさいましたか?」
廊下を1人歩いていた私は、ケビンさんに呼び止められた。私がユリウス様の様子を伝えると、お茶の支度を手伝ってくれるという。
流れるような手つきでお茶の用意をしながら、ケビンさんは私に問いかけた。
「若奥様、クローディア家の当主が代々抜きん出た才に恵まれているのは、どうしてだと思いますか?」
私は予想外の質問に驚く。
「わざわざ質問されるということは、本人の努力以外に何か秘密があるのですか?」
「若奥様はなかなか鋭くていらっしゃる」
ケビンさんがにっこりする。
うーん、うーん。
前公爵様とお義父様とユリウス様の共通点を見出せば良いのだろうが、それぞれの専門分野は異なるし……。
「正直思いつきません。
強いて言うなら一途なところがおありということしか」
「ほぼ正解です。代々の御当主様は優れた伴侶をお選びになるのです。その目を私達は信じて、お仕えしているのです」
「当主の見る目を信じているのですね?
それは分かりますが、一途だから優れた伴侶を選べるかと言うと……もしかして『一目惚れ』ですか?」
「若奥様は、なかなか博識でいらっしゃいますね」
以前ニール教授から聞いたことがある。
「一目惚れについて、人は遺伝子レベルで惹かれるという説がある。しかし人は個体差が大きく、惹かれる要因自体に幅があるため、あくまで一説に過ぎないと聞きましたが」
「仰る通りです。しかしながら遺伝子レベルで惹かれることに、一定の法則を見出せるのならばいかがですか?」
「つまりケビンさんは、クローディア家出身者の伴侶に何らかの共通点を見出しているということですか?それが当主の見る目であり、結果優れた伴侶を選んで、次代に抜きん出た才を遺すことに貢献していると?」
「私はそのようにお見受けしております」
クローディア家の選んだ伴侶について、私はお義母様と自分しか知らないから共通点が見出せない。
ケビンさんは長く仕える使用人、その立場からきっと思うところがあるのだろう。
「ユリウス様は素晴らしい伴侶をお選びになりました。私達は若奥様にお仕えできて光栄でございます」
私はケビンさんの眼鏡に適ったということらしい。
しかしユリウス様が私に一目惚れするような機会はなかったと思うのだけど……。
お茶の用意ができた時、急に玄関の方が慌ただしくなった。ケビンさんが素早く向かい、私も続くと、玄関にサラ様がいた。
「お兄様に至急お会いしたいのです!
お兄様はどちらですか⁈」
興奮したようなサラ様を宥めて、ユリウス様の元に案内するケビンさん。
遅れて玄関に着いたのは、サラ様専属の公爵邸の侍女達。
私はサラ様の侍女達に話を聞くと、サラ様が急にユリウス様に会うために領地に行くと言い出したとのことだった。
サラ様はお友達の誘いで王宮に見学に行っていたそうだが、帰宅されてすぐに領地行きを決められたとのこと。いつもと様子の違うサラ様に、侍女達も戸惑っているようだ。
サラ様は積極的に外出するようになったが、思い付きで行動するなんてめずらしいことだ。
私がお茶を持って前公爵様のお部屋に行くと、ユリウス様が興奮したサラ様を宥めていた。
「落ち着け、サラ。
それで、王宮でどんな人と会ったのだ?」
「その方は王宮魔術師の制服を着ていて、長い緋色の髪を結んでいて、魔術を使う時に明るい色に変わるのです!それがとても綺麗で、私はその人のことが頭から離れなくて、どうしてもまたお会いしたいのです!
お兄様、魔術が使えると認められれば年齢に関係なく王宮魔術師になれるのでしょう?
私に魔術を教えて下さい‼︎」
興奮したように、一気に話しきるサラ様。
対してユリウス様は笑顔で話を聞いているが、微妙な顔をしている。
彼にはサラ様が誰のことを言っているのか、分かっているのだ。
めずらしい緋色の髪を持つ魔術師なんて、王宮では1人しかいない。
隣ではケビンさんがにっこりしている。
私はケビンさんにこっそり話しかける。
「ケビンさん、もしかしてクローディア家の人は、自分と遠い遺伝子を選ぶ傾向があるのですか?」
ニール教授からは、人は自分と異なる特徴を持つ遺伝子に惹かれる傾向があると聞いたことがある。より良い子孫を残すために、自分にない遺伝子を持つ相手を本能的に選ぶそうなのだと。
「私はそのように考えております。自分と遠い遺伝子を取り込むことで発展してゆく、これがクローディア家の才能の秘密かと存じます」
ケビンさんがにっこりして言う。
「それは……責任重大ですね」
それならば、クローディア家の人はどうやって人を見る目を養うのだろうか?
少なくとも、親が子に教えられる範囲を超えている気がする。
遺伝子レベルで相手を見極めるなんて、それこそ天性の才能だろう。
改めて、すごい家に入ってしまったなと思う私だった。
お付き合い頂いている方々、いつもありがとうございます。完結まであと1話、今日が最後の投稿になりそうです。
登場人物達のこれからを見届けて頂けると嬉しいです。最後までご一緒できれば幸いです。
評価頂いた方々、ブックマーク頂いた方々、リアクション頂いた方々、メッセージ頂いた方、毎回励みになります。
誤字報告も助かります(活動報告でお礼申し上げております)。
いつもありがとうございます^_^