特使10 交渉
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
「ユエ執務官、少しよろしいでしょうか?」
「アレクさん、ではこちらでお話しまショウ」
ユエ執務官は、ヤン殿下の寝室から離れた別室に私を通した。
部屋には彼と私だけだ。
「先程はヤン殿下の側に居てくださり、ありがとうございマス。殿下も落ち着かれて、今は眠っていマス」
「そうですか」
「改めて、ヤン殿下をお護り頂き、ありがとうございマシタ。昭国を代表してお礼申し上げマス。護衛が離れた時を狙われるなんて、こちらの不手際デシタ」
「大事がなくて良かったです。敵に心当たりは?」
「ヤン殿下に敵対する派閥の者とシカ……」
ユエ執務官はいつも通りの受け答えだった。
ヤン殿下の様子を案じているが、襲撃を受けたこの状況については全く焦っていない。
私は昭国付き官吏として、なるべく使節団の方に関わろうとした。使節団の中は2つに分けられる。ヤン殿下の側に侍る取り巻きと、昭国からの同行者だ。
取り巻きはお世話係兼護衛官で、大概ヤン殿下と同じ部屋に居る。一方の同行者は昭国の文官で大概別の部屋にいる。国から派遣された外務担当官吏だからか、ヤン殿下とは距離があるのだ。
私は王宮側の官吏として、出来るだけ分け隔てなく接していたが、その中で感じた違和感がある。
同行者である文官は殿下直属の部下ではないせいか、殿下を軽んじている者がいる。昭国ではヤン殿下はその幼稚な振る舞いから、名ばかりな第一王子なのだとか。
方や、殿下を守る取り巻きは殿下に対して忠義が厚い。ユエ執務官もシャオタイ護衛長も。
そして今回の事件、私は思うところを口にした。
「もう目星は付いていますよね?私達を囮にして、同行者を探っていたのでしょう?」
ユエ執務官は僅かに目を見開いた。
しばらく考えていたようだが、徐に口を開いた。
「どうしてそう思われるのデスカ?」
「殿下の思い付きの行動とはいえ、護衛が離れるタイミングが良すぎます。襲撃の際、近くで備えていましたね?クナイを回収したのも貴方達でしょう?貴重な証拠ですから」
しばらくお互い見合う。
ユエ執務官がため息を吐いた。
「お気付きでしタカ。貴方1人で対処されるとは思いませんデシタ」
「私は護衛ではないので、以後止めて下さい。次は殿下を護り切る自信がありません」
「謙遜デスネ。まだ余裕があったデショウ?
貴方、本当にヤン殿下の臣下になりまセンカ?今より高待遇で迎えマスヨ」
「光栄ですが、お断り致します。
貴方の本当の目的は何ですか?殿下が私を見つけたのも偶然ではないですね?」
「ふ……聞いていた以上の人材ダ。私達は殿下を害する派閥を失脚させる証拠がほしいのデス。同行者の動向を探っていたのもそのためデス」
「目的はそれだけではないでしょう?」
「あとは既に貴方に言った通りデスヨ。『昭国の文化を広める』のが私達特使の役目デスカラ」
「ユエ執務官、教えてもらえないのなら仕方ありませんね。
以前、貴方から申し出のあった『昭国から個人的に便宜を図る用意』の内容を、今提示させて頂いてもよろしいですか?」
「もちろん、アレクさんが協力してくれるなら、昭国として貴方個人に便宜を図りまショウ」
「私からは同行者の全情報を開示、あとこちらの誓約書に同意して下さい」
ユエ執務官に私が作成した誓約書を渡す。
「2つもデスカ?欲張りデスネ」
「そちらの目的2つに対応したものです。ユエ執務官はまだご自分の目的を隠しておきながら、私を欲張りと言うのは心外です」
「ふ……誓約書の内容も興味深イ。良いデショウ。交渉成立デス」
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