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後宮38

お立ち寄り頂きありがとうございます。

こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。

設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。

「セレス嬢、無事に戻ってきてくれて良かったわ」


私はルイーゼ様と2人で王弟妃宮の庭園に立つ。


既に日が暮れているが、王弟妃宮の明かりの届く範囲は、花達が暗闇の中に浮かび上がるように見える。


「ルイーゼ様、ご心配をおかけ致しました」


足元が暗い中で庭園におりるのは気が引けたが、ルイーゼ様が望んだことだった。


「セレス嬢、この度のこと本当にごめんなさい。ビヴィ公爵家が関わっていたと聞いているわ」


最近はルイーゼ様の側に侍っていなかったため、こうやってお話するのは久しぶりだった。


だがルイーゼ様の雰囲気がいつもと違う。


いつもは朗らかなお声が今は沈み、穏やかな雰囲気からは一転して、重々しく人を寄せ付けない空気を纏っているように感じる。


そして終始俯いて、こちらを見ようとしない。


私は今のルイーゼ様の中に、少し前の自分と同じ心の有り様を見る。


「ルイーゼ様は王族に嫁がれた御方。

今回のこととは関係ございません」


「でも、私の実家のことだから……」


「ルイーゼ様と近しい方ではないと伺っております。気に病むことはございません」


「……そうね」


ビヴィ公爵家の者が捕らえられた件は、少なからずルイーゼ様を動揺させた。


成婚の儀が終わるまで公にはされないが、王族には既に報告されている。今回の件は王族にも少なからず影響を及ぼすからだ。


私は拳を握りしめる。

成婚の儀までまもなくというところだったのに。


ルイーゼ様が順調に回復に向かわれている時に、水を差すようなことは避けたかった。


ここで心が不安定になって崩れるようなことになれば……。


侍従と侍女頭は今も、少し離れた場所に控えているだろう。


王弟殿下は公務が終わり次第お見えになる。


私も含めて、皆がルイーゼ様を支える意思に変わりはない。


ならば私も自分のできることをする。

私は無礼を承知で切り出した。


「そうはいっても御実家のことですから難しいことと存じます。

そこでルイーゼ様に、少しお伺いしても宜しいですか?」


「何かしら?」


「ルイーゼ様は自ら、王弟殿下の妃候補に名乗りを上げたのですね?」


「……どうしてそのようなことを聞くの?」


「ルイーゼ様なら分かっているはずです。

御実家は、そして前御当主様は、王弟妃であるルイーゼ様ではなく、ルイーゼ様の幸せを望んでいることを」


「……」


「御実家の、そして前御当主様の意思を継ぐなら、時には切り捨てることも必要です。

ビヴィ公爵家門は多くの家を抱えています。

そしてルイーゼ様は王家に嫁がれた身。

それらの家、全てを背負う必要はございません」



「……なぜ前当主である祖父の意思が分かるのかしら?私ですら、数える程しか会ったことがないのに」


「恐れながら私もお会いしたことはございません。ただ今までに伝え聞いた様子からそのように思い至りました。お祖父様は、ルイーゼ様の幸せを望んでおられたと」


「そうね、祖父は宰相として強引なところがあったけれども、私には優しかったわ」


「ルイーゼ様には婚約者がおられなかったと伺いました。ビヴィ公爵家ともなれば、同じような年頃のご令嬢も何人かいらしたと思います。その方々も婚約者がおられなかったのですか?」


「ええ、孤児院の院長になった彼女も含めて、婚約者を定めていなかったわ」


「当時そのようなご令嬢は妃候補と目されていたとか。

しかし前当主様はルイーゼ様を政略結婚の道具にするつもりはなかった。だから婚約者を定めなかっただけだった。政略結婚させるつもりなら、大貴族のご令嬢が野原を駆けるような自由を与えなかったと存じます。

現に、院長先生には身分を捨てて好きなことをさせる道をお認めになった」


「……そうかもしれないわ」


「同門から妃候補として送り出せるのは1人。

公爵家内部でも候補者争いがあったはず。

ルイーゼ様は望んで参加されたのですね?」


「ええ、私にも婚約者がいなかったから資格があると思ったの」


「院長先生は反対されたのではないですか?

ルイーゼ様にとって妃選びは辛いものになるからと。

御両親も積極的に応援はしなかった」


「そう、だからお祖父様に直接お願いしたの。

私を候補者争いに入れてほしいと」


「その時に前御当主様は何と仰ったのですか?」


「『それがお前の幸せになるのか?』と聞かれたわ」


「前御当主様は分かっていらしたのでしょう。ルイーゼ様が名乗りをあげれば、妃候補になれることを。身分だけではない、ルイーゼ様は妃になるべく努力しておられたのですから」


「私は自分を変えても、殿下の側に行きたかったの。あの日、王宮の庭園でお会いした時からずっと……」


そう、これがルイーゼ様の明確な意思。

この方は穏やかな中にも情熱を秘めている。


そして前当主が願った「ルイーゼ様の幸せ」、

つまり王弟殿下の側にルイーゼ様がいられるようにすること。


「ならばその気持ちのまま、立ち続けるのです。今のように心が揺らいでも、御自分で収められるはずです」


ルイーゼ様は自分の出自が、王弟殿下に迷惑をかけると考えている。そして過去の批判的な意見を思い出され、揺らいでいる。


だがルイーゼ様が自らの意思で立ち続けるのならば、支える者は多い。

打てる手は全て打った。

あとはルイーゼ様次第なのだ。


「それが御実家の意思、亡き前御当主様の意思でもあります」


私はルイーゼ様を見つめる。

ルイーゼ様とは庭園におりてから一度も目が合っていない。


沈黙が続いた後、俯いていたルイーゼ様は視線を上げる。

そして、初めてこちらを見てくださった。


「……そうね、その気持ちがあったから、また自分の足で歩けるようになったのだもの。

やってみるわ」


ルイーゼ様はやっと微笑んで下さった。

しかし、まだ表情に力がない。


「その意気でございます。

しかしながら私は時々は他人に寄りかかるのも、よろしいかと思います」


私はわざと戯けた雰囲気で言ってみる。


「王弟妃が寄りかかっても良いのかしら?」


それを受けてルイーゼ様は少し可笑しそうに言う。


「はい、適任の方をお呼び致しましょうか?」


私はルイーゼ様に目配せしながら言ってみた。

すぐ近くで、心配そうな顔をしてこちらを覗いている御方を見つけたからだ。


「うふふ……今回はいいわ。

自分でお願いしてみるから」


ルイーゼ様は私のサインに気付いたらしく、いつもの朗らかなお声で笑った。


私は静かに御前を下がる。


ルイーゼ様が王弟殿下の方に歩み寄る。

王弟殿下もルイーゼ様を迎え入れた。


たぶん今のルイーゼ様なら大丈夫。


ルイーゼ様を立ち直らせるのは、いつだって王弟殿下の存在なのだ。


市井で流行っている小説も侮れない。

「妃の呪いを解くのは王の真実の愛」だなんて、案外真実を語っているのかもしれないなと思った。

お付き合い頂いている方々、いつもありがとうございます。

完結まであと7話、登場人物達のこれからを見届けて頂けると嬉しいです。最後までご一緒できれば幸いです。


評価頂いた方々、ブックマーク頂いた方々、リアクション頂いた方々、メッセージ頂いた方、毎回励みになります。

誤字報告も助かります(活動報告でお礼申し上げております)。

いつもありがとうございます^_^

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