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後宮35

お立ち寄り頂きありがとうございます。

こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。

設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。

「ジーク隊長、アレなんすかー?

あの、船の上のやつ」


「あー、あれは船が出航する前に航海の安全を祈る儀式だ。あの白い服で棒を振ってるのが神官みたいなもん」


「へえー、隣にも白い服の奴がいますよ。

体格からして女の子かなー?」


「めずらしいな。船乗りは男ばかりだから」


神官は祈りが終わったのか、海に向かって頭を下げている。それに合わせて、船員らしき男達も頭を下げている。


「あれ?

何か白い服の女の子が歩いて行きますよ。

危なくないですか?」


白い服を着た女の子は船首に向かってゆっくり歩いてゆく。

船首の先は海だ。確かに危ない。


「うん?儀式か何かか?」


風に煽られ、白い服が風に飛んで行く。

現れたのは黒い服、スカート姿、あの服装どこかで見たな……。

少なくとも異国の服ではない。


あれは確かに女の子だ。

彼女はくるりと後ろに向きを変える。

海を背に船首に踵をつけて、神官達の方に向き直る。

手を縛られているのが見えた。


「おい、あれは王宮の侍女の服だ!

何で他国の船の上にいるんだ⁈」


船首のギリギリに立ち、神官や船乗り達の方を見る姿が妙に存在感があり、遠くからでも目を引く。


神官や船乗り達は動かない。

皆の目が彼女に釘付けになっているかのようだ。


他方、港にいる他の奴らはザワザワしている。儀式にしては、何かがおかしい。


すると彼女は一歩後ろに下がる。

彼女の体が船から離れる。


「あっ!」

「えっ⁈」

「わー‼︎」


同じように港で見ていた奴らが一斉に声を上げる。


彼女の身体は海に落ちた。



✳︎



水の中に入った時は、覚悟していたとはいえ冷たかった。

思った以上の衝撃で意識が飛びそうだったが、無事に着水できたようだ。


昔、川に飛び込んだ時を参考にした。

足を揃えて着水面を小さくして、足から入水すれば怪我が少なくて済むはず。


あの頃は森が遊び場で学舎だったな。

両親のフィールドワークの間とはいえ、よく自由を許してくれていたものだと思う。

お父さんとお母さんは、今思えば貴族らしくない人達だった。


悲しくなるからあまり両親のことは思い出さないようにしていたけれど、こんな時に思い出すなんて不思議。


船首から海面までの高さが思ったより低くて助かった。

あとは着衣が濡れて重くなるので、無闇に動かずに静かにしていれば体は海面に浮かぶはず。


無事に海面に出た私は近くの岸を目指す。

手を縛られていたから、自分では海から上がれない。

近くにいた人に引き上げられ、なんとか一息吐いたところに聞き覚えのある声が届く。


「おいっ、大丈夫か⁈」

「まさか、嬢ちゃん⁈」

「え?ほんとに、お嬢なん⁈」


「ジーク隊長、皆さん、ちょうど良かった。

ちょっとお願いしたいことがあるのですが……」




✳︎




日が暮れた。

私は商館の一室にいる。


部屋には鍵がかけられているので、いわゆる監禁状態だ。


商館というのは港にある商いをするための場で、いわば我が国の海路の貿易拠点だ。交易品の売買や各国の情報収集は商館で行われ、海路での外交窓口でもある。


海運は古くから民の力で発展してきた側面が強い。そのため商館は国としても非常に重要な場所だが、王宮が掌握できていない。

未だに密輸や密航が成功するのは、王宮が管理しきれていないからだ。


基本的に中立地帯である商館には、私のような訳あり物件も収納される。


船から海へ落ちた私を見て、港の中は騒ぎになった。他国の船に王宮の侍女の制服を着た女が乗っていたことが明らかになったのだから、港の管理者としては確認が必要と判断されたようだ。


そうなるようにジーク隊長に頼んだ。


ジーク隊長は私を案じて、商館の管理者に色々取り計らってくれた。海に落ちて冷えた体を湯に浸からせてくれたり、濡れた服の代わりに着るものを用意してくれるように頼んでくれた。


おかげで監禁されているとはいえ、割と快適に過ごしている。

商館にいるお姉様方にも良くしてもらい、縄が擦れて傷になった部分の手当もできた。

お姉様方の趣味で多少着せ替え人形にはなったけれど、その間に情報が聞けたので良しとする。


私が乗っていたのは、昭国に向かう船だった。

預けられた私のことを、船員達は詳しく知らなかったようだ。


やはり私を攫ったのはビヴィ公爵家の者の仕業だと確信する。一連の手際は後宮内に伝手がないとできないし、もともと昭国にパイプを持っていたビヴィ公爵家でないと、昭国の船に私を乗せるところまではいかないだろう。



おそらくエダ様達は無事だ。

ビヴィ公爵家の者の仕業なら、エダ様達には口封じとして圧力をかければ良い。彼らを船に乗せる必要はないはず。王弟妃宮の主要使用人が複数いなくなったら大きな騒ぎになるからだ。


また船に他に拘束されている人がいた可能性も考えたが、それは低いと思う。他に拘束されている人がいればまとめて管理する方が効率的だ。


この時点で、狙いは私1人だと仮定する。

1人なら、私の動き次第で状況を動かせる。


他方、私が香工の儀式に同席させられたのは、おそらく私の緑の瞳がめずらしいからだと思われたのではないかと考える。


めずらしいものや希少なものは、航海において縁起物らしい。


以前ニール教授から、めずらしい猫の話を聞いたことがある。我が国にはいないミケネコという猫は遺伝子的にオスが生まれにくいらしく、いわば希少な存在らしい。


そのため航海の際に希少なミケネコのオスを乗船させ、航海の安全を祈るとともに道中の危険を察知させるとか。もともとネズミ対策のために猫を乗せているのかと思っていたが、船の守り神としても重用するそうだ。


私は昭国の船乗りにとってミケネコのオスのようなものなのだろう。

そういえば、ヤン殿下も私の緑色の瞳を気に入っていたな。





そんな事を考えていたら、足音が近付いてきた。

しかも複数。


待ち人だろうか?


ガチャガチャ

ギイ


扉が開いて、3人の男が入ってくる。

うち2人は王都で私の後をつけていた者だ。もう1人は昭国の人のようだ。



「これで間違いない。早く連れて行け」


私の顔を見るなり、男が言う。

王都で私の後をつけていた男だ。


「確かにめずらしい瞳だが、本当に献上品にして問題ないノカ?」


昭国人が言う。


「既に話は通っている」


私の後をつけていたもう1人の男が言う。


どうやら私のことを言っているらしい。

なるほど、私は献上品か。




でも良かった。

ここまで来てくれた。

騒ぎを起こした甲斐があったというもの。





「私は誰に献上されるのですか?」


私はゆっくり立ち上がり、昭国人に向き直る。

そしてゆっくりとした口調で問う。


存在感を示せ、

一時的で良いから場を支配しろ。


「……」

3人は少し驚いた様に息を呑む。


「昭国のどなたに献上されるのですか?」


昭国人の目を見据えて、微笑む。

隙を見せない様に、余裕がある様に敢えて振る舞う。


「……」


男達は何も答えない。

まさか献上品の小娘に、こんなことを聞かれるとは思わなかったのかもしれない。


「先に申し上げますが、あの方はそれを望んでおりません。関わった者は皆、処罰されるでしょう」


私はあくまで昭国人に言い聞かせる。

彼の心の中にある疑念に触れる。


「他の方に献上した場合も同じ。献上した者も、された者も、全て処罰される。

あの方は決して許さない」


疑念を増幅させる言葉を選ぶ。


「そんなリスクを背負う義理があるのですか?」


「戯言だ!騙されるな」

王都で私をつけていた男が、横から口を挟む。


「この人達はあの方の力を知らないのです。

あの方に会うこともできない下っ端なのですから」


私はそれを横目で見ながら、ゆっくり続ける。


「このっ!」


男の振り上げられた手を、私はわざと左手で払う。相手の手が私の腕輪に当たるようにした。アクセサリーはこういう使い方をすると、相手に多少痛い思いをさせられる。


「この腕輪は王宮魔術師につけられた物だと知っているでしょう?私の居場所は把握されているのですよ」


「ま、魔力を感知するものだと聞いたぞ」


「それを鵜呑みにするなんて、貴方達に指示を出した者は短慮なことをなさいましたね」


私は男達に向かってゆっくり近付く。



「レイ!」


忘れるはずもない声に身体が止まる。

入り口を見ると長身の男性がいた。

銀色の髪が乱れている。


「……ユリウス様」

1人の視点ですので情報が偏っています。


お付き合い頂いている方々、いつもありがとうございます。

完結に向けてあと十数話、最後まで見届けて頂けると嬉しいです。


評価頂いた方々、ブックマーク頂いた方々、リアクション頂いた方々、メッセージ頂いた方、毎回励みになります。

誤字報告も助かります(活動報告でお礼申し上げております)。

いつもありがとうございます^_^

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