後宮33
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
気がつくと薄暗い部屋だった。
私は床に転がっている。
身体が動かない。
頭がくらくらする……。
この薬品みたいな匂い、何処かで……。
あー、王立学園で退学手続きした後にされたことと同じ手口か。あのドロール家の別荘に連れて行かれた時だ。
意識が覚醒した私は手元を見る。
縄で手首を縛られている。
ドロール家の時は後ろ手で縛られていたけど、今回は前で縛られている。外せそうにないけど、後ろ手よりはマシかな。
足も縄で縛られている。
周りを見回す。
木箱が沢山ある薄暗い部屋だった。
他に人はいない。
なんだか時折りゆらゆらする。
地面が覚束ない感じだ。
それに合わせて、ギシ、ギシと建物が音を立てる。
なんだろう、この感じ。
それにこの部屋、少し息苦しい。
身体を起こして周りを観察する。
手が前側で拘束されているから、身体を上手く使えば少しくらい移動できそう。
壁や床、木箱を順に確認する。
什器や木箱が、壁や床にきちんと固定されている。
小さな窓が1つあるので、私は近寄る。
見上げた窓は何だか家の窓とは違う印象だ。
物が置いてあるから倉庫かと思ったけど、もしかしてここは船の荷室かもしれない。
船の窓は気密性が高くて、部屋の中のものは全て壁や床に固定してあると本で読んだ。
仮にここが船の中だとすると、ここは港の可能性が高い。今は時折りゆらゆらするだけだが、海上に出れば揺れはこんなものではないだろう。
港……ならジーク隊長がいる!
今は各国の船が来ている時期だと言っていたな、と思い出す。
私は記憶が途切れる前を思い出す。
手紙で呼び出されて、馬車でエダ様を見つけた。
その後気付くと此処にいた。
エダ様は意識がなかったが、大丈夫だろうか?
侍従達と一緒に王立大聖堂に下見に出られて、2時間は経っていただろう。馬車で移動していただろうから、大聖堂に着いてから何かあったか?
侍従とベテラン侍女も一緒だったはずだが、彼らは馬車にはいなかった。他の人が一緒でないのは、エダ様だけ狙われたのか?
エダ様と一緒に行ったはずの2人が仕向けた可能性を考えたが、それは低いだろう。
彼らは人柄も良く、またルイーゼ様が幼い頃から使える忠臣だ。ルイーゼ様の大事な時期にこのような荒事は計画しない。
ならばやはり後宮の外にいる人の仕業だ。
私に知らせる方法から考えても、王弟妃宮には入れない者。
当初考えていた通りビヴィ公爵家の別派閥の仕業だとすれば、エダ様達の身は無事な可能性が高い。
彼らは同門だ。手駒にしても、命を奪うような真似はしないはず。
そして私も殺される可能性は低い。
殺すなら今までいくらでも機会はあった。
利用価値があるから生かして捕らえられている。
私の利用価値は何?
私個人で持ち得るものなんて……。
私はドレール領での一件を思い出す。
港に集められた、長い黒髪の女性達……。
もしかして、昭国ブームに乗って私を出荷することが目的?
でも一体どこへ……?ドレール領の時に企みを潰したが、隣国あたりだろうか?
だとすると、船が出航すればアウトだ。
私はゆっくり息を吐く。
おそらく、船が出航するまで日にちがないのだろう。
そうでないなら、こんな強引な手は使わない。
王弟妃宮だって、侍女がいなくなれば探す。
侍従と侍女頭が不在だから捜索指示は遅れるだろうが、騒ぎにはなる。
だから捜索の手が港に伸びる前に、船が出てしまえばいいのだ。
すると、もって数日というところか。
その数日間に状況を打開するしかない。
魔法が使えない私には、何ができるだろうか?
手足が拘束されているし、時間がなかったから大したものは持ってきていない。
あの手紙とエダ様の髪留めは王弟妃宮に置いてきた。
相手が宮に入れない者ならば、手紙は簡単に処分はできないはず。証拠になり得るし、ビヴィ公爵子息もいるのだからきちんと探してくれる。
船が出航するまでにまだ時間はある。
今は落ち着いて、情報を集めよう。
私は左手の腕輪を見る。
たぶん、来てくれる。
でも、本当は来てほしくない。
彼には危ないところに来てほしくないのだ。
いつもなら自分の身を守るために集中できるのに、めずらしく集中できない。
自分以外のことを考えてしまうからだ。
彼のことだけではない。
私は自分以外の何かを守ろうとしている。
ルイーゼ様、王弟妃宮の人達、ビヴィ公爵家……。
しかしそれは自分の身を自分で守れないと叶わないこと。
それは分かっているのに、どうして他の人のことを考えてしまうのだろうか?
嗚呼、そうか。
お父さんとお母さんはこういう気持ちだったのか……。
私は両親の最期の想いに、やっと寄り添えたのかもしれない。
誰かを守りたい気持ちは、理屈ではないのだな。
頭では分かっていても、ようやく心で理解できた瞬間だった。
1人の視点ですので情報が偏っています。
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完結に向けてあと十数話、最後まで見届けて頂けると嬉しいです。
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