後宮32
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
数日後、ビヴィ公爵閣下の秘書官から王弟妃宮に連絡があった。
成婚の儀の出席にあたり「成婚の儀の会場の下見ができる」とのことだった。
成婚の儀の会場は王立大聖堂。
ステンドグラスの装飾が素晴らしい、この国一番の聖堂である。
王立大聖堂にはシルフィーユ様の結婚式の時に訪れた。歴史のある建物で、王族や高位貴族の結婚式は、ほとんどこの聖堂で行われる。
かつて王弟殿下とルイーゼ様もこちらで式を挙げられた。ルイーゼ様にとって馴染み深い場所でもあるようだ。
ルイーゼ様が訪れた当時から建物内がほとんど変わっていないとはいえ、今の状況に応じて足元の状況を確認しておく必要があると感じていた。
私は侍従から、大聖堂に下見に行くメンバーを相談される。
本当なら私も自分の目で確認したいところだが後宮から出ないと決めている。
侍従には「成婚の儀の当日にルイーゼ様に侍るメンバーで下見に行かれてはどうか」と返答した。
成婚の儀の会場の下見の日、侍従と侍女頭エダ様、及びベテラン侍女1人が王立大聖堂に出向かれた。
侍女頭が不在の間は一番年季の長い侍女が侍女頭代理として、王弟妃宮を取り仕切ることになっている。
王弟妃宮の使用人はルイーゼ様のトレーニング班と宮の運営班に別れて仕事に当たる。
私は宮の運営班で、掃除担当だ。
掃除の中でも今は使われていない部屋を担当するのは、新米侍女の仕事である。
ルイーゼ様の主催した茶会の後から、私はルイーゼ様を担当する回数をだんだんと少なくした。
ルイーゼ様には、もう私がいなくても大丈夫だ。
そして私はいずれは宮を辞す身。
そのためルイーゼ様の周りは、王弟妃宮の使用人だけでルーティンを組むように調整している。
最近の私は宮の掃除などをしながら、ルイーゼ様を少し離れた場所から見守っている。
王弟妃宮として成婚の儀に出席するための準備は順調に進んでいる。また私が関わっていた部分の調整は終わっている。そのため私は新米侍女として仕事に励むことにする。
まもなく担当部分の掃除が終わるという頃、窓に何かコツンと当たる。
何だろう?
窓を開けて確認すると、紙が丸めて落ちていた。
周りには誰もいない。少なくとも見える範囲には。
拾い上げて紙を広げる。
「!」
紙に包まれていたのは、見覚えのある髪留め……侍女頭エダ様の物だ!
そしてクシャクシャになった紙には次のように書いてあった
『今すぐ後宮外門を出て馬車に乗れ。
誰かに言うと持ち主の身の安全は保証できない』
心がザワっとした。
エダ様は無事なのだろうか?
しかし今は確かめる術がない。
髪留めはエダ様の物だと分かるが、今日身につけていた物かどうかはわからない。
このメッセージを届けた者はまだ近くにいて、私の動向を見張っている可能性もある。
怪しまれるような動きをしたり、対応するまでの時間を長引かせると、指示に従う意思がないと見做されエダ様に危害が及ぶ可能性もある。
私に選択肢はない。
後宮外門に向かうしかないか。
私は急ぎ王弟妃宮を出る。
本来なら外出届けがないと出られない後宮外門も「急ぎの届け物のため、王立大聖堂に行ってきます」と言えば通してくれた。
今日は王弟妃宮から王立大聖堂に使用人が出向く旨の届け出がなされていたからだ。
周囲に気を配りながら後宮外門を後にする。
離れた所に馬車が停まっていた。1台かと思いきや2台並列で止まっている。奥の馬車は隠れていて見えなかった。
近付いていくと御者に「あんたがお客さん?」と言われた。
私が頷くと「どっちの馬車に乗るの?」と聞かれた。
どちらにしようか迷った私は窓を覗き込む。
奥に止めてある馬車の窓を覗くと、座席に誰かが横になっているのが見えた。
王妃宮の侍女の制服を見て、急いで扉を開ける。
座席にはエダ様が横になっていた。
「エダ様!」
私は駆け寄る。
急いでエダ様の様子を見る。
外傷はなさそう。
意識はない。
「エダ様!エダ様!」
私はエダ様の名前を呼びながら肩を叩く。
もし頭を打って意識かないようなら、揺さぶるのは危険だ。
エダ様の顔を覗き込もうとした瞬間、鼻と口に布が押し当てられた。
急に意識が途切れた。
1人の視点ですので情報が偏っています。
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