後宮31
お立ち寄り頂きありがとうございます。
こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
成婚の儀まであと1か月、
王妃陛下の提案の通り王妃宮で茶会が催された。
招待されているのはルイーゼ様、王太子妃、第二王子の婚約者ミア様。
成婚の儀を前に、ミア様の緊張を解そうという趣旨らしい。
これもクローディア公爵夫人を通じて、王妃陛下に提案していたことだ。
ルイーゼ様が他の王族の女性達と親交を深めることで、成婚の儀に臨む前に、そのハードルを少しでも下げるために設けた。
他方、王妃陛下には後宮のトップとして存在感を示してもらう。
今までの後宮は、それぞれの宮ごとの繋がりも希薄な印象だった。
特に王弟妃宮はルイーゼ様の不調もあり、外部の情報を意図的に遮断していたので孤立していた。
しかしこれからの後宮は、名実ともに王妃陛下が長として王族の女性達を束ねていく。
そのための手段として、手始めに茶会を開催する提案をした。
もともと王太子妃とミア様は姑にあたる王妃陛下の召集に応じるはず。あとはルイーゼ様が出席すれば、場が成ると考えていた。
ルイーゼ様は屋外も介助なしで歩けるようになってきた。足元のふらつきも少なくなり、かなり長い距離を歩くことができるようになっている。
だから王妃宮へ足を運んで茶会に参加するのは、公務復帰を前に良い予行練習になる。
茶会には侍女頭とベテラン侍女が付き添うが、私も王妃宮まで同行した。
ルイーゼ様の歩く様子を確認するためだ。
王妃宮と王弟妃宮は宮同士の距離が近い。
しかも道が舗装されていて、段差も階段もなく歩きやすい。
ルイーゼ様は問題なく歩けているように見えた。
ただ帰り道は体力の問題もあるので、念の為杖や車椅子を用意しておくことにする。
茶会が終わって出て来たルイーゼ様は楽しそうな様子だった。
ただ、やはりお疲れはあるようだ。
帰り道は練習と称して、杖を使ってもらう。
疲れている時は注意が散漫になって、新たな怪我に繋がりやすい。
王弟妃宮に着いたルイーゼ様は使用人達を集めた。
そして少し興奮気味にお話される。
「王妃陛下のご提案で、この度、後宮外庭に市が立つことになったの。第二王子成婚の祝いとして成婚の儀の1か月後に3日間、王都の商会や商人が選りすぐりの品を持ち寄るそうよ」
後宮初の試みに使用人も驚く。
今までわざわざ王都に買い物に出ていた店が後宮に来てくれるのだから、買い物好きな侍女達はお祭り騒ぎになる。
この話は瞬く間に後宮中に広まり、後宮は第二王子の成婚お祝いモード一色になった。
詳細はもう少し詰めなければならないが、概ね予定通りだ。
これもクローディア公爵夫人を通して、王妃陛下に提案していたこと。闊達で、新しい試みに抵抗のない王妃陛下なら乗って下さると踏んでいた。
そしてニコライさんと話していた件でもある。
後宮で働く200人強がお客様になる新しい市。
今回成功すれば、定期的に開催する道もある。
商人としては、王宮で働く使用人を新しいお客様にできる機会になる。気に入ってもらえれば王都の店に客として来てもらえる。
王宮の使用人は身分の明らかな者ばかり。つまり王宮の厳しい審査をクリアして雇用された人達だ。貴族の家に仕える使用人にとって、彼らは一目置く存在なのだ。
その王宮の使用人が通う店なら、その使用人達が使う商品なら、貴族の家の使用人も興味を持つ。
上手くすれば、使用人の間で流行を作ることも可能だと考える。
つまり王宮と貴族の家の使用人達を、戦略的ターゲットにした市場を獲得できる。
一方、後宮に出入りできる商会や商人の資格審査を適正なものにしたので、市に参加できるとすれば新規に資格を取得する商会や商人も増える。
後宮の管理側としては、優良な商会や商人を集められる。
市に出店する場合に参加費を徴収すれば、運営コストを抑えられる。
さらに市の売上規模が大きくなれば、後宮として売上高に応じた取り分を求めることで、後宮の設備費等に当てられるかもしれない。
他方、商会や商人の参加規模が大きくなれば、より多くの良質な商品が集まる。今までの後宮は、限られた商人から限られた商品を買うしかなかった。
後宮にいる人に購買の選択肢を増やして、商会や商人には自由競争を促す。
許可なく後宮の外に出られない使用人達に、後宮内で新たな娯楽を提供できる。定期的に開催できれば、使用人達のモチベーションに良い影響をもたらすかもしれない。
そしてそれを王妃陛下主導で成功させることに意味がある。
ここは後宮、王族の女性達の住まう場所。
ならば、王族の女性の長によって統べられるのが相応しい。
そのために王妃陛下には、後宮にいる者全てを掌握して頂く。
今後宮にいるのは正妃ばかりだが、この先側妃を迎えることもあるだろう。その時に秩序がある方が混乱は少ない。
そうすれば王妃陛下が考える後宮の形に、自ずと変化してゆくだろう。
王宮の男性によって作られた鳥籠でも、その中で暮らす女性達に自由があって良いと思う。
たとえそれが鳥籠の中だけでも、
限られた自由であっても、
自分達の生きる場所はここだと、思える場所であってほしいと思う。
後宮という鳥籠を作った王宮でさえ、自由などない。未だ男性社会である王宮は競争は当たり前、勝ち続ける者が居続ける場所だ。
そのあからさまな争いから女性を守ろうと考えた末に後宮を作ったのだとしたら、
誰かが誰かを守ろうとする意思が交錯してこの世界が作られて、結果それが何かを縛ってしまう。
「安全」「安心」を担保するための社会の明確なルール、
礼儀やマナーで他人を害しない意思を表す暗黙のルール、
縛られて限られた範囲でもいいから自由を求めて、
行き着くのは自分の認識する世界だ。
自分の居場所、
自分の生きる場所は此処だと定めた場所。
そこで自分らしく生きられるならば、
それを自由だと思えるのではないかと思っている。
✳︎
私が動かせる盤上の駒はここまで、
盤面は悪くない。
あとは然るべき結果を得るために、粛々と進めるだけだ。
今からは私自身も駒の一つに戻る。
そして自分に期待されている役割をこなすだけ。
辛抱強くお付き合い頂いている方々、いつもありがとうございます。レイの描いた盤面もやっとここまできました。これからは終盤に向けて話が進みます。
完結に向けて、見届けて頂けると嬉しいです。
評価頂いた方々、ブックマーク頂いた方々、リアクション頂いた方々、毎回励みになります。
ありがとうございます^_^