後宮30
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
「ルイーゼ様、順調に歩く距離を伸ばされていますね。身体のお痛みはいかがですか?少しでも違和感のある部位があれば教えて下さい」
訓練の後に問診をして、ハリのある部位をストレッチで解す。そこから翌日の訓練で修正する部分を確認する。
ルイーゼ様は幸い強い痛みも出ず、また段々と体力が戻ってきていた。
訓練は思いの外順調に進んでいる。
素人の私が差配するので心配していたが、侍医も付いているし、ルイーゼ様の事をよく知る使用人もいる。
訓練のことを教えてくれたジーク隊長も手紙でアドバイスしてくれるし、何よりルイーゼ様が努力されていた。
第二王子殿下の成婚の儀まで、あと2か月。
ルイーゼ様は今や室内を介助なしで歩くことができるようになり、そろそろ屋外の訓練も取り入れる時期になった。屋外は室内よりも足場が悪く、また体力も使う。
屋外の訓練が進めば、第二王子殿下の成婚の儀に出席するための現実的なトレーニングになる。
私は密かに気合いが入っていた。
並行して、私は侍従と侍女頭に成婚の儀に向けて色々相談している。
慣例を損なわないが機能的なドレス、足に負担の少ない靴、さらには足の機能を補佐する装具等だ。
室内で使う服や靴は侍女達と相談したが、国儀となると作法に詳しい侍従と侍女頭が頼りだ。他の妃との関係もあるので、準備が難しい。
さらに足の機能を補佐する装具として、杖を準備しようと考えていた。
領地では木の棒を杖にして歩く老人がいたが、王都では杖を使用している人が少なかった。おそらく石作りの路面が滑って、杖が突き難いのだろう。
私は路面が滑らない様に工夫し、かつ儀式でも使用できる格式高い装飾の杖を製作したかった。
ビヴィ公爵家の協力で杖の製作も進み、商会を通じてドレスの製作も進んでいる。
王弟妃宮も第二王子殿下の成婚の儀に向けて忙しくなってきた。
✳︎
その日、王弟妃宮は朝からバタバタしていた。改修後の王弟妃宮に、初めてお客様を招くからだ。
私はルイーゼ様につかせて頂き、軽めの訓練に付き添う。
ルイーゼ様も緊張していると思うが、なるべく日々のルーティンは変えずに過ごすことで平常を保ってもらう。
「ルイーゼ様、昨日までのご自分を信じて、今日を過ごしましょう」
「うふふ……セレス嬢には、私の欲しい言葉がわかるのかしら?」
「王弟妃宮の皆様にはまだまだ及びません」
「貴方が宮に来てから、色々なことが変わったわね」
「例えば、どのようなことを変わったとお感じですか?」
「色々ありすぎて、話しきれないわ」
ルイーゼ様がクスクスと笑う。
最近のルイーゼ様は生き生きとして眩いばかりだ。
「では一番驚いたことは何ですか?」
「それはもちろん、私がこうして自分の足で歩いていることね。数ヶ月前までは車椅子で移動していたのに」
「確かに、大きな変化ですね。
では一番嬉しかったことは何ですか?」
「それは……自分の足で歩けるようになったこともそうなのだけど……、
王弟殿下と一緒に居られる時間が長くなったことかしら。今は毎日お会いできるなんて、以前の私からみれば夢のようだわ」
「それは嬉しい変化ですね。
『嬉しい』といえば……王弟殿下とお話する時は今も『嬉しい』ですか?それとも今は他の感情に変わられましたか?」
「そうね……『嬉しい』もあるけれど、今は『楽しい』かしら。殿下からも色々お話下さるようになって、一緒にいるとあっという間に時間が過ぎてしまうわ」
「ルイーゼ様、それは王弟殿下と心の距離が近付いたからではないでしょうか?」
「心の距離?確かに以前よりも近くにいられるとは思っているけれど」
「お互いのことを理解しているからこそ、お近くにいられるとお感じなのでは?」
「そうかもしれないわ。殿下が色々お話下さるようになって、私は殿下のことをもっと知ることができたもの」
「それらは全てルイーゼ様の努力があってこそです。
ご自分で歩けるようになったこと、王弟妃宮が変わったこと、王弟殿下との距離が近付いたことの全ては、ルイーゼ様のお力なのです」
「私、そんなに色々なことをしたのかしら?」
「はい、全てルイーゼ様ではないとできないことばかりです」
「私はそんな風に思っていなかったわ」
「そこがルイーゼ様の魅力の1つでもあります。
どうぞ、今日いらっしゃる方と、今のままのルイーゼ様でお会いになって下さい。そして王弟殿下とお話する時のように、ありのままのお気持ちをお伝え頂ければと存じます」
先ぶれがあり、その日の午後、王妃陛下が王弟妃宮にお見えになった。クローディア公爵夫人を伴い、侍女を2人連れている。
「ようこそおいで下さいました、王妃陛下、クローディア公爵夫人」
「ルイーゼ、見違えるようになって……」
王妃陛下は挨拶もそこそこに、ルイーゼ様に近付いて手を取る。
王妃陛下がこのような行動に出るとは思っていなかった私は驚いたが、クローディア公爵夫人の顔を見ると全く動揺していなかった。
王妃陛下はもともと親しい人に対して、このような一面をお持ちなのだろう。
ルイーゼ様はサロンに王妃陛下を案内し、クローディア公爵夫人も交えて3人で茶会をする。
サロンの中には侍女頭とベテラン侍女、王妃宮の侍女2人が入り、私はサロンの外で待機する。
サロンからは時折り笑い声が聞こえ、和やかな雰囲気が伝わってくる。
あくまでルイーゼ様が茶会のホストだが、クローディア公爵夫人がいるから場を上手にコントロールできるので、茶会の成功は見えていた。
今回の茶会は、ルイーゼ様に社交を通じて自信を取り戻してもらうためのもの。
成婚の儀という公務に臨む前に、そのハードルを少しでも下げるために場を設けた。
クローディア公爵夫人を通じて、王妃陛下に内々で話を進める。王妃陛下は二つ返事で承諾したそうだ。
侍女頭と侍従にも話を通した上でルイーゼ様のご様子を見て提案し、本日の開催となった。
ルイーゼ様に自信を取り戻してもらうと共に、王妃陛下のわだかまりを解消できれば良いと考えた。
この先、公務でルイーゼ様のお力になれるのは王妃陛下だけだ。お2人の関係が良好ならば公務に戻りやすい。
茶会は恙なく終わった。
王妃陛下は別れを惜しみ、次は王妃宮で茶会をしようと提案された。
ルイーゼ様は笑顔でそれを応えられた。
その様子を見て、私はルイーゼ様ならもう大丈夫だと思った。
ルイーゼ様自身の力を取り戻されている。
あとは周囲がお支えすれば、この先も大丈夫。
私はいずれ王弟妃宮を去る。
その準備を始めることにする。
辛抱強くお付き合い頂いている方々、いつもありがとうございます。レイの描いた盤面もやっとここまできました。これからは終盤に向けて話が進みます。
完結に向けて、見届けて頂けると嬉しいです。
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