後宮29
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
私が後宮に来てまもなく3ヶ月経つ。
ルイーゼ様は今日も訓練を頑張っていらっしゃる。
筋力トレーニングにも根をあげず、結果膝にかける加重を増やして、体重相当の力をかけられる様になった。
その成果もあって、歩行訓練では手摺りに掴まりながら毎日少しずつと距離を伸ばしていく。そして今は手摺りさえあれば、ご自身の生活圏内は介助なしで移動できるようになった。
これからは手摺りを使わなくても歩けるように、少しずつ距離を伸ばしていく。
ルイーゼ様の周りは主君のことをよく理解している人ばかりなので、情報共有しながら彼らの意見を取り入れた。
「ルイーゼ様は真面目で根をつめることがあるので、なるべく楽しく取り組んでもらえるように心掛ける」など、ルイーゼ様と付き合いの長い彼らの意見は貴重だった。
彼らのアイデアもあり、ルイーゼ様の衣服や訓練の環境が整っていく。
侍女達は日々、ルイーゼ様の身体と心を解す作戦を実行している。
訓練後のストレッチや入浴時のマッサージで身体を解して疲れを残さないようにする。
訓練以外の時間はルイーゼ様に肌触りの良い楽な衣装を準備し、身体を楽にして過ごして頂く。
食事はタンパク質を積極的に取り入れる等工夫し、安眠できない時はリラックス効果のあるアロマを焚いたりする。
いくら訓練が順調でも、ルイーゼ様の気持ちが落ち込む時もある。王弟殿下はルイーゼ様を良く理解し、寄り添い続けた。
私達もルイーゼ様が出来るようになったことを可視化し、自信を持ってもらうように努める。
この段階までは王弟妃宮に外の情報をわざと入れないようにしていた。訓練に集中したかったからだ。
しかし第二王子殿下の成婚の儀まで後3か月となると、そうもいかない。
私は侍女頭と侍従に相談の上、王弟殿下とビヴィ公爵閣下と侍医が揃った場でルイーゼ様に尋ねた。
第二王子殿下の成婚の儀に出席されるか否かを。
ルイーゼ様は不調になられてから、叙勲祝賀会以外の公務を休んでいる。
もちろん成婚の儀は国の行事なので王族として出席の義務はあるが、久しぶりの公務が一大行事というのも荷が重い。
ルイーゼ様が元のように歩けるようになることを目的とする以上、無理して出席すればまた不調に転じるリスクもある。
ルイーゼ様は少し考えた末、隣に座る王弟殿下の手を取り、静かに口を開いた。
「私もライオール殿下の成婚を祝いとうございます。王弟殿下と一緒に成婚の儀に出席致します」
「ルイーゼ、ここで無理をすることはないのだぞ」
王弟殿下が気遣うように、ルイーゼ様の手にご自身のもう一方の手を重ねる。
「私が殿下と共に王族の責務を果たしたいのです」
これを受けて、王弟妃宮の当面の目標は「第二王子殿下の成婚の儀に出席すること」に決まる。
王弟妃宮はルイーゼ様の訓練と並行して、儀式出席の準備をする。
本来なら最低半年前から準備に入るのだが、残りの時間で間に合わせる。
といっても、出席することを想定して内々に準備をしていたので、それを現状に合うように再調整する。
ビヴィ公爵閣下は秘書官を通じて公務を調整する。
ルイーゼ様が基本的に座って公務に就ける様に、なるべく歩く距離を短くできる様に、公務がなるべく負担にならない様に調整する。
王弟殿下にはルイーゼ様となるべく一緒にいてもらう。ルイーゼ様は公務に臨む気持ちはあっても、不安は拭えない。
王弟殿下自身も成婚の儀に向けて公務が増える時期なので、日中時間が取れない分、お2人は夜を一緒にお過ごしになるようになった。
✳︎
「頼まれていた本を持ってきたぞー」
ビヴィ公爵子息が台車を押してやってきた。
「わっ!ビヴィ公爵子息、ありがとうございます。王弟妃宮までお持ち頂き、とても助かりました。
公爵子息にこの様な真似をさせてしまい、申し訳ありません。次からは私が後宮外庭まで取りに伺いますので」
最近、私はビヴィ公爵子息に対して素直に応対するようになった。
ビヴィ公爵子息が遣わされて以降、後宮の維持管理や警護に関して仕事の質が変わってきている。ニコライさんによると外部からの評判も良いとのこと。
彼は仕事をきっちりこなして、さらに周囲に気遣いもできる。官吏としても尊敬できる人だと認識した。
彼の人となりのおかげでビヴィ公爵家に対する気持ちが変化したので、敬意を持って接するように努める。
「君は各所との調整で忙しいと聞いている。
これくらいは構わない」
「ありがとうございます。正直助かりました」
私はきちんと礼をする。
私がきちんと礼を尽くすと、相手からも返されることがある。ビヴィ公爵子息は少し照れた様に言った。
「聞いたよ。まさか本当にルイーゼ様が歩けるようになって、公務に復帰される日が来るとはな。君には感謝している」
「ふふ……その言葉はまだ早いかもしれませんよ?あと3か月で状況はなんとでも変わりますから」
「そうだな。しかしこの量の資料を一体どうするのだ?」
「頭に入れて、今後の訓練や準備に使います」
「この量を⁈君はきちんと休んでいるのか?」
「はい、休みの日は時間があるので大丈夫です」
「君は後宮に来てから1回しか外出していないのだろう?休みの日は何をしているんだ?」
「アロエを育てて保湿剤を作ってます」
「アロエ?保湿剤⁈なんでまた……」
「後宮に留め置かれた時に必要になり、王弟妃宮に自生していたアロエで手作りしていたのです。それが結構評判良くて、最近量産しておりまして」
「評判?量産⁈なぜだ?」
「王弟妃宮の侍女達に分けたら好評だったようでその伝手で取引が増えまして、量を増やして作っているのです」
「取引⁈貴族令嬢がそんなことをしているのか⁈」
「これが結構助かるのですよ。
皆さん色々分けて下さるので、買い物に行かなくても生活できるようになったのです。
ちなみに物々交換なので、金銭のやり取りはしていないですよ」
「生活できるようになったって、なんで後宮で自活しているのか?
君は本当に貴族の令嬢なのか……⁈」
ビヴィ公爵子息はなぜかがっくりと項垂れてしまった。
彼には誠実に対応しようと思い、聞かれたことに素直に答えただけなのに……。
大量の本を台車で運こばせた上、こんな話をして申し訳なかったなと反省した。
辛抱強くお付き合い頂いている方々、いつもありがとうございます。レイの描いた盤面もやっとここまできました。これからは終盤に向けて話が進みます。
完結に向けて、見届けて頂けると嬉しいです。
評価頂いた方々、ブックマーク頂いた方々、リアクション頂いた方々、毎回励みになります。
ありがとうございます^_^