後宮25
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
「ユリウス様どうして……?」
私の身体は止まってしまったが、
頭は高速で計算し始める。
そして悪い予想が一瞬で駆け巡った。
自分の中で悪い予想の方が計算が早いことは分かっているが、それを打ち消す良い予想が出てこない。
悪い予想が当たっていることを確信した。
「レイ、一緒に行こう」
ユリウス様の声が遠く感じる。
後ろから足音が近付いてくるのに、身体が動かなかった。
ユリウス様に手を引かれて、身体を引き寄せられる。
次の瞬間、開けた場所に転移していた。
王宮の門が見える。
周りに木が生えている。
人がいない。
おそらくここは、王宮の東門を出て少し歩いた開けた場所。
記憶を失った私がユリウス様と来たところ。
状況把握をする自分がいる一方で、
他の自分達は沈黙していた。
これから自分がどうなるか、分かっているから。
「レイ」
聞き覚えのある声に身体が反応する。
できればまだ顔を見たくなかった。
身体が離されて、彼が私を見ていることが分かる。
分かるけど、顔があげられなかった。
「レイ、どうした?」
話しかけられて、私は反射的に顔を上げてしまう。
私は急いで身体に命令する。
いつも通り、笑いかけて、
何事もなかったかのように、
心配かけないように、
私が気付いたことを隠して、気付かない振りを……。
「あれ?」
笑ったつもりなのに、視界がぼやけた。
笑顔を作ったつもりなのに、ポロポロと涙が落ちていた。
身体が言うことを聞かないなんて、久しぶりだった。
「……レイ、おいで」
彼に再び、引き寄せられる。
ユリウス様は優しく抱き締めてくれた。
私は涙が止まらない。
だって、彼は既に巻き込まれている。
たぶん、後宮の壁を隔てて会えた時にはもう。
彼は今、王太子殿下の命で動いている。
私を守るという名目で。
王太子殿下は不正をした貴族を摘発したい。
それに彼も加わっている。
その貴族にとって、私には何らかの利用価値があるらしい。
彼がかけた居場所がわかる術はとっくに解けているのに、
あの場に彼が居たことが答え。
彼はライオール殿下の側近なのに、
成婚の儀の直前で忙しいのに、
どうしてそんな無理をしているのかなんて、
聞かなくても分かるでしょう?
また私が巻き込んだ。
一番巻き込みたくなかったのに、
だから会わないと、会えないと思っていたのに。
また私は無力なのか……?
そのまま、無言だった。
ユリウス様は何も言わない。
おそらく私が気付いたことに、気付いている。
そして心を痛めている。
冷静な自分が言う。
自分の無力は今にはじまったことではない。
事が既に動き始めているのなら、私が今、彼に対してできることはないの?
一所懸命に考える。
そうしたらやっと涙が止まってくれた。
「ユリウス様、心配させてごめんなさい。
もう大丈夫です」
私は静かに口を開いた。
大丈夫、声は震えていない。
いつも通りに振る舞える。
ユリウス様が身体を少し離す。
私は顔を上げて微笑む。
彼の顔を見て確認する。
私がなぜ泣いてしまったか、たぶん分かっている。
私はアイスブルーの瞳を見ながら続ける。
「ユリウス様に会えたのが嬉しくて、思わず泣いてしまいました」
本当にそうなら、どんなに良いだろう。
そう思いながら口にした。
ユリウス様は少し驚いた顔をして、それからふっと息を吐いた。
「泣くほど嬉しいと思ってくれたなら、光栄だ」
私が別の理由で泣いたことを察しているから、言い訳なのは分かっているだろう。
それでも表面上は私の言葉を受けてくれたことに感謝する。
「ふふ……守って下さりありがとうございます。
助かりました」
「何で後をつけられていたか、心当たりは?」
私は首を振る。
「貴族令嬢が護衛を付けずに出歩くのが危ないと、分かっただろう?」
「はい、以後気をつけます」
「素直だな」
「久しぶりにお会いできたので、少しは良い所を見せようかと」
少し戯けて言ってみる。
「ふむ……隠そうとするところは、今回は目を瞑ろう」
「ふふ……隠し事はお互い様では?」
私はクスクスと笑う。
「……しばらく見ないうちに、レイは感情豊かになった」
「貴族令嬢として致命傷になりかねない事態です」
「そうだな、特に他の男の前で泣くのは絶対だめだ」
「ふふ……ユリウス様の以外の人の前では泣けないのでご心配なく」
「そうか……俺が独り占めするのは気分が良い」
「私は弱くなる一方で困ります」
「困って、俺なしでいられなくなればいい」
「ユリウス様も今日は素直ですね」
「俺は普段から素直だけど?
伝わっていないなら心外だな」
「ふふ……ユリウス様もしばらく見ないうちに感情を表に出すようになりましたね。
さらに魅力的になられて、離れられなくなりそうです」
「それは良いな。
まあ、お互いしばらく見ないうちに少し変わったということだな」
「ええ、私はもっと好きになりました」
「それは光栄だ。ではご褒美をもらわないと」
ユリウス様の顔が近付く。
私は目を閉じる。
唇が触れ合う。
離れられなかった。
ここまでお付き合い頂きました方々、いつもありがとうございます。
完結に向けて、見届けて頂けると嬉しいです。
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