特使8 襲撃
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
「アレキサンドライト、何処に行ク?」
「ヤン殿下⁈このようなところにお一人でどうなさったのですか?」
「お主の姿がないので探しにきたのダ」
「護衛はどうなさいました?シャオタイ護衛長は?」
「巻いて来たのダ」
悪戯な笑顔で笑うヤン殿下は楽しそうだった。
これはシャオタイ護衛長や護衛官も大変だろう。
内心同情しつつ、ヤン殿下を促す。
「殿下、皆様が心配しますから一緒に戻りましょう」
特使付き官吏になって7日目、私は孤児院の件の引継ぎで一ノ宮を目指していた。
特使付き官吏の任が急に決まったことで、孤児院の件で後任に伝えていないことがあったのだ。
まさに目的地は目の前だったが、特使用の離宮に向けて方向転換する。
手に持っていたファイルケースを見て、残念な気持ちになった。これを後任に渡して引継げば終わりだが、ヤン殿下を放っておけない。
「アレキサンドライト、あれは何カ?」
「今は使われていない離宮です。ちょっ、殿下、お待ち下さい」
ヤン殿下がいきなり走り出してしまったので、私は急いで追いかける。
ここは以前ユリウス様に連れて来られた離宮だ。官吏は立入ができないエリアになり、昼間でも人気がない。
ヤン殿下に追い付くかというところで、斜め前がキラっと光った。
「ヤン殿下、伏せて!」
「えっ?」
私はヤン殿下に後ろから飛びかかり、一回転してヤン殿下を背に隠す。ヤン殿下は私に転ばされ、引きずられて、地面に伏せている。
ヤン殿下が先程まで立ってきた所に何か刺さっている。
あれは、昭国の本で見た「クナイ」だ。黒光りした短い両刃の武器。
私は立ち上がったヤン殿下と建物の影に身を滑り込ませる。
私は官吏の制服から何か使える物を探す。
唯一あったペンを取り出し、上着を脱ぐ。
ヤン殿下の羽織を剥ぎ取り、ヤン殿下には官吏の制服を羽織らせる。
「殿下、走れますか?」
ヤン殿下の様子を見ると、下を向いて震えている。
走るのは無理か。
魔法を使えば制圧することができるかもしれないが、ここは王宮内。魔法も魔術の使用も禁止されている。
もちろん緊急事態だから事後承認されるだろうが、私が魔法が使えることも知れてしまう。
なにより、敵はおそらく……。
私はヤン殿下の羽織を身につけて、建物から少し身を出す。
シュッ
羽織を狙って、すぐさま新たなクナイが打ち込まれる。
私は建物の配置と今の位置関係をシミュレーションする。クナイの角度から敵は2人。しかも正確に的を狙える手練れ。
ならば……!
私は足元の石を2つ拾い、建物から飛び出る。飛びながら石を狙った2箇所に投げる。
「アレク!」
ヤン殿下の声がすると同時に、私に向かって正確にクナイが飛んでくる。私はそれをファイルケースで受ける。そしてクナイが放たれた方向にペンを投げた。
石はどうなったかわからないが、ペンの方は手ごたえがあったようだ。ペンは何かに当たって、驚いた様な、動揺する気配がした。
私は羽織を脱いで手に巻き付け、クナイが放たれた方に臨戦態勢で走る。
何かが動く様子に身構えたが、スッと気配がなくなり、辺りはまた静かになった。
私は注意を払いながら、ヤン殿下のいる建物に戻る。
ヤン殿下を立たせて、二ノ宮に急ぐ。
二ノ宮の建物に入ったらシャオタイ護衛長と護衛達に会った。ユエ執務官も一緒だ。
私は手早く状況を説明し、ファイルケースに刺さったクナイを見せた。
私が手で引き抜こうとしたところをヤン殿下が制する。
「アレク触るな。毒が塗ってある」
ヤン殿下はいつもと別人の様だ。先程震えていた方とは同一人物とは思えない、年相応の落ち着きがある。
私はヤン殿下の羽織と官吏の制服を取り替え、ユエ執務官にヤン殿下を預けた。
同時に二ノ宮の官吏に、宰相閣下への報告を頼む。
そしてシャオタイ護衛長及び護衛数名と、襲撃された現場に戻る。
現場に戻るとクナイがなくなっており、クナイが刺さっていた地面も誰かがならした後だった。
1人視点なので情報が偏っております。全体がわかるまでは読み進めて頂けると嬉しいです。
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