後宮21
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
「ルイーゼ様、お加減はいかがですか?」
「うふふ……少しくすぐったいわね」
「ではこの位の加減ならいかがでしょうか?」
私は今ルイーゼ様のマッサージをしている。
美容部員である侍女の先輩に指導されながら、実際にルイーゼ様に施術させて頂く。
今後に備えて、私も勉強しておかなくてはならない。私以外のマッサージ未経験の侍女達も参加して、少しずつ学びながら実践する。
貴族令嬢の侍女の中には、美容部員としての腕を買われて仕えている者も多い。
茶会や夜会の際にドレス姿を美しく見せるため、美容部員である侍女が主人を磨き上げるのだ。
私もセレス家とクローディア家の侍女達にはとてもお世話になっている。
私が今教えてもらっているのは体内のリンパ液の流れを促進して老廃物等を流すリンパマッサージというもので、疲労回復等の効果があるそうだ。
ルイーゼ様の体調が悪い時は控えていたが、最近はルイーゼ様の体調が良いとのことで、マッサージも再開した。
ルイーゼ様は最近顔色も良くなり、ルイーゼ様本来の美しさを取り戻しつつある。
また王弟殿下も頻繁にお見えになることから、侍女達でルイーゼ様を盛り立てようと団結中のようだ。
宮に活気があることは良いことだと思う。
年若い侍女の間では王弟殿下とルイーゼ様の組み合わせを「推し」ていて、お2人の幸せを見守ることが活力になるらしい。
私の推しはシルフィーユ様だが、カップルで推すパターンもあるのだなと学ぶ。
リンパマッサージはリンパの通り道である管や節の場所がわからないとできないし、リンパを流す向きもある。その習得課程で筋肉の位置もわかるようになるらしい。
これならルイーゼ様の身体の状態を把握するための一助になる。
未経験の侍女達を巻き込むのは、ルイーゼ様の身体の対処のために、対応できる侍女を増やす目的があった。
✳︎
マッサージ訓練が終わった後、私は侍女頭エダ様に呼ばれる。
ビヴィ公爵子息から私に話があるとのことだった。
「セレス嬢、申し訳なかった。後宮に出仕する際の取り決めと異なる対応になっていたことを、当家を代表して謝罪する」
私は驚いた。
「ビヴィ公爵子息、頭をあげて下さい。格上の貴方が頭を下げると他の使用人に示しがつかないでしょう」
この方から、まさか頭を下げられるとは思わなかったからだ。
「王弟殿下がお召しになった者に、当家の者がこのような仕打ちをしたのだ」
頭をあげたビヴィ公爵子息は、気まずそうな顔をしていた。この方は礼儀を重んじる、良識のある人なのだろう。
「それで、エダ様に不当な指示を出していたものはどのような目的だったのですか?私がこちらに遣わされるのを理解した者なら、このような指示にはならないかと思いますが」
「それなのだが……引き続き調査が必要になってな。後のことは私が引き取る」
「つまり私には話せない事柄なのですね?
ビヴィ公爵家の内部の話ですか?」
「……」
ビヴィ公爵子息の反応から、あながち外れていないことを察する。
大貴族だけあって、内部も一枚岩ではないのだろう。
「お話頂けないなら結構ですよ。
だけど私の方も不当な扱いをされて傷付きました。
償いを求めても?」
「つ、償い?自分から求めるとは厚かましいのではないか?」
「後宮にお勤めの貴家の家門の男性の方の中には、私に対して良い印象をお持ちではない方もいるようなのです。だからどのような指示が出ていたか、私には知る権利があるかと思いましたのに」
私はわざとしおらしい態度をとる。
ビヴィ公爵子息なら、会話の流れから演技だとわかるだろうが。
「分かった!何が希望だ⁈」
「ありがとうございます。
まずエダ様に、今後同じような要求をする者が現れないように対処する事。ご家族を材料に強要するなど、放置してよい件ではありません」
「分かっている。この件は厳正に対処する」
「次に後宮内で同じような事が起こらないように防止策を講じる事。ビヴィ公爵家当主からの指示が正当に伝わらないなど、組織として問題を抱えていることはお気付きでしょう?」
「耳の痛い指摘だが、私も同意だ。そのために調査が必要なのだ」
「最後に、後宮に出入りする商会や商人の資格審査を適正なものにする事。賄賂の額で資格を得るなど、王宮としての信頼に関わります」
「なっ⁈賄賂⁈」
「ご存知ないのですか?王都の商人の間では有名な話ですよ」
「な、なんで君がそんなことを知っている⁈」
「数年前に私の知り合いの商人が王宮の資格審査を受けた時に賄賂を要求されまして、断ったら審査される間もなく追い返されたのですよ。私もその場におりましたので、よく覚えております」
「審査されずに追い返されただと⁈」
「お疑いならお調べ頂いて結構ですよ。賄賂の額も年々上がっているようで、最近は新規で商人資格を得ようとする者はいないのではないでしょうか?」
「な、なぜ貴族令嬢の君が商人と同行していたんだ⁈」
「社会勉強のためです」
「……」
ビヴィ公爵子息は「信じられない」という顔で私を見た。
信じられないのは賄賂を要求する後宮の役人のことなのか、それとも私の社会勉強のことなのか、どちらのことを指しているのだろうと思った。
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完結に向けて、見届けて頂けると嬉しいです。
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