後宮18
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
私は侍女頭エダ様に話を伺った後、彼女に頼んで侍女達の仕事の持ち場を指定させて頂いた。今後に備えて、確認したいことがあったからだ。
そして年季の長いベテラン侍女の近くに私を配置するように調整した。
ルイーゼ様の身の回りの世話をする彼女達から話を聞けるように。
ルイーゼ様の今までのこと、侍女として気になった事などを聞きたかった。
彼女達はルイーゼ様のことを本当に案じている。
なので僅かな変化にも気付けるし、何かあれば違和感が印象に残っている。
話を聞く中で、彼女達もルイーゼ様に忠誠を誓う侍女だと分かった。
だから私は彼女達にも協力を要請する。
周囲から守られていたルイーゼ様が他の妃候補と接触したのではないかと考えたのは、侍女達から得た情報より推測した。
宮の主人となったルイーゼ様だが、特定のお部屋を避ける傾向にある。ある時期からそれが顕著になった。
その部屋をかつて使用していた者のことは、エダ様より聞いている。
妃選びの当時、周囲がガードしていたとしても、同じ宮にいる以上、何事も絶対はない。
侍女達は警護のプロではないし、相手だって必死に対策してくるのだから。
他の妃候補が、ルイーゼ様に接触できてしまったとして、相手がルイーゼ様に言うのは恨み言だろう。
それは誰もが使える、最も簡単な呪い
『言葉』だ。
私やコウにとっては、例え自分を縛るものであっても生きるためにそれを必要とした。自分を繋ぎ止めるものとして。
しかしルイーゼ様にとっては、自分を縛って自分を苦しめるものになっている。
私はそれを東の国の言い伝えを用いて、ルイーゼ様に伝える。
ルイーゼ様は相手の責める言葉に再度心を痛められたと思うが、さらに実家の圧力で他の候補者を蹴落としたと聞かされたのなら、かなりショックだったと思う。
仮に恨み言が誇張されていたとしても、当時のルイーゼ様は言われた内容に事実が含まれていると理解した。
そうして宮の主人になったルイーゼ様の心には「実家の力で妃になった」という後ろめたさが残ったのではないだろうか?
もしそれが事実だとしても、
せめて「妃選びの場で王弟殿下に選ばれる」形で妃になれるなら良かった。
しかし「自分の力ではなく宮に残ったために王弟殿下に選ばれた」形で妃になってしまったと考えると、その後の気持ちの持ちように影響が出る。
自分に自信が持てず、
また「王弟殿下に申し訳ない」という気持ちを常に抱いてしまい、
不甲斐ない自分を責めている。
それでも王弟妃に選ばれたルイーゼ様は、周囲に悟らせないように自分を保ち続ける。
朗らかで穏やかな様相を崩さない。
王弟妃という難しい立場を、
王妃陛下と比較される辛さを隠しながら、
自分を保ち続ける。
けれども、それが揺らぐような出来事があったはずだ。
御子が出来ないことかもしれない。
周囲が側妃を勧めることかもしれない。
そしておそらく身体を痛めたこと。
すぐ治ると思った怪我だが、いつまで経っても思うように身体が動かない現実。
自分が揺らぐ時に思い出される、
過去の責苦。
自分を責める相手の姿を思い出してしまう程に、思い詰めていく。
こうなってしまうと、なかなか抜け出せない負のスパイラル。身体に不調として現れる。
それを断ち切るには、私はある程度のショック療法が有効だと考える。
だから私はルイーゼ様を呼び出した。
彼女が避けている部屋で、彼女の前で敢えて「浄化の儀式」を行う。
ルイーゼ様に呪にかかっていると言ったが、本当に呪をかけたのはルイーゼ様自身だ。
相手にかけられた言葉で、自分を縛ってしまった。
それを強制的に解除させるのが狙い。
本来ならルイーゼ様に正当法で解除する方が良かった。ルイーゼ様自身に気付いて頂き、ルイーゼ様自身で立ち直る方法。
正当法が取れないと判断したのは、ルイーゼ様の身体の衰えが予想以上よりも進んでいるから。
ルイーゼ様の望みを叶えるためには、1日も早く身体の方の対処を始めないと間に合わなくなる。
そのために私は利用する。
王弟妃宮から発見された呪詛の事実を。
王宮魔術師が浄化の術式を施した事実を。
言葉にしないなら、言葉にできないなら、できるだけ分かりやすい方がいい。
「呪いは解除して、もう無い、
場を浄化して、全て祓った」と伝わるように。
少しベタでも、大袈裟と思われても、
わかりやすく示すパフォーマンスで。
そして動かす。
ルイーゼ様と彼女の周りを。
これはここが後宮で、私が異分子だからできること。情報が制限され、閉鎖された環境だから成る術のようなもの。
「想い」を、祈りのイメージを形にして、現実を動かす、それはまるで魔法をかけることに似ているなと思った。
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完結に向けて、見届けて頂けると嬉しいです。
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