後宮17
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
数日後の夕方、私は王弟妃宮の、今は使われていない一室にいた。
物が何もない部屋はがらんとしていて、まだ辛うじて明るい。
まもなく黄昏時。
しばらくして車椅子に座したルイーゼ様が、緊張した面持ちで入ってくる。
侍女頭のエダ様が車椅子を押している。
「ルイーゼ様、お越し頂きありがとうございます」
「セレス嬢、その格好は?」
私は白い着物の上に白い羽織りものをしている。
少し薄暗くなってきた部屋の中では、浮かび上がって見えるだろう。
「東の国の巫女の衣装です。
今から浄化の儀式を行わせて頂きたく存じます」
「浄化の儀式?」
「恐れながら、ルイーゼ様には呪いがかかっているようにお見受け致します。
それがルイーゼ様の御心を沈ませる原因の1つと思われます」
「まじない?私に?
いつかけられたのかしら?」
「ルイーゼ様がこの宮に入られた後です。
当時、この宮には何人の妃候補がいらしたのですか?」
「ええと、私の他に3人のご令嬢がいたわ。
でも急にどうしたの?」
「この宮は妃選びの場だったのですね?
そして残った者がこの宮の主人になる。
3人のご令嬢はどうされたのですか?」
「1人、また1人と居なくなっていったわ。
お別れを言えなかった方もいたわ」
「ですが、お別れを言われた方もいらしたのですね?
ルイーゼ様はその方とはどんな話をなさったのですか?」
「それは……」
「ルイーゼ様、どなたかとお話しになったのですか⁈」
エダ様が慌てて口を挟む。
彼女にも把握していない事だっだらしい。
ルイーゼ様は口を噤んでしまわれた。
きっとエダ様を悲しませたくないのだろう。
「その方はルイーゼ様を責められたのではないのですか?ご実家であるビヴィ公爵家から圧力をかけられたせいで自分が脱落すると」
ルイーゼ様の顔色が変わる。
それを見たエダ様の顔色も変わる。
「そんな……ルイーゼ様のせいではございません!
あれは前大旦那様が勝手になさったこと……」
「それでもルイーゼ様の心の中にずっと残っていて、ルイーゼ様を責めている。
ルイーゼ様、その方の姿を、少し前にご覧になったのですね?
この部屋ですか?」
「どうしてそれを⁈」
「ルイーゼ様、東の国では言葉に魂が宿ると考えられていて、それを『言霊』と言うそうです。人を責める言霊を使えば、言われた相手は呪いにかかってしまいます。それを今から解除し、この場を浄化致します」
私は恭しく礼をして、摺足で一歩前に出る。
私は右手に扇、左手に鈴を構えた。
扇と鈴を色とりどりの帯で繋いでいて、両手を広げることで帯の色味が見えて、華やかだ。
私は部屋の四方を回るようにゆっくりと進む。
進行方向に扇を指し、動きに合わせて扇ぎ、鈴を鳴らしてまわる。
鈴を2回鳴らした後、扇を大きく返して、水平に動かした。
すると部屋の中に、ほのかに緑の香りが漂ってくる。
「これは……」気付いた侍女頭が呟く。
部屋をゆっくり一周する頃には、部屋に緑の香りがはっきりとわかるようになる。
そして私が扇を大きく下から上に持ち上げると、頭上からキラキラした細かい金色の粒の様なものがハラハラと落ちてきた。
私はチラリとルイーゼ様を見遣る。
驚いているようにこちらを見ていた。
私はゆっくり動きを収束させ、ルイーゼ様に向き直り、恭しく礼をする。
「セレス嬢、今のは……⁈」
「ルイーゼ様、呪いの解除及び浄化の儀は終わりました。貴方様はもうその言葉に囚われなくて良いのです」
「……そうなのかしら。でも私は……」
「今後ルイーゼ様がその言葉を思い出したり、相手の姿を見てしまうとしたら、それはルイーゼ様の御心が傷付いたままだからです。
ルイーゼ様、自分で抱えたままでは傷を癒せない場合もあります。そういう時には話を聞いてもらうだけでも効果があります」
「そう、そうね……」
「ルイーゼ様はどなたとお話するのが嬉しいですか?」
私は敢えて『嬉しい』と問う。
「ええと……」
「頭の中に最初に浮かんだ方が適任かと思います」
「えっ?」
私は扉の方に身体を向け、声をかける。
「お入り頂けますか?」
扉を開けて入って来たのは王弟殿下だった。
「殿下!どうしてここに……⁈」
「ルイーゼ、一人で辛かったな」
「殿下……私は……」
ルイーゼ様は顔を覆って俯いてしまわれた。
王弟殿下はルイーゼ様を抱き上げて部屋を出て行く。
私はエダ様と目配せする。
彼女はすぐに王弟殿下を追った。
✳︎
王弟殿下とエダ様の足音が去ったのを確認して、私は窓の外に顔を出す。
「ありがとうございます。助かりました」
窓の外に控えていた侍女達3人に声をかけて、彼女達を帰す。
私は部屋を出て、直ぐに隣の部屋の扉をノックする。
「失礼致します。
お待たせ致しました、ビヴィ公爵閣下」
部屋にはビヴィ公爵閣下と侍従が控えていた。
「セレス嬢、説明願いたい。
ルイーゼの不調の原因は呪詛だったのか?」
「ルイーゼ様の不調の原因の1つが呪詛であったとは言えると思います」
「原因の1つ?まだあるのか?」
「閣下、事はそう単純ではございません。
ですが、今日のことは少なからずルイーゼ様の体調に影響を与えるでしょう」
「そうか。あとの原因は何か?」
「閣下、焦りは禁物です。
周りが焦るとルイーゼ様にいらぬプレッシャーを与えて、折角の良い影響を打ち消してしまいます。
先程王弟殿下にもご説明した通りです」
「そ、そうだったな」
「他の原因にも心当たりがないわけではございません。ですが今の段階では情報が足りません。そこで閣下に幾つかお願いしたいことがございます。少々難しいお願いも含まれますが、宜しいですか?」
「できる限りのことはしよう」
「ありがとうございます」
私は淑女の顔で微笑む。
その言葉を待っておりました。
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完結に向けて、見届けて頂けると嬉しいです。
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