後宮15
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
ここは後宮、王族の女性達の住まう場所。
そこから導き出した推察はこうだった。
今の王太子妃と王子妃は、妃殿下として後宮に入ったが、王妃陛下とルイーゼ様は違う。
お2人は当時妃候補として後宮に入った。
当時の後宮は妃選びの場だった。
妃候補の令嬢を同じ宮に集め、王族の男性が宮を訪れて妃を選ぶ。
だから宮の規模が大きく、部屋数も多い。
我が国では家の存続のために一夫多妻が認められているので、王族の男性も複数の妃を持つことができる。
また王族として後継者が必要なので、一度に複数の女性を相手にする場を設けるのは、効果的且つ効率的であったと考えられていたのではないだろうか?
これは想像だが、後宮が妃選びの場であった当初は、子供が出来た女性から個別の宮を与えられたのではないだろうか?
そして一定の期間、王族の訪れのない令嬢は実家に帰されるような仕組みだった。
女性達を同じ宮に住まわせ、寵を競わせる。
より優秀で強い遺伝子を残す仕組み、そして妃としての適性を諮る仕組みなのだと思う。
ライバルと同じ宮で生活する以上、妃候補同士の小競り合いはある。それに負けたものは妃の適性がなかった者として自ら宮を去ることになるのだろう。
成婚して王族になれば貴族を率いていく立場になるし、基本的に後宮から出られなくなる。
それらに耐えうる適性を試された上で、寵愛を競わせるのだから、残酷な仕組みだと思う。
それがどの様に変化したのか不明だが、
今の王妃陛下の時は、宮に最後まで残った者が妃になる仕組みに変わっていた。
今の王妃陛下は闊達な方で、新しい物事にも果敢に挑戦される才媛だったそう。早いうちから将来の王妃と目されていたので、今の国王が彼女を妃と定めた段階で、他の候補者は速やかに宮を去ったことだろう。
国としてはもし正妃に子ができなければ、時期を見て後から妃を迎えればよいのだ。
その数年後、今の王弟妃選びが始まる。
おそらく当時王弟妃として目されていたのはルイーゼ様だった。
大貴族ビヴィ公爵家のご令嬢で、当主は当時の宰相、しかも後宮を管理する家門。身分は申し分なく、また王弟殿下をお支えできる家柄でもある。
しかしルイーゼ様は温和な性格なので、他の妃候補を圧倒したり蹴落とす様な真似はしない。
私が後宮に入ってから受けた嫌がらせを考えれば、また当時の宰相の強引な手腕を考えれば、妃候補がビヴィ公爵家の圧力を受けて、耐えられずに逃げる様に宮を出たとしても不思議ではないと考えていた。
だが他の妃候補とて、その家の期待と将来を背負って後宮に来ているのだから、宮を出る時は苦渋の決断だっただろう。
そんな主人の苦悩を間近で見ている侍女や使用人が、当時市井で呪詛用のヒトガタを入手してきて、後宮で使用したとしてもおかしくはない。
呪詛の方法はヒトガタ以外にもある可能性も鑑みて、王太子殿下は王妃宮と王弟妃宮の浄化を指示した。
王妃陛下は王太子殿下を御出産された後、後宮での妃選びを止めて、妃を定めてから後宮に入れるように変えた。
そのため妃選びは王宮でなされることになった。
妃候補を競わせることに変わりはないのだが、それを後宮に持ち込まないことにしたのには、王妃様のお考えがあってのことだと思う。
そのお考えの一端にルイーゼ様のことが含まれていると、私は考えている。
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王弟妃宮の侍女頭エダ様は、妃選びの当時からルイーゼ様の侍女として後宮にいた。
エダ様に当時の話を聞いたところ、眉を顰めながら話す様子が度々見られた。
「ルイーゼ様以外の妃候補は、皆様気の強い方ばかりでした」
おそらく各々の家で、今の王妃様と同じような積極的なタイプの令嬢を送り込んで来たのだろう。
「ルイーゼ様にはお伝えしていないのですが、贈り物と称して虫の死骸を渡されたり、衣装が切られたり、嫌がらせを受けていたのはこちらの方なのです」
しかも他の候補者はルイーゼ様が大人しい方と見るや、マウントを取るだけではなく、あからさまな嘲けりや侮辱する発言をするようになったと言う。
「心優しいルイーゼ様は言われたことを真に受け、大層落ち込んでしまわれました。
だから私達はルイーゼ様を守ろうと、他の妃候補と接触させないようにしたのです」
侍女達をはじめ、ルイーゼ様の使用人は主人を悪意から懸命に守ろうとした。
他の妃候補との接触だけでなく、外部からの情報も遮断した。
そしてルイーゼ様が塞ぎ込んでいると知ったビヴィ公爵家の当主は、ルイーゼ様が自信を持てるように、また王弟殿下がいつ宮を訪れても恥ずかしくないようにと、ルイーゼ様の部屋を豪奢に飾り立てた。
それは家の力を見せつけて、他の候補者を牽制することにもなる。
さらに当時の当主が後宮を管理する家門という立場を使って、度々圧力をかけて他の候補者を追い出した。
「妃選びが始まった当時、王弟殿下は宮に足を運ばれたのですか?」
「一度挨拶にお越しになりました。どの妃候補にも平等に接しておりました」
「結局妃を選ぶところまでは至らなかったのですね?」
「はい、王弟殿下は争いを好まない御方ですから。
ですがそういう御方だからこそ、ルイーゼ様の穏やかな雰囲気を気に入って下さったのだと思います。短い時間でしたが、王弟殿下とルイーゼ様のお話するご様子は……何というかお似合いで……。
だからでしょうか、ルイーゼ様に対して嫌がらせが始まったのは、王弟殿下が訪れた日の翌日からでした」
私はルイーゼ様の今までに思いを馳せる。
身内に守られたまま、宮の主人になったルイーゼ様の心には、何が残されたのだろうか?
確かに、他の妃候補から謂れのない悪意を向けられたルイーゼ様は傷付いただろう。
彼女は、落ち込んだ自分を立て直そうとしていたはずだ。
しかしルイーゼ様が自分で立ち直った後には、既に周囲のガードが固められ、宮の状況が把握できない状態になっていた。
ルイーゼ様は使用人思いな方だ。
自分を守る使用人達の気持ちも分かっていただろうし、実家が心配する気持ちも分かっていただろう。
さらにルイーゼ様の周囲が情報を遮断していたとしても、同じ宮にいる以上雰囲気を察してしまう。
おそらくこの宮の中で、呪詛に相当するものがあったのだろう。
それは敷地に埋めたヒトガタとは違う。
誰もが使える、最も簡単な呪い。
それを私が祓えるかが、鍵になるな。
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