後宮14
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
数日後、私の謹慎は解かれた。
謹慎が解かれた理由は「呪詛の件の調査が終わったから」
私はこれを受けて、少し冷えた気持ちになった。
この指示を出した者には見えていないのだろうか?
表面的に処理することで、組織が内包するリスクを。
その積み重ねが今に至ることを。
このまま何もしなければ、私が晴れて後宮を出ることができるのは、ルイーゼ様の不調が改善した後だろう。
それはいつになるのか正直見当もつかない。
侍女として『公爵邸から通うことを特別に認めること』は反故になるだろう。この先も難癖つけて外出外泊は認められそうにない。
だからきっとルイーゼ様の侍女として『出仕する期間は第二王子の成婚の儀まで』という約束はあってないようなもの。話し合いをするまでもなく延長決定かな。
私は軽く息を吐く。
私もそろそろやられっぱなしは飽きてきた。
好んで対峙するつもりはなかったけど、最低限の手は打たせてもらう。
あくまで目的を達成するための手段として、後宮を攻略する必要がある。
目の前には盤上があり、私もまた駒の1つ。
大事なのは、誰と、いつ、どのタイミングで接触するか。
✳︎
私は王弟妃宮の使用人達に、謹慎が解けた旨を報告する。
「今日からよろしくお願いします」と挨拶しながら、使用人達の表情を伺う。
私がよく分からないことに巻き込まれて謹慎していたことに、同情してくれているようだ。
勤務時間が終わった後、私は侍女頭を部屋に呼び出した。
王弟妃宮の侍女頭エダ様は、ルイーゼ様の母上様の乳姉妹。自身の娘もルイーゼ様と歳が近く、幼い頃からよく知っているそうだ。
そういう話を一通りした後、私は切り出した。
「エダ様、私は次の休みにクローディア家に戻りたいのですが、またお手続きをお願いできますか?」
「ええ、分かりました」
「いつもお手続きして頂きありがとうございます。
……そして、それも却下される予定ですよね?
次はどんな理由を付けられるおつもりでしょうか?」
私は笑顔で答える。
突然のことだったのか、侍女頭の顔が引き攣る。
「せ、セレスさん、何を言っているのですか?」
「侍女頭である貴方は、私がここについた初日に、誰かから私を宮に留めるように言われましたね?」
エダ様は驚いているようだ。
孫のような年の娘に、こんなにはっきりと言われることがないからかもしれない。
「貴方は突然の指示に困惑したはずです。
しかも私はクローディア公爵家から来た者。
私の要望を適当にいなしながら後宮に留めるためには、貴方の協力が不可欠だと言われた」
彼女は何も答えない。
しかし顔色がだんだん悪くなっていく。
「貴方は逆らえなかった。
その者は貴方よりも立場が上の者。
さらに『ルイーゼ様のため』と言われたのでしょう?」
ますます顔色が悪くなる侍女頭を見ながら、私はゆっくり言葉を紡ぐ。
「貴方に指示をした者はビヴィ公爵家の……本家……後宮を管理する立場の……」
彼女がワッと顔を覆ってしまった。
私の指摘は当たっていたようだ。
私は彼女に近付き、声を落として囁くように続ける。
「貴方が指示を断ると、誰かが不利益を被るのですね?貴方の……ご家族の……御息女ですか?」
彼女がビクッと震えたので、多分当たりだろう。
私は彼女の肩にわざと手を置く。
「意に沿わぬことをさせられて、お辛かったでしょう?」
私は特段優しい声を出す。
「貴方は侍女頭として私に良くして下さいました。私は貴方に感謝しているのです。
貴方は困っている私に布や裁縫道具を融通して下さいましたね」
「……だって、それくらいしか……」
か細い声だが、エダ様はやっと答えてくれた。
「貴方は優しい方です。
見て見ぬふりをすることもできたが、私を見捨てられなかった。
だから私もこのことを誰かに言うつもりはありません。
貴方の立場が悪くなるのなら、このまま後宮に留まりましょう」
「でも、それでは……」
私の言葉を受けて、思わず彼女が顔を上げた。
やっと目が合う。ここからが大事。
「私は貴方を困らせたい訳ではないのです。
それと同じくらいの私の家族を心配させたくないのです。分かってくれますか?」
彼女は無言で頷く。
「クローディア家には何と連絡して下さっていたのですか?」
「仕事があるからしばらく帰れないと……一度連絡しました」
「教えてくれて、ありがとうございます。
そのように連絡して下さったのなら安心致しました」
私は安心しているような微笑みを作る。
「貴方に指示をした者から、私について、何か聞いておりますか?」
「……く、クローディア公爵家から来た者としか。あと、なるべく長く留めるように、としか……」
「なるほど……。
貴方には正直にお話ししますが、私はルイーゼ様をお助けするためにここに遣わされたのです。王弟殿下とビヴィ公爵閣下の命で」
「王弟殿下と大旦那様の命⁈」
「はい。直接拝命しました」
「なんてこと……」
彼女はへたり込んでしまった。
いきなりビッグネームを出されたので仕方ない。むしろ疑われると面倒だったので、これで良い。
「貴方に指示を出した者は事情をよく分かっていないのでしょう。貴方は何も悪くない」
「ですが……」
「逆に伺いますが、貴方はルイーゼ様がこのままでも良いのですか?」
「そんな!良いはずがありません‼︎」
「私もそう思います。
貴方はルイーゼ様の信頼の厚い方。
ルイーゼ様の一番の味方です。
貴方が忠誠を誓っているのはルイーゼ様?
それともビヴィ公爵家ですか?」
「ルイーゼ様です」
「ならば、私に協力して下さい。
上手くいくか分かりませんが、状況を変えられるかも知れません」
「わ、わかりました。
ルイーゼ様のためになるなら。
私は何をしたら……?」
「では幾つか教えて欲しいことがあります。
まずは王弟妃宮について、
かつてここに居た、ルイーゼ様以外のご令嬢について」
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