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後宮12

お立ち寄り頂きありがとうございます。

こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。

設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。


数日後、王宮魔術師が後宮に大規模な術をかけることになった。後宮の外側を覆う防御の術式のため、後宮内の人はいつも通り過ごしても影響はないとのことだ。


私はその防御術式を特別に見せてもらえることになった。


「ヒトガタの第一発見者だから」という訳のわからない理由で許された権利を行使し、私は謹慎している自室から久しぶりに外に出る。


敷地の端に置きっぱなしになっていたアロエの鉢を回収しに行く。アロエの鉢にも水遣りをしてあったあとがあったので、庭師にお礼を言いに行った。


庭師は、私がよく分からないことで謹慎の身になったことに対して同情してくれた。


だから庭園にある花を分けてくれると言う。

部屋に飾って気分転換になるようにと、配慮してくれたようだ。


庭師がルイーゼ様のために丹精込めて育てた花はどれも美しい。

私は有難く一輪だけ頂戴した。


頂いた花を侍女の制服の胸ポケットに挿して、お礼を言って自室に戻る。

両手にアロエの鉢を持っているので、ポケットに挿している花を潰さないように気をつける。


黄昏時が近付き、フェンが部屋に迎えに来てくれた。

私が花を一輪持っているのを見て、フェンが「ふふ」と軽く笑った。


私はフェンに連れられ、西の壁沿いを歩く。

途中で壁を登れる仕掛けを見つけて、フェンに断って1人で壁を登った。


壁の高さは、後宮内の建物の屋根よりも高い。

落ちたら死んでしまうかもしれないな、と思う。


壁の上まで到達し、ゆっくり腰掛ける。

壁は幅が1.5メートルくらいあるので、座っても余裕があった。


コウが南側の壁の上に立っている。

目を閉じて、集中しているのがわかる。


彼がゆっくり目を開けて一呼吸した後、術を発動する。


彼が術を使うところを見るのは二度目だ。

港町では見ることが出来なかったから。


コウが術を使う時、彼の深緋の髪と瞳が明るく輝く。

輝いて、綺麗な緋色になった。


だから離れたこの場所からでも、彼の姿は良く見えた。



付術で二重に術を展開するつもりだろう。


王妃宮と王弟妃宮を囲む術と、

壁の内側を全て覆い後宮全体を囲む術。


それぞれの囲みに、別々の術式を付与してあるはずだ。


媒介を通して光が繋がり、囲みが形成されてゆく。


目の前の敷地を全て覆い隠してなお、魔術の流れは澱みなく、綻びなく展開する術式。


大規模でダイナミックで、細部まで行き届いた構築式。


この光景を事前に頭の中で展開して術式に落とし込むのだから、付術師には経験と天性のセンスが必要なのだろう。



良く考えられていて、

無駄のない、それでいて不足のない、美しい光景。



とても綺麗だ。

嗚呼、また綺麗なものを見れた。


綺麗なものは私の心を癒してくれる。


この世界にもう少し期待してもよいのではないかと思わせてくれる。



コウは本当にすごいと思う。



これを目にすれば、王宮魔術師達も彼の才能を認めざるを得ない。


同じことを王宮魔術師がやろうとすれば何人必要になるだろうか?

この規模なら、練度の高い術師が10人以上は必要になるだろう。



それくらい高度な術式を、あり得ない規模で展開してゆく。しかも彼1人で担う。



だからこそ付術は、秘術として求められたのだろう。



コウの故郷はもうないと聞いている。



彼が旅立って数年後、その秘術を求める国に滅ぼされたとか。

彼が帰郷した時には、何も残っていなかったそうだ。



コウは一族の最後の1人になった。



それが彼と私の共通点だった。



私もまたセレス家の直系として最後の1人になった。



この世界に、突然、独りぼっちになった感覚。


誰とも繋がっていない、ふわふわと心許無い自分。


繋がりを求めて行き着いたのは、自分に課せられた責任だった。

今は亡きその人達と、自分を繋いでくれる、形なきもの。


それが自分にとって、のちのち重荷になろうとも構わなかった。

未来の自分を犠牲にしても、今の自分を留めておくために必要だったのだ。


自分を留められなければ、この先を生きられないから。



彼は自分の中でどう消化したのだろう?



いつも飄々としたコウの、そういう辛さを見せない強さを、私は尊敬している。


だからこそあの頃の私は、彼と行動を共にして学ぶことがあると感じたのだ。


コウは色々な国をまわりながら探し続けた。

彼の一族の教えに従い、自分の技術を預けられる主君を。


彼は分かっているのだ。

自分の力が、使い方によっては多くの人の命を奪うものであることを。


弱いものを守るための力だと教えられて努力した末に、天性の才で開花した大き過ぎる力。


だから主君選びに妥協なんて、到底できなかっただろう。


その彼が長年求めていた主君を得られたなら、本当に良かった。


やっと居場所を得られた喜びは、私にも良く分かるから。


ユリウス様の側に居られて良かったと、私も思うから。

異国の姫までお付き合い頂きました方々、ありがとうございます。

完結に向けて、見届けて頂けると嬉しいです。


評価頂いた方々、ブックマーク頂いた方々、リアクション頂いた方々、毎回励みになります。

ありがとうございます^_^

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