後宮11
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
「なになに、ヒメは古いヒトガタ見つけちゃったのー?しかも『使えそうな植物探してた』とか、どういうこと⁈
ここは王宮内の一等地の中だよ。まじでうけるー」
「コウ殿、口を慎まれよ。
お嬢様が困っているではないか」
「だってさー、この人公爵家の嫁になるんだよー。
なのにアロエ植えてるとか、ありえねー!」
「お嬢様、おいたわしい。
身一つでこんなところに放り込まれた挙句、ご自身でなんとかされようと裁縫まで……」
「後宮の中でプチサバイバル生活する侍女とか、新しすぎない?
俺もいろんな国を回ったけど、ヒメみたいなのは他にはいなかったなー」
「それは同感だ。
お嬢様のようなタイプは私の故郷にもいなかった」
「……」
私は言葉がない。
なぜこの2人が意気投合しているのか?
✳︎
私は今、自室で謹慎している。
勤務日の休憩時間に、王弟妃宮の敷地内で偶然、古い人形を見つけてしまった。
私はすぐに侍女頭に報告した。
そして侍女頭や侍従が各所に必要な連絡をした翌日、私は自室で謹慎するようにとのお達が下る。
「発見者として話を聞きたいから自室から出ないように」とのことだったが、だからって謹慎とはどういうことだろうか?
またビヴィ公爵家からの嫌がらせかと思い、開き直って部屋の中で裁縫に勤しんでいたら、突然コウとフェンが訪れたのだ。
2人とも王家直属の者を表す衣装に、王太子殿下の側近を表す装飾を身に付けている。
王太子殿下の側近は王宮ではエリート、しかも雰囲気のある2人なので、ここに来るまでにさぞ侍女達の注目を集めたことだろう。
今回発見された人形に呪詛の可能性があるので、王宮魔術師が派遣された。
コウはその指揮を執るように王太子殿下から命を受け、フェンはコウのお目付け役として王太子殿下から命を受けたそうだ。
というか、2人は短い期間にこんな打ち解けたのか。
コウはコミュ力半端ないな。
というか、フェンは大国のお姫様なのに、コウのこの言葉遣いは不敬にあたらないのだろうか?
そして私も久しぶりに再会した彼女に『お嬢様』と呼ばれているのが、何か違う気がする。
「フェン王女、その、私はもう『お嬢様』役ではないので……」
相手は百も承知だろうが、私はとりあえず言ってみる。
「私はお嬢様の侍女役を気に入っているのですよ。
今は他の人の目もありませんし、宜しければ以前の様に私の事も呼び捨てでお願いできませんか?」
髪が短く、男性と同じ制服を身に付けたフェンは、正に中性的な麗人だ。
リアル『月の精霊』降臨に、私は完全に気圧される。
「えー、俺もいるじゃんー。
フェンは俺に冷たくないー?」
「王太子殿下から『コウを甘やかさないように』と指示が出ている」
「主は俺に厳しくない?
まあ、そういうところも気に入っているけどー」
「さすがにこの制服を着て、いつもの調子だとまずいから。
先輩から怒られるぞ」
「ヒメの兄ちゃんは優しいから庇ってくれるよー」
「オリバー殿ならそうすると思うが、いつも甘えるのは良くない」
「ふえーん」
なんとなく2人とも楽しくやっているようなので、とりあえず良かった。
しかし彼らも雑談しに来ているわけではない。
私はコウに率直に聞いた。
「それで王宮魔術師としての見解は?」
「影響はないと思うけどなー」
「術として機能していたのは、草の生えていなかった一帯だけということ?」
「そーそー。
俺はヒトガタは使わないけど、あれだって使い手次第だろ?
素人じゃない?」
「きちんと使えない素人が仕掛けたということか」
「しかもあのヒトガタ結構古いよねー。
そんだけ念が深いとは言える」
「恨みが深いのかぁ」
「お嬢様、この国ではヒトガタは使わないのですか?」
「おそらく。
少なくとも今の貴族の中に扱える人がいるとは思えない。
この国発祥の物ではないし、数年前には市井でも見なくなった」
「ヒトガタは東の国の間では広く使われています。
ただ今回見つかったのは一昔前のタイプのようですね。
今はもう少し小さくて薄くて軽い」
「フェン、ヒトガタが広く使われていると言ったけど素人にも扱いやすいものなの?」
「念を込めて文字を書き入れ、埋めるだけですからね。
他の呪詛に比べれば素人向けかと思います。
しかも材料を手に入れやすいのです」
「そう」
「正直、昭国の後宮では挨拶代わりのようなものでしたよ。
あそこは上級妃が100人以上いますから」
さすが東の大国、後宮のスケールも大きい。
「『挨拶代わり』ということは、呪詛の効果を狙っているわけではないということ?
もしかして対象に精神的なダメージを与えることを目的にしているとか?」
「その通りです。
意に介さない者もおりますが、気の弱い者には効きますからね」
「女の嫉妬、こわー!」
コウが震える。
「男の嫉妬だってこわいぞ」
フェンが真面目に答える。
「それで、王太子殿下の部下としては今後どうするつもり?」
「なんか、後宮全体に術をかけろってー」
「後宮の管理者の貴族から王太子殿下に奏上されたようです。
他にも同様の物がないか調べることと、防御の守りを張り直すことを希望されています」
「ふむ……」
「ねーヒメはもうなんか気付いたんでしょ?
教えてくれないの?」
「うーん、どうしようかな?」
「お嬢様、王太子殿下は今回のことがキッカケで、今後同様の事例が出ることを危惧されています。
どうお考えになりますか?」
「私の考えを伝えるのは構わないけど、2つ条件があります」
「なになに?」コウが楽しそうに言う。
「条件とは?」フェンも乗ってきてくれた。
「1つは私が後宮でこのような状況になっていることを、ユリウス様とクローディア家には言わないこと。
もう1つは『私の意思で後宮に留まっているわけではないけど、心配することはない』とユリウス様とクローディア家に伝わるよう手配してもらえないかな?」
「このような状況って、サバイバル侍女してるってことー?
まあ知られたらユリウスはキレるよねー」
「お嬢様、おいたわしい。
王太子殿下に報告して、然るべき手配を取りますので」
「では交渉成立だね」
異国の姫までお付き合い頂きました方々、ありがとうございます。
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