表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人類誕生時代に来たので、人類の支配者になる  作者: 浅霧 瀬智
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/84

77.連行

―― 地上 本部教会 ――



~ ロフィ視点 ~



俺は本部教会の高楼、その最上階にあるドルト様の執務室に立っていた。重厚な扉の向こうには、磨き上げられた白い大理石の床と、天井まで届くステンドグラス。柔らかな光が差し込み、室内を神聖な色彩で満たしている。つい数日前まで、血と煙と怒号に包まれていた貧民街とは、まるで別世界だ。




「……以上が、貧民街での一連の件の報告です」




俺は一礼し、顔を上げた。ドルト様は深く椅子に腰掛け、穏やかな目でこちらを見つめている。その視線は相変わらず優しく、そして鋭い。




「よくやってくれた、ロフィ」




その一言で、胸の奥に溜まっていた緊張がわずかにほどけた。




「大貴族の粛清、黒骸の壊滅。治安の回復。……貧民街はもはや“貧民街”と呼ぶには相応しくないほど改善されたと報告を受けている」

「はい。巡回を強化し、炊き出しと職の斡旋を進めています。灰狼団も表向きは解散し、再編した自警組織として動いています」

「ふふ、そこまで整えたか」




ドルト様は小さく笑った。




「完璧だな。貧民街の民はお前を救世主のように語っているぞ」

「誇張です。私は少し背中を押しただけですよ。皆、自分で立ち上がった」

「謙遜するな。お前がいなければ、今もあの地は黒骸に蝕まれていただろう」




隣でリーナが胸を張る。




「そうだよ! ロフィは寝る間も惜しんで働いてましたから! ちょっとは自分を褒めてもいいよ!」

「お前が寝ろと何度も言ったんだがな?」

「ロフィが無茶するからでしょう!」




ドルト様が微笑みを深める。




「良い部下を持ったな、ロフィ」

「……はい。自慢の副官です」




リーナが一瞬だけ照れた顔をして、すぐに咳払いで誤魔化した。穏やかな空気が流れる。これで一区切りだ。そう思った、その時だった。




控えめだが、迷いのないノック。執務室の空気が変わった。ドルト様の表情がわずかに引き締まる。




「……どうぞ」




扉が静かに開く。現れたのは、純白の法衣に金の刺繍を施した男だった。年の頃は四十代半ば。整った顔立ちに、氷のように冷たい瞳。その胸元には、上級聖職者の中でも最高位を示す紋章が輝いている。




教会の中枢を握る、実質的な最高権力者の一人であるアイク。俺は一瞬で姿勢を正した。リーナも同時に頭を下げる。




「初めまして、ロフィと申します」

「副官のリーナです」




アイクはゆっくりと室内を見渡し、最後に私へ視線を固定した。




「……貴様がロフィか」




その声には感情がない。評価も、賞賛も、敵意も見えない。ただ、測るような冷たさ。




「はい」

「貧民街の件、ご苦労だった」




口では労いの言葉を述べているが、声音は硬い。俺は違和感を覚えた。ドルト様が口を開く。




「アイク殿、突然どうされたのですか?」




アイクは一歩前に出た。




「ロフィを連行する」




空気が凍った。リーナが息を呑む音が聞こえる。




「裁判にかける。即時、身柄を拘束する」




俺は瞬きを一つしてから、冷静に問い返す。




「理由を伺っても?」




アイクの視線が鋭くなる。




「貧民街において、犯罪組織【灰狼団】と共闘した。これは事実だな?」

「……はい。黒骸殲滅のため、一時的に協力関係を結びました」

「犯罪組織と手を組むことは、教会法第三章に明確に違反している」



 

リーナが一歩踏み出す。




「ですが、それは黒骸壊滅という緊急事態への対応で」

「言い訳は裁判で聞こう」




冷たく遮られた。俺はリーナの腕にそっと触れ、制して止めた。アイクは続ける。




「教会は秩序だ。法の上に立つ存在ではない。例外を認めれば、組織は腐る」

「黒骸は大貴族と結託し、街を支配していました。通常の手続きでは被害が拡大していたでしょう」

「だからといって犯罪者を利用してよい理由にはならん」




俺はアイクの目を見つめた。そこには揺らぎがない。だが、何か別の意図が隠れているようにも感じる。




「ドルト様は、この件をご存じでした」




俺が言うと、アイクの視線がわずかに動いた。ドルト様は静かに答える。




「報告は受けている。私の判断で黙認した」

「……ならば、ドルト殿にも事情聴取が必要だな」




アイクの声に、わずかな圧が混じった。アイクの言葉で俺は悟る。これは単なる法の問題ではない、権力の衝突。教会内部の力の均衡。俺の行動が、どこかの利権を揺らしたのだろう。




リーナが小声で囁く。




「ロフィ……どうするの?」

「どうもこうもない」

「裁判なら受けましょう。隠すことはない」




アイクがわずかに眉を上げた。




「抵抗はしないか」

「する理由がありません。私は教会のために動いた」




その言葉に嘘はない。たとえ手段が危うくとも。アイクは背後の聖騎士たちに視線を送る。




「連れていけ」




アイクの後ろにいた人物の鎧の音が響く。リーナが私の前に立とうとする。




「待ってください! ロフィは」

「リーナ」




俺は彼女の肩に手を置く。




「心配するな。すぐ戻る」

「でも……!」

「大丈夫だ。私は間違ったことはしていない」




教会は光の組織だ。だが光が強ければ、影もまた濃くなる。アイクの冷たい視線が背中に刺さる。




「裁判で真実を明らかにしてもらおう、ロフィ」

「望むところです」




俺は聖騎士に挟まれながら歩き出す。扉が開き、外の廊下の白光が差し込む。振り返ると、ドルト様は静かにこちらを見つめていた。その目に、わずかな憂いと信頼。




リーナは唇を噛みしめている。俺はうれしくなり小さく笑った。貧民街の戦争より、厄介な戦いが始まりそうだ。教会の中枢での裁判。これは俺一人の問題ではない。だが逃げはしない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ