52.ドラゴン
―― 宇宙要塞ハコシロ エンリ研究所 ――
「……やはり、最初は幼体からがいいですね~」
「俺もそう思っていた」
力は後からでも与えられる。だが、絆は最初からでなければ意味がない。神である俺がペットを持つなど前代未聞だが、どうせなら、最初から「親」として認識される存在がいい。
研究区画の中心に、小さな魔法陣を展開する。それでも込められたマナの質と密度は、世界最高峰だ。そこにエンリの改変魔法が加えられる。
「今回は、精神構造をかなり単純化します~。ご主人様を絶対的な親と認識するように~。恐怖ではなく、安心を基準にします~」
「……随分と優しい設計だな」
「ペット、なので」
少しだけ、からかうような口調。だが、その目は真剣だった。俺はマナ解放し創造魔法を、魔法陣へと流し込む。存在そのものを刻み込む。光が収束し、マナが形を持ち、次の瞬間。
「……きゅ?」
小さな、か細い鳴き声が響いた。そこにいたのは、俺の両腕で抱えられるほどの小さなドラゴンだった。
鱗はまだ柔らかく、淡い青色。翼も小さく、しっかりと折りたたまれている。だが、確かに“ドラゴン”の気配を持っている。
「……」
俺が見つめると、幼いドラゴンは、少し首を傾げ、翼を少し動かして空中に浮かぶ。そしてぴと、と俺の胸に額を擦りつける。
「…………」
「成功ですね」
エンリが、満足そうに微笑む。
「完全に、親認識です」
「……ああ」
俺は、そっとドラゴンを抱き上げた。温かい。鼓動が、はっきりと伝わってくる。幼いドラゴンは、安心したように小さく鳴き、俺の腕の中で丸くなる。その時だった。
「なにこれえええええ!!」
甲高い声と共に、セリアが研究室に飛び込んできた。
「ドラゴン!?え、ちっちゃ!?かわいい!!」
「……誰に入室許可を」
「そんなの今はどうでもいいです!」
セリアは、私の腕の中のドラゴンを見て目を輝かせた。
「我が主。それ、触ってもいいですか!?」
「……一応、私のペットだが」
「それでは、私と兄弟みたいなものですよね!」
意味がわからん。だが、彼女が指を伸ばすと、幼いドラゴンは一瞬だけ警戒しすぐに、くん、と匂いを嗅いでから、尻尾を振った。
「きゃあああ!なついた!!」
その騒ぎを聞きつけたのか。
「あら……?」
「これは……」
次々と、ハンティとリフコが集まってくる。どうやら、ハルから俺がペットを作り出す事を聞いて、気になって来たみたいだ。
「なんと愛らしい……」
「ドラゴンって、こんなに小さい時があるのね」
研究室は、いつの間にか女神が全員集合になっていた。
「……触っていい?」
「一瞬だけよ?」
気づけば。幼いドラゴンは、みんなに囲まれていた。撫でられ、抱き上げられ、翼を広げられ、頬ずりされ。
「きゅー……」
ドラゴンは抵抗するどころか、完全にご満悦だった。
その中に、明らかに様子のおかしい人が一人いた。ハンティだ。彼女は、幼竜をじっと見つめながら、落ち着きなく指を動かしている。一歩前に出ては、止まり。手を伸ばしかけては、引っ込め。肩が、微妙に揺れている。
「……主様。触っても……いいですか?
ハンティが、そわそわしながら声をかけてきた。声が、やや上ずっている。
「そんなに緊張する必要はないだろう」
「し、しかし……!」
彼女は、ちらっと幼竜を見る。幼竜は、俺の裾にしがみついたまま、首を傾げている。
「……可愛すぎます」
本音が漏れた。周囲の幹部たちが、くすくすと笑う。
「生まれたばかりのせいか、すごくツバイ様に懐いてますね。」
リフコはドラゴンを撫でながら、感心したように言う。
「ご主人様は“お父さん”ですから」
エンリ女神が、さらりと言う。
「私たちは……そうですね~。叔母、でしょうか~」
「異議あり!私は母親になります。」
エンリは母親を立候補をする。俺と彼女の子供として育成したいようだ。エンリの発言で、空気が変わった。
「ツバイ様は父親役ですよね?じゃあ、母親は幹部リーダーである私が適任では?」
「わたしの改変魔法があったから生まれたのですよ~?」
「いえ、みなさん忙しいでしょう。幹部の中では私が一番時間が取れます。」
気づけば、幹部たちが輪になって言い争っている。
「順番制にしましょう!」
「血縁がないのに、順番制とは?」
「じゃあ、じゃんけんで!」
「女神がじゃんけん……?」
俺は、頭を押さえた。
「……お前たち。このドラゴンは、世界の象徴だ。母親を一人に決める必要はない。全員で育てる。それでいい」
幹部たちは、顔を見合わせ
「……共同育児?」
「……それ、アリですね」
「可愛がれるなら、何でもいいです!」
納得したらしい。ドラゴンは、そんな騒ぎなど気にせず、俺の肩で丸くなった。
「きゅ……」
眠そうだ。俺は、その小さな頭を撫でる。




