表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人類誕生時代に来たので、人類の支配者になる  作者: 浅霧 瀬智
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/68

50.祝勝会

―― 地上 王城のパーティー会場 ――


レオンの治療が完全に終わった頃、国は、静かな狂騒に包まれていた。


街に降りれば、どこもかしこもその名で溢れている。酒場では吟遊詩人が即興の英雄譚を歌い、広場では子供たちが木剣を振り回し「レオンごっこ」に興じていた。平民たちは、己と同じ出自の者がここまで辿り着いたことに、心の底から酔っている。


ゼロマから、スカマ。スカマからレズマ。そしてオーブマへ。

彼らにとって、それは単なる昇格ではない。夢が現実になった証明だ。だが当然、光があれば影もある。王都の奥、重厚な石壁に囲まれた貴族街では、別の会話が交わされていた。称賛ではない。祝福でもない。


「さて、どう使う?」

「平民の英雄、か……扱いを誤れば厄介だぞ」

「だが外国への牽制には最適だ」


彼らの目に映るレオンは、人ではない。国益の駒だ。


「……相変わらずだな、人間というものは」


 私の呟きに、隣を歩くリフコがくすりと笑う。


「それでも今回は、少しは健全ではありませんか?平民が希望を持ち、貴族が計算を巡らせ、国が未来を誇示する」

「健全、ね」


俺は肩をすくめた。

貴族の一部は、祝杯の裏で算段を弾いていた。英雄とは、剣であり、旗であり、時に駒だ。それらすべてを承知したうえで、国王は式を開くことを決めた。


戦争の勝利。レオンという英雄の顕彰。そして、オーブマ誕生の予告。内外へ向けた、最大級のアピールだ。


場所は、王都中央宮殿。天井の高い大広間は、各国の使節と貴族、聖職者で埋め尽くされていた。外国に見せつけるための、国家的演出だ。だからこそ、国王自らが主催する。だからこそ、私は“神として”招かれた。


挿絵(By みてみん)


正直に言えば、興味はない。国と深く関わる気もない。私はこの世界の管理者であって、政治の一部ではないからだ。それでも来た理由は、ひとつだけ。


「……一言、言わねばならん」

「ふふ。師匠の顔ですね」


リフコはそう言って、俺の腕にそっと自分の腕を絡めた。会場は、王城最大の大広間。天井から吊るされた無数の灯が、夜空の星のように輝き、各国の使節、将軍、重鎮、筆頭貴族たちがずらりと並ぶ。


ざわめきは、俺たちが姿を現した瞬間に凍りついた。神である俺と、女神のリフコ。それも、エスコートという形で並び立つ存在。


「……神様、だ」

「本当に降臨なされたのか……」


誰かが息を呑み、次の瞬間、まるで波のように、全員が跪いた。音が消える。豪奢な広間に、衣擦れの音すら響かない。


「楽にしろ」


俺が短く言うと、恐る恐る顔が上がる。その中に、見覚えのある顔があった。レオンだ。正装に身を包み、胸には勲章。だがその立ち姿は、飾り立てられた英雄というより、場違いなほど静かな剣士だった。


民衆の熱狂も、貴族の打算も、この男の中ではまだ整理がついていない。国王が進み出て、深々と頭を下げる。


「神様。本日は、我が国の勝利と、英雄レオンの新たな門出を祝う場にお越しいただき、感謝いたします」

「形式的な挨拶は不要だ。今日は祝宴なのだろう?」

「……はっ」


俺は女神を伴い、ゆっくりと歩を進める。人々が自然と道を空ける中、俺はレオンの前で足を止めた。視線が、交わる。彼の目に浮かぶのは、畏怖でも驕りでもない。戸惑いと、覚悟だ。


俺は周囲の視線を気にすることなく、静かに口を開いた。


「レオン」

「……はい」

「ゼロマから、ここまで来たな」


それだけで、彼の喉が小さく鳴る。


「だが勘違いするな。オーブマとは、祝われる立場ではない。試され続ける立場だ」


会場の誰もが、息を潜めて聞いている。


「民はお前に夢を見る。貴族はお前を利用しようとする。国はお前を掲げ、敵はお前を狙う。それでも剣を握れるか?」


レオンは、ほんの一瞬だけ目を伏せ、そして真っ直ぐに私を見た。


「……はい」

「ならばいい」


それ以上、言うことはない。祝福も、称賛も、神として与える言葉ではない。


俺は踵を返し、リフコと共に歩き出しパーティー会場を後にする。背後で、ようやく音が戻った。喝采、音楽、祝宴の始まり。


「これで満足ですか?」

「ああ。十分だ」



~ レオン視点 ~


神様である御方が会場を去った後も、広間の熱は冷めなかった。むしろ、あの存在が去ったことで、張りつめていた空気が一気にほどけた気がする。


「レオン! お前、完全に主役だな!」


声をかけてきたのはカイルだった。杯を片手に、いつもの豪快な笑顔を浮かべている。


「やめてくれ……さっきから視線が痛いんだ」


実際、周囲からの視線は刺さるようだった。称賛、好奇心、計算。いろいろ混ざっているのが、はっきり分かる。


「でもよ、あの神様……すげぇよな。威圧感が半端じゃなかった。俺、戦場より緊張したぞ」

「……うん」


僕は、グラスを持つ手を見つめながら答えた。


「不思議なんだ。確かに神様なんだけど……どこか、師匠みたいだった」


カイルが目を丸くした。


「師匠?」

「威圧してくるのに、突き放さない。見てるだけなのに、背中を押される感じがしてさ」

「じゃあ、相当いい師匠だな。普通の神様は、そんな面倒なことしねぇ」


その会話を聞いていたかのようなタイミングで、重厚な足音が近づいてきた。


「レオン」


騎士団長だった。白髪混じりの厳格な顔に、今日は珍しく柔らかい笑みがある。


「よくやった。戦場でも、国の内でも、お前は剣を抜くべき時と、抜かぬ時を選んだ」

「……恐縮です」

「その判断力こそ、騎士団に必要だ。これからも期待している。」


騎士団長は俺の肩を軽く叩き、去っていった。続いて、国王陛下。重鎮たちを連れて、ゆっくりと歩み寄ってくる。


「レオン」

「陛下……!」

「堅くなるな。今日は祝宴だ」


国王は、穏やかな声で言った。


「お前の存在は、国に希望をもたらした。平民にも、貴族にもだ」


後半に、わずかな含みを感じたが、それを責める気にはなれなかった。


「これから先、重荷も増えるだろう。だが、孤独ではない。この国は、お前を支える」


その言葉に、胸が熱くなる。


「ありがとうございます」


重鎮たちも、それぞれ祝いの言葉を述べて去っていった。気づけば、僕は何度頭を下げたか分からない。


「……疲れた顔してるぞ、英雄様。まだ始まったばかりだ」

「これ以上、何があるんだ……」


そう思った、その時だった。


「レオン様」


鈴の鳴るような声。振り向くと、そこにいたのは、見事なドレスに身を包んだ、貴族の令嬢だった。淡い色の髪。計算された微笑。


「本日は、まことにおめでとうございます」

「あ、ありがとうございます」


距離が、近い。


「平民出身でありながら、ここまで登り詰められるとは……まさに、運命に選ばれた方。もしよろしければ、今度――」


言葉を続けようとする彼女の背後から、別の令嬢が現れる。


「レオン様、こちらでもお話を――」


……あれ?さらに、もう一人近くにいた。気づけば、包囲されていた。


「え、えっと……?」


助けを求めてカイルを見ると、あいつは完全に楽しんでいる顔だった。


「モテ期だなぁ、レオン」

「お前、助けろ!」

「無理無理。これは戦争より厄介だ」


僕の耳元で、カイルが囁く。


「いいか、まず落ち着け。愛想を良くして、優しく接しろ。そして、誰か一人を特別扱いするな」

「経験ないからできる気がしない……!」

「大丈夫だお前は英雄だ。今はそれでいい」


令嬢たちの視線が、期待に満ちて輝いている。


(……戦場より難しい。)


心の中でそう呟きながら、必死に笑顔を作った。試練は、終わったはずなのに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ