43.魔獣
ー 宇宙要塞ハコシロ エンリ研究室 ー
宇宙要塞ハコシロは、地球の近くに停泊している。日々進化する魔術のお陰でゲーム時代より様々な事が進歩している。無数の光の帯が窓の外を流れ、魔術と理論が混ざり合った機構が低く唸りを上げている。
俺は空中都市からは転移で到着して、いつものように研究区画の最奥へと向かった。ここにいるのは、研究分野で一番頼りになる存在。
「珍しいですね~、ご主人様~。呼び出しもなくここに来るなんて~」
振り向いたエンリは、白衣のような法衣を着込み、背後に無数の魔術を展開していた。研究大好き、実験狂、好奇心の権化。エンリは世界を滅ぼす装置を作りながら、同時にその改良点を楽しそうに語れる女神だ。
「久しぶりだな」
「は~い。前に会ったのは~……新しい魔術を一生に考えた時です~」
「今回は、もっと個人的な用件だ」
その一言で、エンリの目が輝いた。エンリは、世界のための研究より、面白い依頼のほうが好きなのだ。
「個人的、ですか~。いいですね~。で、何を壊せば~?」
「壊すな。……いや、壊してもいいが、今回は“生み出す”方だ」
俺は研究台の縁に腰掛け、率直に切り出す。
「バケモノを作ってほしい」
「……ほう?」
エンリは即座に興味を示した。すでに頭の中で設計図を描き始めているのが分かる。
「用途は?」
「弟子の最後の試練だ」
その瞬間、彼女はにやりと笑った。
「なるほど。あの平民出身の英雄候補ですね。最近の観測データ、全部見てますよ」
さすがだ。俺は頷き、続ける。
「戦闘力は高くする。剣技だけではどうにもならないレベルだ」
「ふむふむ。物理耐性も盛ります?」
「当然だ。生半可な一撃では倒れないように」
エンリは指を鳴らし、空中に半透明の構造図を浮かべた。
「ご主人様が本当に欲しいのは~……精神攻撃、ですよね~?」
俺は、ゆっくりと肯定する。
「ああ。レオンは強くなった。剣も、覚悟も、信念も。だからこそ次に壊すべきは、心だ」
エンリは肩を震わせ、くすりと笑った。
「神様らしい発想です~」
「精神を直接攻撃するバケモノにしてほしい。恐怖、後悔、罪悪感……あらゆる感情を増幅させる存在だ」
「トラウマの再生、幻覚投射、思考干渉……それって普通のマナ付与じゃ無理ですよ~?ご存じのとおり――」
「わかっている。動物にマナを与えても、変化は起きない」
この世界の理。マナを発見した当初に研究して発覚した真実。人に定着したマナしたが、動物では変化がない。いくらマナを注ぎ込んでも、動物は“動物のまま”だ。エンリはにやりと笑った。
「でも~、私なら可能です~」
誇らしげでもなく、謙虚でもない。ただ事実を述べる口調。
「《改変魔法》を使えば、マナを受け取れない存在”という前提そのものを書き換えられます」
―― 改変魔法 ――
エンリがマナを鍛えて無限マナを得た時に新しい概念が生まれた魔法。この魔法は森羅万象の物事を改変して操る事が出来る。エンリは改変魔法を自分のあらゆる研究に使用して、失敗するような実験を無理やり成功にしていた。
彼女は次々と要素を挙げていく。
「どれくらいえげつなくします~?」
「全力で。レオンは、仲間の死を背負っている。英雄として称えられ、多くの期待を向けられている」
俺は静かに言う。
「だが、誰も“それに耐えられるか”は問わなかった」
エンリは真剣な表情になった。
「つまり~、そのバケモノは――」
「彼自身の内面を映す鏡だ」
俺は立ち上がり、研究区画を見回す。
「逃げれば、彼は英雄になれない。勝てば……オーブマへの道が見える」
エンリは少し考え込み、やがて口元を歪めた。
「いいですね~。では、こうしましょう~」
彼女は魔術を重ね、設計を具体化していく。
「肉体はオーブマの身体強化の3倍~。マナ循環は~王族クラスを超えます~。知性は~人間並み以上です~。」
「攻撃方法は?」
「物理攻撃はシンプルに~破壊力特化~。精神攻撃は~、対象の記憶を読み取り~、最も“刺さる言葉”を幻聴で聞こえます~」
「泣かせに来ているな」
「心が折れなければ~、どんな力を与えても無意味ですもの~」
エンリは最後に、楽しそうに付け加えた。
「ちなみにご主人様~。このバケモノ~、暴走したら世界一つくらい滅ぼせますが~?」
「問題ない。結界を作り、結界の中で試練してもらう。」
「わかりました~」
彼女は満足そうに頷いた。
「完成まで少し時間をください~。最高傑作にしますから~」
「頼んだぞ」
「はい~。レオン君がどんな顔をするか~……今から楽しみです~」
背後で、研究装置が再び唸りを上げる。弟子の最後の試練は、近い。そしてその試練は、剣ではなく心を試すものになる。




