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人類誕生時代に来たので、人類の支配者になる  作者: 浅霧 瀬智
第2章

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42.英雄の期待 (イラストなし)

―― 空中都市 中央城 ――


空中都市の回廊は、いつもと変わらず静かだった。白い石床に反射する光、遠くで流れる雲海。俺は玉座でも作業台でもなく、窓際に腰を掛けていた。神として世界を見下ろすには、ここが一番都合がいい。


「……予想より、早いですね」


背後から声がした。振り返らなくても分かる。部下のリフコだ。


「報告か?」

「はい。レオンに関する件です」


その名を聞いた瞬間、胸の奥がわずかにざわついた。英雄の名だ。英雄という存在は、いつの時代も扱いが難しい。リフコは水晶板を展開する。そこに映し出されたのは、王都、地方都市、村々そして、人々の顔だった。


「レオンの表彰、天使による祝福、レズマへの昇格。そのすべてが、想定以上の速度で国中に広まっています」

「平民出身。ゼロマから始まり、スカマとなり、戦争で英雄となり、ついには天使から直接マナを与えられレズマへ」


リフコは、少し言葉を選ぶように続ける。


「民衆にとって、あまりにも“都合のいい奇跡”でした」


水晶の映像が切り替わる。酒場で語り合う平民たち、広場で演説する若者、レオンの名を掲げた布いや、旗。


「レオン様なら、この国を変えられる!」

「貴族なんかより、俺たちの味方だ!」

「平民からレズマになったんだぞ!」


 熱狂。それは信仰に近い。いや、すでに信仰そのものだ。


「……熱狂的、という言葉では足りないな」

「はい。特に平民層で顕著です。彼らにとってレオンは、選ばれた貴族ではなく、自分たちの延長線上にいる英雄”です」


リフコは、少しだけ目を細めた。


「希望、憧れ、そして……嫉妬と怒りも混ざっています」


次の映像で、俺は眉をひそめた。武器を持つ集団。訓練と称した私兵のような集まり。彼らの口から出てくる言葉は、


「レオンを、オーブマにしろ」

「英雄には、もっと戦場が必要だ」

「戦争がなければ、英雄は輝けない」



「一部の熱狂的支持者が、レオンがさらに上へ行くためには戦争が必要という思想を広め始めています」

「周辺国への挑発、武装蜂起の噂、最悪の場合、内乱や対外戦争を引き起こしかねません」


俺は、深く息を吐いた。


(英雄を称えた結果、英雄を“道具”にしようとする民意が生まれた、か)


映像が切り替わって貴族街。屋敷の奥で密談する貴族たち。


「レオン殿を担げば、民意は我々に集まる」

「副団長という立場も、利用価値が高い」

「彼がいずれ団長、いや……それ以上になれば」


少ない貴族の支持。だがそれは、敬意ではない。


(貴族は利用する気、満々だな)


皮肉な話だ。レオン本人は、戦争を望んでいない。それを、俺は知っている。


「……レオン自身は?」

「困惑しています。支持者に距離を置こうとしていますが、逆に“謙虚な英雄”として神格化が進んでいます」


俺は、思わず苦笑した。


「逃げても追われる。否定しても、勝手に解釈される……典型的な英雄の末路だな」


リフコは黙って頷いた。しばらく、空中都市に沈黙が落ちる。雲がゆっくりと流れていく。


「……俺の責任だ」


そう口にした瞬間、リフコがこちらを見た。


「ツバイ様?」

「レオンを導いたのも、戦争の舞台を整えたのも、天使に祝福を与えさせたのも、全部、俺だ」


英雄は自然発生しない。いつだって、誰かの意思と環境が作り出す。


「だが……面白い」


 俺は、少しだけ笑った。


「人は、英雄を求める。だが同時に、英雄を利用して現実を壊そうとする」


リフコは眉をひそめる。


「放置すれば、国は再び戦火に包まれます」

「分かっている」


俺は立ち上がり、窓の外を見る。


「だからこそ次は、試練の種類を変える必要がある」


戦争は、もう十分だ。これ以上、レオンに血を浴びさせる必要はない。


「リフコ。民衆の動きを、過度に抑えるな」

「……よろしいのですか?」

「ただし、誘導しろ。戦争で英雄を作る時代は終わったと、別の形で示す」


リフコは、ゆっくりと笑った。


「なるほど……わかりました。」

「レオンは、剣で成り上がった。だからこそ、剣を振るわずに国を救う役割も、与える」


オーブマになるかどうかは、力の問題じゃない。在り方の問題だ。

リフコは深く一礼した。


「理解しました。では、次の盤面を整えましょう」


空中都市の静寂の中、俺は再び地上を見下ろした。


(英雄とは、希望であり、災厄でもある)


レオン。お前は、もう“個人の剣士”じゃない。だが、それでも折れずに進めるかどうか。次の試練は、剣よりも、重い。


「さて……この世界は、英雄をどう扱うつもりだ?」


答えは、まだ出ていない。


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