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人類誕生時代に来たので、人類の支配者になる  作者: 浅霧 瀬智
第2章

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39.戦争⑤

―― 地上 草原の戦場 ――


~ レオン視点 ~


補給地点の襲撃が成功したと聞かされた時、僕は達成感よりも、まず安堵を覚えた。生きて戻れた。それだけで、十分だったはずなのに。だが戦争は、僕に休息を与えてはくれなかった。


「レオン。前線へ回ってもらう」


上官のその一言で、一変した。後方の護衛や奇襲要員ではない。正面から敵とぶつかる場所だ。剣を握る手が、わずかに震えた。怖くないわけがない。だが、もう逃げることもできなかった。


敵軍は明らかに弱っていた。補給が断たれ、部隊の動きが鈍り、指揮が乱れている。


「前進するぞ! 今だ!」


号令が響き、戦線が動く。俺は自然と、最前列に立っていた。敵兵が突っ込んでくる。マナを纏った斬撃。以前なら、身を引いていただろう。だが今は違う。


――受ける。


剣が震え、腕に衝撃が走る。だが、その力は僕の中に留まる。


「……返す」


踏み込み、振る。敵の体が吹き飛び、地面に叩きつけられる。


挿絵(By みてみん)


「レオンがいるぞ!」

「前に出ろ! あいつに続け!」


声が上がる。兵士たちが、僕の背中を見て動き出す。僕は剣を振るう。

考える暇はない。受けて、返す。ただそれだけ。

敵の陣形が崩れ、逃げ腰になる。その瞬間を、僕は見逃さなかった。


「今だ! 押し切れ!!」


僕の叫びに、兵士たちが応える。剣、槍、盾を持った人の意思が、一つの流れになる。戦場を駆けながら、僕は気づいていた。恐怖が、薄れている。


死ぬのは怖い。仲間が倒れるのは、今でも辛い。

しかし、それ以上に、「守りたい」という感情が勝っている。


次々と敵を倒しながら、思う。


(僕は、奪うために剣を振っているんじゃない)


村を焼かれた人々の顔。補給地点で怯えていた兵士たち。傷だらけで笑ったカイル。


(これ以上、奪わせないためだ)


レスマの敵将が現れた。強力な魔力を纏い、周囲を圧倒する。


「スカマ風情が、調子に乗るな!」


叫びと共に、マナの斬撃が飛ぶ。僕は真正面から受け止めた。衝撃で足が沈む。だが、もう折れない。


――溜める。

――重ねる。


振り抜いた一撃が、魔力ごと敵将を斬り伏せた。静寂。次の瞬間、敵軍が崩れ始める。


「撤退だ!」

「退け!」


悲鳴と混乱。僕たちは追撃した。それは、虐殺ではない。

戦争を終わらせるための、最後の押し込みだった。日が傾く頃、戦場は静まり返っていた。


勝った――

誰かが呟く。


僕はは剣を下ろし、その場に座り込んだ。体が、ようやく痛みを訴え始める。


「レオン……すごかったな」


仲間が声をかけてくる。僕は、苦笑いしかできなかった。


「……俺は、怖かったよ」


それが本音だった。だが、誰かが言った。


「それでも前に出た。それが英雄だ」


夜、焚き火の前で、兵士たちが僕の戦いを語っている。誇張された話。剣一振りで十人倒したとか、魔力を跳ね返したとか。僕は少し離れた場所で、それを聞いていた。


(英雄、か……)


そんな大層なものじゃない。それでも、僕が前に立つことで、誰かが生き残れるなら。誰かが、明日を信じられるなら。剣を握る理由としては、十分だった。


僕は夜空を見上げ、静かに息を吐いた。兵士たちが集まってくる。誰かが僕の肩を叩き、誰かが泣いている。


「あなたのおかげだ」

「英雄だ……!」


ただ前に立っていただけだ。しかしそれで、戦争が終わったのなら。

空を見上げる。遠く、雲の向こうに、師匠がいる気がした。


(……これで、いいんですよね)


答えはない。だが、胸の奥に、小さな温かさが残っていた。


野営地の端に設けられた治療用の天幕は、いつもより静かだった。入口の布をくぐると、薬草と血の匂いが混じった空気が鼻を刺した。低くうめく声、規則的な寝息。生き残った証と、失われかけた命の境界線が、ここにはある。


「……カイル」


彼は簡易寝台の上で横になっていた。包帯に覆われた胸と腕。顔色はまだ悪いが、呼吸は安定している。生きている。それだけで、胸の奥が緩んだ。


「よう……英雄様」


かすれた声。目を開けて、無理に笑う。


「やめてくれ。その呼び方」


僕は寝台の横に腰を下ろした。剣を置く音が、やけに大きく響く。


「……俺が遅れたせいで」

「違う」


カイルは、即座に遮った。


「お前が前に出たから、俺は生きてる」


その言葉に、返す言葉が見つからなかった。包帯の隙間から見える傷は、深い。僕の中で、あの時の光景が蘇る。吹き飛ばされるカイル、血に染まる草原。


「……怖かった」


 俺は、正直に言った。


「みんなが死んでいくのを見て……君まで失うかと思って」


カイルは、天幕の天井を見つめたまま、ゆっくり息を吐いた。


「戦争だ。怖くない奴なんて、いねぇよ………それでも……お前は前に出た。俺は、それでいいと思ってる」


英雄だとか、才能だとか。そんな言葉より、その一言の方が、胸に重く残った。


「次は、絶対にお前を置いて行かない」


カイルは、小さく笑った。


「だったら……早く強くなれよ。俺が追いつく前に、死ぬな」

「約束だ」


僕は立ち上がり、剣を背負った。天幕を出る前、振り返る。


「カイル。生きててくれて、ありがとう」


返事はなかった。だが、布越しに聞こえた小さな笑い声が、答えだった。

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