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人類誕生時代に来たので、人類の支配者になる  作者: 浅霧 瀬智
第2章

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35.戦争①

―― 地上 戦場の草原 ――


草原は、すでに戦場の色に染まっていた。踏み荒らされた草は泥と血を吸い、風は金属と恐怖の匂いを運んでくる。


俺はその中央に立っていた。目の前の敵軍は、もはや戦う形を失っていた。


「ど、どこから来る!?」

「さっきまで味方だった部隊が、急に――!」


叫び声が重なり、怒号が混線する。エンリの兵法は、すでに敵軍の思考そのものを壊していた。

敵は見ているはずの光景を信じられず、信じたい情報だけを拾い、結果として誤った判断を積み重ねていく。陣形は崩れ、命令は届かず、恐怖だけが増幅される。


俺は、その隙間を縫うように歩いた。


「――来るぞ!」


魔力を帯びた剣を構えた敵兵が、焦った動きで突っ込んでくる。

スカマ級の兵士だろう。普段なら、平民兵を蹴散らせる力量を持つ。



剣の一振りで空気が震える。俺は一歩、踏み込む。斧を横から振るうだけ。技名も、神技もない。ただの横薙ぎ。金属同士がぶつかる音。剣は受け止めたが、騎士の腕が耐えきれず、体勢が崩れる。


「なっ――!」


驚く顔を見下ろし、今度は斧を縦に振り下ろす。鎧の継ぎ目。人間が無意識に守りを薄くする位置。そこを狙うだけだ。騎士は地面に沈んだ。


俺は足を止めない。次、次、その次。


斧という武器は、剣よりも重く、扱いづらい。だがその分、一撃の重みが違う。

俺は力任せに振っているわけではない。重心、遠心、踏み込み、すべてを計算した上で、最短で“壊す”。


マナ障壁を張った敵兵が突進してくる。普通なら、魔術で削るか、槍で止める場面だ。


だが俺は斧を回した。柄を軸に、刃を円を描くように振り回す。障壁に当たった瞬間、斧の刃は弾かれず、叩き潰す。


マナが砕け散る。障壁は割れるガラスではない。重ねられた膜が、圧に耐えられず、崩壊するのだ。


「ありえない……! マナなしで……!」


敵兵の悲鳴を背に、私は踏み込む。斧の石突きを顎に叩き込み、倒れたところを刃で地面に縫い止める。


周囲では、似たような光景がいくつも生まれていた。禁忌国家の兵たちは、決して無茶な突撃をしない。

敵が混乱し、判断を誤った瞬間だけを狙い、確実に戦力を削いでいく。


「くそ……なぜ、囲まれている……?」


敵指揮官の声が聞こえた。彼らは理解できていない。

自分たちが「囲まれている」のではなく、「追い込まれている」ことを。


エンリの兵法は、戦場を巨大な迷路に変える。

敵に選択肢があるように見せかけて、すべてが誤りになるよう誘導する。俺は内心で感嘆していた。


敵の騎士団が、最後の力を振り絞るように集結してくる。

貴族階級あるでレズマの騎士たちだ。


「押し切れ! 数ではまだ勝っている!」


その判断自体が、すでに罠だった。俺は深く息を吸い、剣を構える。

敵騎士が突撃してくる、その瞬間に背後で、地面が震えた。


エンリが仕込んでいた魔術が、今度は「音」と「振動」だけを誇張する。

敵の感覚は狂い、距離感が歪む。


「なっ……速い!?」


違う。俺が速いのではない。相手が、正しく認識できていないだけだ。

俺は騎士の懐に入り、鎧の継ぎ目を正確に打つ。一撃、二撃。

致命傷は与えず、動けなくする。


挿絵(By みてみん)


戦争は、力のぶつかり合いではない。人間の心が、どれだけ耐えられるかの試験だ。俺は斧を振るいながら、ふと考える。弟子のレオンは、今、この戦場をどう見るだろうか。


恐怖に震えるか。怒りに燃えるか。それとも、守るために立ち続けるか。

いずれにせよ、この光景は彼の試練だ。そして同時に、エンリの実験場でもある。


敵軍は、ついに後退を始めた。秩序だった撤退ではない。恐怖に押し出されるような、崩壊だ。


俺は斧を下ろし、荒くなった呼吸を整える。汗も、疲労も、本物だ。戦場に身を置くのは、思った以上に疲れる。


「……なるほどな」


俺は小さく呟く。エンリの兵法は、確かに恐ろしい。力を持たぬ者でも、戦争の形を変えてしまう。


「見事でした」

エンリが近づいて来て、満足そうに言う。


「敵の士気低下、想定以上です。マナを全く使わない戦闘技術。前線に“規格外”が一人いるだけで、ここまで影響が出るとは」


「……褒められても、あまり嬉しくないな」


俺は草原を見渡した。倒れた兵。動かなくなった身体。風が吹き、血の匂いが鼻を刺す。


「感想はどうですか?」

エンリが興味深そうに聞いてくる。俺は少し考え、正直に答えた。


「……つまらない………いや、正確には、気分が悪い」


俺が、戦争を体験してみたいなどと言い出したのは、好奇心からだった。軽い気持ちだった。だが実際に斧を振るい、人が倒れ、逃げていく背中を見ると、胸の奥に、重たいものが残る。人は大勢殺した事は何度もあるが、自分の信念や理由がない戦争はそれとは違う何かがあった。


「勝っても、何も残らない。ただ、壊れただけだ。人も、土地も、心も」


エンリは少し驚いたように目を瞬かせ、それから小さく笑った。


「珍しいですね。我が主がそんな感想を持つなんて」


「これは、人間に任せるべきものだ。俺が楽しんでいい遊びじゃない」


遠くで、再編成を始める敵軍の影が見える。戦争は、まだ終わらない。

だが私はもう、十分に体験した。


「……次は、前線から少し下がろう」

「わかりました。終わったら私が癒してあげます。」

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