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人類誕生時代に来たので、人類の支配者になる  作者: 浅霧 瀬智
第2章

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33/38

33.体験

―― 空中都市 中央城の会議室 ――


戦争という言葉は、人間にとっては重く、神にとってはどこか遠い。

それでも今、私はその渦中に足を踏み入れようとしていた。


雲よりも高い場所にある会議室で、私は椅子に深く腰掛け、片手で頬杖をついていた。眼下では二つの国が、血を流す準備を整えているというのに、ここは相変わらず静かだ。


「……で、現状の戦力はほぼ互角、と」


俺は空中に浮かぶ光の盤面を指でなぞりながら、そう呟いた。盤面には二つの国の軍勢が簡略化されて表示されている。禁忌国家と、レオンが属する国。兵数、装備、士気、地形条件。どれを取っても致命的な差はなく、綺麗に釣り合っていた。


「はい」

対面に立つエンリが、腕を組んで頷く。

「奇襲も長期戦も、どちらに転んでもおかしくありません。人間同士なら、数年は泥沼になりますね」


エンリの声は落ち着いているが、その瞳は妙に楽しげだった。理由は、わかっている。


「……兵法、か」

「はい!」

途端にエンリは一歩前に出た。


「私が考案した新しい陣形と指揮体系です。人間の戦争理論を基礎にしつつ、マナ伝達と心理誘導を組み合わせています。実戦で通用するか、とても興味がありまして!」

「机上の理論じゃ満足できない、と」

「はい。戦場でこそ、兵法は完成しますから」


やはり、そこか。戦術家気質のエンリらしい。


俺は盤面から視線を外し、玉座の背にもたれた。弟子の顔が、自然と脳裏に浮かぶ。レオンは今頃、初めての戦争に緊張しながら剣を握っているはずだ。


「レオンにとっては……まだ試練としては重すぎるな」

「同感です」


エンリは即答した。


「彼は才能がありますが、経験が足りません。国家同士の戦争は、個の強さだけではどうにもならない」


俺は小さく息を吐く。だからこそ、この状況を“教材”として使うには、少し工夫がいる。


「なら、こうしよう」


 私の言葉に、エンリが首を傾げる。


「禁忌国家の指揮は、お前が執れ」

「……よろしいのですか?」


「もちろん。自分で考えた兵法が、本当に機能するか試したいんだろう?」


エンリは満面の笑みで喜んでいた。

「ありがとうございます。我が主。」

「俺は強い兵士として、前線に出る」


エンリが一瞬、言葉を失った。


「……理由を、お聞きしても?」


俺は肩をすくめる。


「戦争に参加してみたい」

「……それだけ、ですか?」

「それだけだ」


本当に、それ以上でも以下でもない。神として、天上から眺める戦争にはもう飽きた。人間が作る混沌、恐怖、勇気、愚かさ。それを“現場”で体験してみたくなっただけだ。


それに、弟子が血を流している戦場に、師匠が一度も足を踏み入れないのも、少し薄情な気がした。


「安心しろ。私は目立たない」

そう言うと、エンリは半信半疑の顔をする。


「我が主が目立たない、というのは無理があるかと……」

「気配も力も封じる。ただの、やたら強い兵士だ」


エンリは少し考え込み、それから小さく笑った。


「……わかりました。では私は、指揮官として全力を尽くします。自分の兵法が、どこまで通用するのか……とても楽しみです」


その笑顔は、戦争を前にしたものとしては不謹慎だが、神の側近としては、実に正しい。

俺は立ち上がり、盤面を見下ろす。


互角の戦力。人間同士なら、無数の死が積み重なる戦い。

だが今回は違う。禁忌国家には、女神の指揮があり、前線には俺がいる。


挿絵(By みてみん)



「戦争ってやつを、少し体験してみるとしようか」


軽い気持ちだ。だが、その軽さが、どれほどの波紋を呼ぶのか、それを知るのも、また一興だろう。


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