18.エンリと混浴
―― 空中都市 露天風呂 ――
空中都市のツバイが住む城に露天風呂があった。木々の隙間から差し込む夜の光が湯面に反射し、蒸気とともに白く揺らめく。ツバイは、この場所の静寂と温かさを感じ取ることができた。
「……こんな自然の配置で湯温が完璧に保たれているとは~」
ツバイの配下であり、妻でもある女神、エンリは、好奇心に満ちた瞳を輝かせて湯面を観察していた。小さく蒸気を吹き上げる湯口に手をかざし、温度を確かめるその仕草は、まるで研究者が新しい実験装置に触れるときのようだった。
「研究対象としても面白いかもしれません~、この露天風呂……湯質や水流のパターン~、周囲の気温との相互作用~……」
エンリはそう言いながら、肩まで浸かるツバイの方をちらりと見た。その視線には、探究心と少しの挑発が混ざっていた。ツバイは神としての威厳を保とうとする一方で、心の奥底では、エンリのその無邪気で大胆な態度に少しばかり胸を高鳴らせていた。
「君の好奇心はいつも底なしだな」
「は~い、ご主人様のそばなら、何でも許される気がしますから~……」
エンリは研究気質で、どんな困難や不可能にも興味を示す。それは戦場での冷静さや策略眼にも繋がる才能であるが、こうした静かなひとときには、無邪気な少女のように見える。
ツバイはエンリの手にそっと触れ、湯の中で指を絡める。熱い湯に包まれながら、互いの温もりが伝わる。ツバイにとって、この瞬間は、どんな天上の栄華よりも尊いものに思えていた。
「エンリの存在は、俺にとって――ただの配下ではなく、かけがえのない伴侶だ」
エンリは一瞬驚いたように目を見開いて顔を赤くした後、にっこりと笑う。
「ふふ、そういうのは~記録が残せる状態で言ってください~……でも、とても嬉しいです~」
エンリの言葉に、ツバイは思わず肩越しに笑いかけた。湯の温かさとエンリの微笑み、そして露天風呂を包む自然の静寂が、2人を柔らかく包み込む。
エンリは湯から少し身を乗り出し、ツバイに抱き着く。好奇心旺盛なエンリでも、無防備な一面を見せる。ツバイはエンリを受け止めて、湯気の中で寄り添ったまま、二人だけの時間を楽しんだ。
「……ご主人様とこうしていると~、研究も戦いも、すべてが少し遠く感じます~」
「エンリ。お前は、研究に夢中で、時々自分を後回しにする」
「そ、そんなことは~……」
「あるさ。だからこそ、こういう時間は大切だ」
指先が絡み、自然と手を繋ぐ形になる。湯気の向こうで、エンリの瞳が柔らかく細められた。
「……わかりました~。今日は、研究はお休みにします~」
「それでいい」
露天風呂の上空では、星々がゆっくりと巡り、世界は静かに呼吸をしていた。
神と女神、王と配下、夫と妻――すべての立場を脱ぎ捨て、ただ二人でいる時間。




