13.神の怒り
ー 空中都市 中央城の内部 ー
雲海の上に築かれた巨大な城、城内部の天井に星のように淡く瞬く光が漂い、時間さえも祈りの中に溶けている。しかし今日、その静けさはわずかに揺らいでいた。
「……地上の王の件、すでに耳にしているな」
ツバイが、低く、しかし天そのものを震わせる声で切り出した。瞳には、怒りではなく、深い倦みが浮かんでいる。
幹部達は沿って並び、それぞれが異なる表情を浮かべていた。ハンティは背中で手を組み、憂いを帯びた視線を伏せる。一方、リフコは冷ややかに唇を結び、感情を押し殺していた。
「教会に己の像がないことを嘆き、天使を嘲り、ついには神である我が主を愚弄する言葉を重ねた……。人の驕りとは、とても浅ましいものです。」
セリアの声は柔らかいが、その奥には王を軽蔑する気持ちがあった。人は弱く、低能な存在だと思っていたセリアでも今回の事態が想定外だった。
「驕りではすまされませ~ん。」
エンリが即座に言い放つ。
「繁栄が、己の力によるものだと本気で信じた愚か者~。報いを示さねば~、他の王達も同じ過ちを犯すと思います~。」
エンリは自分達が作り与えた、マナや魔術のおかけで繁栄していたのに、この事態は裏切り行為になると考えて怒っていた。ツバイは目を閉じ、過去を見つめるように静止した。人類がまだ幼く、祈りの意味すら知らなかった時代から、人類を見守ってきた存在の沈黙は、何よりも重い。
「人は神を試す。だが、それもまた成長の一形態だ。しかし、越えてはならぬ一線というものがある。天使と俺の侮辱は、俺達の挑戦だ」
リフコが一歩前に出る。
「では、王がいる都市は破壊すのはでどうでしょうか?」
「お待ちください」
ハンティの声は静かで、しかし確かな重みがあった。
「王は罪深い。しかし、都市に生きる者すべてが同じ罪を背負うのでしょうか。母の腕に眠る子ら、王の言葉を知らぬ老い人、祈りを捧げ続けた者まで、灰に帰すのですか」
ハンティの意見を聞きながら、ツバイは考えて結論を出す。
「都市は破壊する。無実の人に、逃れる道を与える。通告として3日の猶予を授ける。有罪な人物が逃げようとしたら、捕縛しろ。3日後、大量の天使で都市を完全包囲して魔法で破壊する。」
地上では、愚かな王が己の言葉の重さを知らぬまま、玉座にふんぞり返っている。
王の頭上で、神の視線が静かに交差したことを――彼が知るのは、もう少し先の話だった。
ー メソポタミア文明 王宮内鍛錬場 ー
愚かな王は毎日の日課で、1段階魔術を使って奴隷を的にして遊んでいた時だった。
――聞け。
声は、どこからともなく響いた。
城にいた者には、天井から降り注ぐ雷鳴のように。市場にいた商人には、耳元で囁かれる囁きとして。畑に立つ農夫には、大地の底から這い上がる振動として。港の船乗りには、波そのものが言葉を持ったかのように。老若男女、貴族も奴隷も、眠る者も目覚めている者も、例外はなかった。声は距離も壁も身分も超えて、ナノマシンを通して等しく“届いた”。
――我は、汝らが神。名を呼ぶ資格なき者どもよ。
多くの人々は膝を折った。祈るつもりなどなくとも、身体が勝手にそうした。声には重さがあり、抗うという概念そのものを押し潰す力があった。
――王は、我を嘲り、我が天使を愚弄し、自分が神だと主張した。
王は蒼白になり、喉を鳴らした。叫ぼうとして、声が出ない。自分が国の中心であり、言葉を発する権利を独占してきた男は、今や“聞く側”に引きずり落とされていた。
――ゆえに、罰を与える。これは怒りではない。秩序の回復であり、因果の是正である。
神の声は淡々としていた。激情も憎悪もない。ただ、すでに決定された事実を読み上げるように、冷ややかだった。
――今から3日の猶予を授ける。3日後、神が降臨する。神は都市を破壊尽くす。
その瞬間、声は消えた。終わった”と誰もが理解した。人々は顔を上げ、互いを見つめ合う。恐怖はあった。だが同時に、重石が外れたような静けさが、国中を包んでいた。




