10. 神の力 (イラストなし)
ー メソポタミア文明 玉座の間 ー
~ 王視点 ~
空を飛んできたそれは、玉座の間に降り立った。見た目は絶世の美男美女だった。空気が軋み、時間そのものが膝を折る。重力すら意思を持ったかのように、王の肩を押し潰そうとする。
(これが……神……)
人類最初の王として、部族を統べ、争いを終わらせ、法を作り上げてきた。王は人々を導いてきた誇りがある。しかし今、その誇りは紙のように薄く、脆く、簡単に破られる。
身体の方は全力で警鐘を鳴らしている。本能が、眼の前の男から逃げるべきだと訴えている。頭を垂れて、傅くのが正しいのだと判断させてしまうようなオーラがある。王の視界に映る神の瞳には、感情がなかった。慈悲も憎悪もない。ただ、圧倒的な“存在”という事実だけがそこにあった。
「王よ」
声は直接、頭の奥に響いた。音ではない。概念そのものが流れ込んでくる。
その瞬間、王は理解してしまった。神とは、裁く存在ではない。比べる存在ですらない。人が蟻を踏み潰すとき、そこに善悪がないように、神にとって人類は“観測対象”でしかない。
(私は……この存在に、何を願おうとしていた?)
武を誇った将軍は歯を食いしばり、賢を誇った宰相は言葉を失い、巫女ですら祈りの文句を忘れていた。膝が崩れ落ちる。王冠が床に転がり、乾いた音を立てた。王は初めて、自分が王である前に、ただの人間であることを思い知る。
「私の名はツバイという。人類の管理者である。そして隣にいる女性はリフコという。私の部下だ。」
ツバイと名乗った神は腕を軽く振ると、突然に王の王座とは比べならない豪華だとわかる玉座が現れて、ツバイが座る。
「私は人類が初めて国を作りだしたので、祝福を授け与えにきた。」
玉座の間にいた誰もが戸惑いの表情をしている。しかし、王だけツバイを真剣に見つめている。
隣にいたリフコが祝福のくわしい内容を説明しだす。
「これから、数人に祝福を与えます。祝福の名はマナといいます。マナを使えばこの国は大きな繁栄をもたらします。しかし、マナは子孫に受け継ぐたびにマナ量は減少する傾向があります。」
リフコは右手に青い色したマナが発生して、1メートルまで徐々に大きなる所を見せつける。
「マナを与えますが、マナだけでは何もできません。マナをこの赤い宝石を与えることで、人類に新しい力が使えます名は魔術といいます。」
リフコは左手持った赤い宝石にマナを流して、3メートルの火玉を発生させて、城の壁に飛ばしてぶつける。ぶつけた瞬間に城は激しく揺れ、轟音が響く。城に空いた大きな穴を見て、王達は恐怖し、驚愕していた。
「ツバイ様。‥‥この国はできたばかりで、様々な問題があります。なので祝福は大変ありがたいです。ですが、‥‥ツバイ様は私達になにを望んでいるのでしょうか?」
王は跪いて、真剣な表情にツバイに問いかける。
「繁栄と信仰だ。新しい力を使って、国の繁栄続けて、私を信仰させればよい。リフコの部下である天使が 後で来るから、天使の指示に従い、信仰すればよい。」
「では、マナを与えます。」
リフコは王、教皇、将軍、王の側近にマナを与える。王は暖かいものが体に駆け巡るのを感じながら、身体に異変がないかを確かめる。 教皇は歓喜のあまり涙を流す。
「魔術使うための赤い宝石、名は宝珠といいます。宝珠は天使が持ってきます。」
「では、私達はこれで失礼する。」
ツバイは立ちながら、腕を軽く振ると玉座が消えて続けてツバイとリフコ、空中都市が消えた。
王の視界にはまだ“神”の残像が焼き付いていた。臣下たちのざわめき、香の匂い—―それらすべてが、先ほどまで自分が立っていた“あちら側”に比べて、あまりにも薄く、脆く感じられる。
(……あれが、世界の上位に在るもの)
神は怒りも慈悲も示さなかった。そこにいる存在感だけで、王がこれまで積み上げてきた勝利も法も、砂上の楼閣のように思えてしまう。自分は王だ。類を束ね、裁き、導く存在だと信じてきた。
だが今は違う。王は初めて理解してしまった――自分が頂点ではないことを。
(知らなければ、幸せだったのだろうか)
そんな弱音が胸をよぎる。だが、すぐにそれを噛み潰した。知らぬまま統べる王など、ただの偶像だ。神を見た今、戻ることは許されない。
同時に、別の感情が芽生えていた。畏怖の奥底で、微かに燃えるもの、それは、反抗でも憎悪でもない。
「……それでも、人は進む」
神は万能だ。しかし、神は人を導かない。ならば、その隙間を埋めるのが王の役目だ。
膝が震え、喉が渇いている。それでも王は背筋を伸ばした。
神の前では取るに足らぬ存在だとしても、人の前では違う。
(私は、神と人の間に立つ)
その覚悟が定まった瞬間、恐怖は完全には消えずとも、意味を持った。神を知ったからこそ、人類を導ける。神を恐れたからこそ、王は王であり続ける。
玉座に深く腰を下ろし、王は静かに目を閉じた。
神と対面した“後”からこそ、人類最初の王の統治が始まるのだと、自らに言い聞かせながら。




