7
集落の入り口で待つ魔王とアトラに向かって駆け寄って来る一人の猫人が見えた。
その手には食料を両手に持ってやってくるのだった。
「魔族様!! こちらが食料になります!!」
そう言って猫人は干した魚を魔王に手渡した。
「コレが魚か?」
「はい、川でとれた魚を焼いて、更に干したモノでございます」
魔王は焼き魚を想像していたが、身を切り開かれた干物を受け取り、モノは試しと口へと運ぶ。
塩気の聞いた味付けと旨味が口に広がり、歯ごたえの在る触感を噛み締める。
「うむ、旨い。だが塩気が強いな」
「申し訳ございません、保存食なので塩気が強いのはどうにも……」
「まぁ良い。ここにトロルの肉は在るか?」
「トロルの肉ですか? 残念ながら私共は肉を好んで食しませんので……」
そして猫人は良い事を思いついたとハッとした表情を浮かべ、口早に魔王に語り掛ける。
「魔王様!! ここから東の方へと向かってください!! 犬人という獣人がトロルの肉を好んで食べておりますのでそちらに行って頂ければ食べられるかと思います!!」
魔族が求めている食べ物がトロルの肉ならば犬人に押し付ければ良いと考えた猫人だったが、その目論見はすぐに外れてしまう。
「俺はその犬人の集落から来た。あそこにトロルの肉はもう無い」
「ああ、そうでしたか……」
魔王の話を聞いた猫人は気がかりなことが一つ出て来た。それを魔王に質問する。
「犬人の集落はどうなりましたか?」
「どうなったとは?」
「滅びたのでしょうか?」
「いや、滅びてはいない。犬人の集落にトロルの肉はもうないが、ここなら在るかもしれないと聞いて来たのだが。どうやら宛てがはずれたな」
その言葉を聞いて猫人はこの二人組の魔族がここに来た理由を察した。
――犬畜生共!! こんな化け物擦り付けやがって!! 全部アイツ等が原因か!!
犬人と猫人は昔から仲が悪かった。だからお互いに小競り合いを続け、やられたらやり返すを続けて来た。だから今回の件についても猫人は犬人に対してやり返さなければ気が済まなかった。
「魔族様!! 犬人の奴らは嘘を吐いております!! 奴らはトロルの肉を干し肉として大量に保存している筈です!! あの嘘つきの犬共に制裁をお与え下さい!!」
猫人は平伏しながら魔王に対して嘆願した。
だが魔王はそんなことはどうでも良かった。犬人の集落で肉とイモを食し、それなりに腹も膨れ、暫くは持つ。猫人にも干した魚を少量だが貰って満足した。なので犬人が嘘を吐いてトロルの肉を隠して居ようがどうでも良かった。だが魔王は一つ気になった。
「犬人はお前達、猫人の集落を襲って食料を確保しろと言っていた。猫人のお前達は犬人が嘘をついて居るから制裁しろと言う。お前達は仲が悪いのか?」
「あの犬共とは相容れぬ存在です」
「何故だ?」
「奴らは愚鈍な犬です。我々より劣る存在と相容れることは在りません」
「なるほど、犬人よりもお前らの方が優秀だと?」
「はい、その通りでございます」
「ふむ……なるほど、興味深い……」
そう言って魔王は少し考えてから猫人に告げる。
「集落の猫人を全てここに集めろ。今すぐだ」
その言葉を聞いた猫人は困惑した表情を浮かべながら魔王に問い掛ける。
「それは何故でしょうか? 理由をお聞かせ下さい」
「理由なら簡単だ。猫人と犬人、どちらが優秀なのかハッキリさせようではないか」
「はぁ……」
魔王が何を考えて居るのかわからないまま、猫人は魔王の指示に従い集落の猫人を集め始めた。