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魔王散歩  作者: 九重雅
5/61

5


 突然の魔族の来訪に犬人の集落は慌てふためきながらも食料を搔き集めると同時に、非難の準備もしていた。女子供と非難に必要な物資を避け、食料を一カ所に集める。そこに犬人の長が深刻な表情をしながらやって来た。

 犬人の長に魔族襲来を報告し、今回の件を任された犬人は近寄って来た長に問い掛ける。


 「長、魔族は何て?」


 「一刻も早く非難を始めろ、奴らは我々を滅ぼすつもりじゃ……」


 「なんでそんなことに……」


 「奴ら、自分が嫌いなトロルの肉を食べさせろと言って来たんじゃ……」


 「なんで嫌いなモノを欲しがるんだよ? そんなのおかしいだろ?」


 「それが奴らの思惑じゃ。儂らの食料など大したモノは無いというのをわかっていながら、不味いモノをワザと献上させ、無礼だと皆殺しにするつもりよ……」


 「何でわざわざそんなことをするんだよ……?」


 「奴らは魔族じゃぞ? 化け物の考えることなどわかるものか……だが一つ確かなことは奴らは楽しんで居るに違いない。我々が慌てふためき、泣き叫び、絶望する様子を見る為にな」


 「なんだよ……ふざけやがって……」


 「とにかく皆で逃げろ……後はこの老い耄れの命一つで時間を稼げるだけ稼ぐ」


 「長……」


 「なに、コレからはお前が長だ。ジグルドよ……」


 「リガルドです……長……」


 犬人の長は急にせき込み始め、再度口を開く。


 「もう儂は長くない、リガルドよ……後は任せたぞ……」


 最後の最後で自分の名前を覚えて貰えていなかった事に頭が持っていかれたリガルドは「あっ、はい」と軽い返事で返すのだった。




 犬人の非難が終わり、集落には長だけが残った。

 長は二人の魔族を集落へと招き入れた。中央には焚火、その周りには木で出来た串に肉とイモが刺されて居る。地面に座っても汚れないよう簡素な敷物を用意して、肉を用意された焚火の前に魔王は座る。


 「コレはトロルの肉か? 緑色ではないが、何の肉だ?」


 「それはトロルの肉でございます。皮が付いて居ると不味いので剥いでおります」


 「そうか。もう食べられるのか?」


 「肉の色が茶色に変われば食べられるかと……」


 「では、食べれるな」


 そう言って魔王はトロルの串焼きを食す。

 それを見た長はここで死ぬ定めだと諦め、魔王に対峙するように座り、最後の晩餐を楽しむことにした。皮を剥ぐことで臭みが和らぎ、焚火で焼いたことで余分な脂と臭みが飛び、トロルの肉は犬人にとって御馳走になる。


 「ああ、旨い……」


 犬人の長がトロルの肉を噛み締めそんな言葉を漏らすと魔王が口を開く。


 「ああ、確かに美味いな。生では食えたモノではないが、焼くことで旨くなるとはな。アトラ、お前も食べろ」


 「はっ!! 頂戴致します魔王様!!」


 魔王の言葉に従いアトラも敷物に膝を付き、トロルの串焼きを口に入れる。


 「確かのコレは美味でございます。流石は魔王様、犬畜生共を滅ぼさないお考えはこういった意図が在ったのですね。感服いたします」


 そんなことを喋りながらも魔王とアトラは美味しそうに食事を楽しみ、その様子を見ていた長は困惑した様子で尋ねる。


 「あの……魔族様……」


 「なんだ?」


 「トロルの肉はお気に召しましたでしょうか?」


 「ああ旨い。まだあるのか?」


 「トロルの肉は狩りをしなくてはいけませんので、ここに在るのモノで全てでございます」


 「そうか。それならばアトラ、先程の道中にトロルを見かけたな。近くを探し、今すぐ捕まえてこい」


 「お待ちください魔族様!! トロルをここに連れて来られても困ります!!」


 「何故だ? お前達はトロルを狩って食して居るのだろう? トロルの一匹や二匹どうということはないだろう」


 「狩りと言っても罠に掛け、腕や足の一部を切り落として逃げるだけでございます。トロル一匹とこんな場所でまともに戦えば被害が凄まじい事になります。ですので、ご勘弁頂けないでしょうか」


 「まあ良い。腹はそれなりに膨れたからな。このイモも良いな」


 「はぁ……お口に合って何よりでございます」


 そんな会話をする中で長はこの魔族は意外と話が通じるのではないかと思いながら、こんなことを提案し始めた。


 「魔族様。もしよろしければ西の猫人の集落に出向くのはどうでしょうか?」


 「猫人? そこに行ってどうする?」


 「我々、犬人の食料はもう尽きております。ですので西の猫人の集落を襲って食料を確保するのはどうかと思いまして……」


 犬人と猫人は同じ獣人で在るが、常に争いを続けていた。同じ獣人で在りながらもお互いに見下し合い、顔を合わせれば小さな小競り合いが始まるのは昔からの事だった。もしもこの魔族達が猫人を滅ぼしてくれれば争いは無くなり、犬人にとって平和な世の中がやって来ると犬人の長は考え、そんな提案した。犬人の長の言葉に対して魔王は少し考える。


 「ふむ。猫人の集落にもトロルの肉は在るのか?」


 「あ~どうでしょうか? 奴ら、魚を食べる生き物ですから……」 


 猫人はトロルの肉など食べないことを犬人の長は知っていた。だがここでトロルの肉が無いと知られれば猫人の集落を襲撃して貰えなくなると思い、犬人の長は言葉を濁して返事をする。


 「魚か。行くぞ、アトラ」


 「はっ!! 魔王様!!」


 犬人の長から猫人の集落の情報を得た魔王は即決し、猫人の集落へと向かうのだった。

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