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森を駆け抜けるベルの視線の先から、緑色の触手が勢い良くベルに向かって伸びてくる。
ベルは両腕を口に変形させて触手を食いちぎりながら先へ進み、後方から付いてくる魔王とアトラはその後について行く。
ベルが触手を食い千切りながら先行し、少し先に進むと開かれた広場が在り、その中央に植物系のモンスターが陣取って居た。
下半身は地面に根を張る茎、周囲には無数の花と触手を揺らし、上半身は人間の女性の身体を模した緑色の魔物 ≪アルラウネ≫の姿がそこには在った。
アルラウネは魔王達の姿を見て、怒りの表情浮かべながらも触手を使って攻撃を始める。
だがベルは次々と触手を食い千切り、魔王は魔力障壁で身を守り、アトラは爪を伸ばし切り裂く。
アルラウネが繰り出す攻撃が誰にも通らないことに少し怯みながらも、更に攻撃を続ける。だがその全てがベルによって食い千切られ、魔王によって引き千切られ、アトラによって切り裂かれる。
そしてアルラウネの再生能力が追い付かない程、魔力を消耗すると諦めた様子で大人しくなった。そんなアルラウネの姿を見た魔王はベルに尋ねる。
「コレを収穫するという事か?」
「ちげぇよ」
そう言いながらベルは触手を食べながら抵抗を止めたアルラウネに近寄り、食べている触手に花の蜜を付けて更に食べ進める。それを見た魔王もベルの真似をして引き千切った触手にアルラウネの花の蜜を付けてそれを食べた。
「蜜は旨いが、触手は旨くないな」
「真似して食うんじゃねぇ」
ベルと魔王がアルラウネの触手を食べていると遅れて来た聖女とリンファがやって来る。
聖女は周囲の様子を見て、足元や周囲に見たことの在る野菜の葉が乱雑に出ていることに気が付く。
「本当に魔物を使って野菜を育てて居るのですね……」
そんな聖女のつぶやきにリンファが反応する。
「はい。野菜の他にも、肉や魚の食材の確保に魔物を使って居るんですよ」
「そうなのですね。ちなみにどういった方法なのですか? 魔物に家畜を育てさせるとかでしょうか?」
「魚の場合はそれに近いですね。海で悪さをしていた人魚をベル様が捕まえて、それを使って漁業をしています」
「人魚が魚を捕まえてくるんですか?」
「人魚は魚を操ることが出来るんですよ。だから近場の魚を操って陸に誘導させるだけで魚が取れてしまうんです」
「それはまた凄いですね」
「ですが一番凄いのはお肉ですよ。半永久的なお肉の確保。これは凄く画期的です」
「そんな方法があるのですか?」
「魔力によって肉体を再生するトロルの肉を使うんです」
「……何て言いました?」
「トロルの肉です。トロルは御存じですか?」
「いえ、それは知っていますが……トロルの肉を食事に使って居るんですか?」
「はい」
「あの……ちなみに昨日の食事や今朝の食事のお肉ってトロルの肉だったりします?」
「はい」
リンファの言葉を聞いた聖女は急に気持ち悪くなり口を掌で抑える。
「安心して下さい、聖女様。食の都で使われるトロル肉は全て清潔に保ち、本体には香辛料を忍ばせ臭み抜きも十分にしております。ですので、豚や牛などの肉と味は変わりありません」
「これほどまでに安心できない『安心してください』を初めて聞きました」
「お口に合いませんでしたか?」
「好みの問題では無く。倫理的な問題かと」
「そうですか、では聖女様の料理は特別に豚や牛、鳥などの肉に変えて貰う様に厨房に知らせときますね」
「それはありがたいです。ちょっと安心できました」
「その分料金は上がりますのでご了承下さい。では、私は料理人さん達を呼んできますので」
そう言ってリンファはお辞儀をして来た道を戻って行くのだった。
「魔王の傍に居るだけあって、随分と商売上手な子ですね……」
聖女はリンファの後ろ姿を視線で見送りながらそんな言葉を呟くのだった。




