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集落の入り口を見張っていた犬人は全力で長の家へと駆け込んだ。
「長!! 長!!」
慌てふためく犬人に対して、年配の犬人が呆れた様子で問い掛ける。
「どうした?」
「化け物だ!! 化け物が来た!!」
「なんじゃ? トロルか?」
「違う!! 魔族だ!! 魔族!!」
「魔族じゃと!? なんでこんな何もない場所に魔族が来るんじゃ!!」
「とにかく、一緒に居たルドルフが一瞬で殺されて、食料を寄こせって言ってきてるんだ!! どうにかしてくれ!!」
「ふむ……」
長と呼ばれる年配の犬人は考える。
何故こんな所に魔族がやって来たのか、何故食料を要求して居るのか、だがその理由はさっぱりわからなかった。わざわざこんな辺鄙な地に食料をたかりに来る理由が無い。それに食料と言ってもイモかトロルの肉位しかないが、そんなモノを高位の魔族に渡しても良いモノかと。
「お前は犬人を集め、非難の準備と食料を掻き集めておけ。儂は魔族の真意を探る」
「わかった」
そう言って犬人は集落を駆け回り、犬人長は魔王とアトラの元へと歩き出した。
平伏した犬人が集落の奥へと向かい、少し経つと老いた犬人が魔王とアトラの前にやって来た。
「食料を持ってこいと魔王様は言ったはずだが?」
アトラは手ぶらでやって来た年配の犬人を睨みつけながらそう言う。
年配の犬人は二人の顔を見てから頭を下げて返事をする。
「食料ですが今、皆に用意させておりますので少々お待ちください魔族様。ですが、こんな辺鄙な場所にはイモとトロルの肉くらいしかありませんがよろしいのでしょうか?」
「何? トロルの肉だと? 魔王様はトロルの肉はお嫌いだ」
「左様ですか……では食料はイモだけでよろしいのでしょうか?」
「本当にここにはイモとトロルの肉しかないのか?」
「はい、こんな場所ですので……」
この集落を少し見れば犬人の数も少なく、文明もそれほど発展して居ない。そんな光景を見て年配の犬人の言葉にアトラは納得していた。そして年配の犬人の言葉を聞いた魔王は問い掛ける。
「お前達はトロルの肉を食べるのか?」
「はい、トロルの肉を焼いて食べております」
「ほう、焼いて食べるのか。それは旨いのか?」
「えっと……私達にはそれが御馳走でございますので……私達は美味しいと感じております」
「そうか。なら、そのトロルの肉を焼いて持って来い」
「ですが、魔族様のお口に合わないかと……」
「持って来いと言って居る。二度言わすな」
「はっ!! 申し訳ございません!! ただいまお持ちいたします!!」
そう言って犬人は頭を下げてそのまま下がって行くのだった。