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魔王とアトラは魔王城から出て二時間程が経過したが、未だにまともな食事に在り付けて居なかった。途中でゲテモノの類であるトロルの腕を食べては見たモノの、食えたものでは無かった。
南へ歩く魔王の視線には徐々に緑が増えてきているのが見て取れる。
視線の更に先には木々生い茂る山も見えて来た。コレだけ緑豊かならば食料もそれなりに在り、人間の街にも近いのだろうと思いながらも魔王は歩みを続ける。
「魔王様!! この先に獣人の集落が在ります!!」
そう言ってアトラは南の方から空を飛んで魔王の元へとやって来た。
「そうか、それで食べ物は在るのか?」
「はい!! 獣人が食すモノというのが気がかりですが、食料は在るかと!!」
「良い、そろそろ腹を満たすとしよう」
「はっ!! では早速、獣人の集落を滅ぼして参ります」
「待て、獣人がどんなモノか見てみたい」
「はっ!! 畏まりました!! ではこちらでございます!!」
そう言ってアトラは魔王を先導し、少し先に見えた獣人の集落へと向かうのだった。
背丈は人間の大人程、二足歩行の人型、顔は犬、身体には体毛が色濃く生えている。
簡素な麻の服を着て、鉄製の槍を持ち、集落の入り口に立つ二人の獣人は魔王とアトラに向かって槍を構える。
「何者だ!!」
「ここは我ら、犬人の土地!! 死にたくなければさっさと立ち去れ!!」
そんな警戒する二人の犬人に臆することなくアトラは魔王に説明する。
「こちらが獣人になります。犬と人間のハーフと言いますか、犬にも人間になれなかった半端者と言いますか、そういう種族でございます」
「コイツ等は旨いのか?」
「止めておいた方がよろしいかと……」
「まあいい。おい、お前、食料を持ってこい」
魔王は警戒する犬人にそう命令するが、犬人はそんな命令には従わずこう返す。
「貴様、何様のつもりだ!!」
その言葉を発した犬人に対してアトラは五本の爪を伸ばし、犬人の身体を串刺しにしてから答える。
「魔王様だ。犬畜生」
生き残った犬人は隣で串刺しになった同胞を見て、何が起こったのかわからない様子で硬直する。
「それでは魔王様、この集落を滅ぼしてもよろしいでしょうか?」
「食料を探すのが面倒だ、皆殺しにはするなよ?」
「はっ!! 仰せのままに!!」
そう言ってアトラは犬人の集落の蹂躙を始めようとするが、生き残った犬人が声を上げる。
「お待ちください!! 魔族様!! どうかご無礼をお許しください!!」
そう大声を上げ平伏する犬人に対してアトラが返す。
「貴様ら犬畜生は魔王様に刃を向けた。それは万死に値する。死を持って償え」
「待て、アトラ」
そう言って魔王は平伏する犬人に続けて話しかける。
「俺は腹が減った。さっさと食料を寄こせ。三度目は無い」
「はっ!! 畏まりました!! 少々お待ちください!!」
平伏した犬人は集落の奥の方へ逃げる様に去って行くのだった。