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魔王城の周辺は草木生えぬ荒野が一面に広がって居た。
そこに生物らしい姿は無く、ひび割れた大地が広がる寂しい土地だった。
魔王城を出て体感一時間が経過し、そこで魔王が気が付く。
「アトラ。人間の街はいつになったら見えてくる?」
魔王城から出て一時間程歩いた魔王が見る景色は余り代り映えがしないモノだった。
変わったモノと言えば荒野に生える干乾びた木々がチラホラと見えてくる程度。
アトラの予定では一時間程で人間の街に着くと言って居たが、どうにもその様子は見て取れなかった。
「まだまだ先でございます」
「さっきお前は一時間で街を滅ぼし食料を確保すると言って居たが?」
「申し訳ございません、魔王様。それは私が全身全霊を掛けて魔王様の命令に従った場合、空を飛び、人間の街を滅ぼし、魔王城まで戻って来る最短の時間でございます。この様に徒歩ですと数日掛かってしまいます」
「お前は空を飛べるのか?」
「はい。身体を変化させることが出来ますので、背に羽を生やして、鳥の様に空を飛ぶことが可能で御座います」
「そうか、良い能力だ」
「はっ!! 恐縮でございます!!」
二人はそんな会話をしつつも先へと進む。
魔王の体感で更に一時間程経過した頃には徐々に景色は変わっていた。
草木の無い荒れ果てた荒野から、少しばかり緑が見えるようになってきた。
流石の魔王も空腹感が強くなり何かしら食料を口にしたいと思った。その時、少し先に生き物が動いているのを見つけた。
「アレは何だ?」
魔王がアトラにそう質問しながら二人は近づく。
背丈は魔王の二、三倍は在り、丸々と太った緑肌の魔物 ≪トロル≫が、近寄って来る二人に気が付いて視線を向ける。
「こちらはトロルと呼ばれる生き物で、知能の低い雑魚ですが、魔力による肉体再生能力を持つ魔物になります」
「そうか。で、旨いのか?」
「トロルを食されるのですか? それはおやめになったほうが良いかと……」
「何だ、マズいのか?」
「申し訳ございません、魔王様。トロルを食したことがない為、味に関しての感想を述べることが出来ないのです。無知な私目に……」
「良い、知らぬのなら知れば良いだけの話」
そう言って魔王はトロルの前に立つ。トロルは自分よりも背の低い魔王に向かって拳を振るう。
だがその拳は魔王に届く前に魔力障壁によって阻まれる。だがトロルはそんなことをお構いなしに魔王を殴り付けようとするが、それは無意味だった。
「さて、どの部位を食すか……見た目からしてゲテモノの類、何処をどう食べても同じか……」
ならばと魔王はトロルの顔面を殴り仰向けに転倒させる。殴られたトロルは一瞬何が起こったのかわからずに硬直する。そして次の瞬間、トロルの片腕は魔王によって千切られていた。
トロルは苦痛な悲鳴を上げながらも、切り取られた腕を徐々に回復させ、痛みと苦痛を与えた魔王に対して怒涛の反撃を行う。
トロルのその攻撃は魔王の魔力障壁によって全てを防がれる。そして魔王は千切ったトロルの腕を口へ運び、味見する。
「何だコレは、脂身ばかりで旨くないな。しかも肉が臭いではないか? 貴様、さては風呂に入ってないな?」
魔力障壁の内側で魔王はトロルの腕を味見しながら、トロルの怒涛の連撃を呆れた様子で見守る。
魔王の口の中に臭い脂身の味が一杯に広がり、表情で不快感を示し、肉を地面へと吐き出す。
「五月蠅い、退け」
魔王は手に持ったトロルの腕を正面へと投げ捨て、正面へと手をかざす。それと同時に大量の魔力が放出され、目の前のトロルは千切れた腕と共に跡形も無く消え去るのだった。