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今日は厄日なのか、運が良い日なのか、御車席に乗る行商人は困惑して居た。
いつも通りの慣れた道を馬車で移動中、頭のおかしい二人組を乗せた。そしたら盗賊に襲われ、愛馬が殺された。そう思えば頭のおかしい二人組が盗賊から守ってくれたりと……。
行商人は愛馬の代わりに荷台を引く十五人の盗賊に視線を向け、現実離れな光景を目の当たりにしながら溜息を吐く。その隣で御車席に立つアトラが声を上げる。
「良いか人間共。逃げれば殺す。足を止めれば殺す。そして魔法都市に着いても殺す」
「どの道、死ぬじゃねぇか!!」
盗賊はアトラの言葉にそう反論するがアトラは小さく笑って返す。
「全く、馬鹿め。人間には冗談も通じないのか?」
「本当に魔法都市まで運んだら生かしてくれるんだよな!?」
「魔王様がそう決めたのだから心配をするな。まあ魔王様が魔法都市に着いた時、お前達を殺せと命じられれば殺すがな」
そんな言葉を聞いた盗賊の一人が悲鳴を上げて逃げ出そうとした。だがアトラはそれを見逃さず盗賊達から奪った武器を荷台から取り出し、投げつけて殺す。
「先程も言ったが、逃げれば殺す。足を止めれば殺す。ここまでは冗談ではない」
「くそっ!! この悪魔め……」
「ほう、この私をイビルデーモンと見破るか中々やるな人間。誉めてやろう」
「そういうことじゃねぇよ!!」
「ふむ、次は口答えをしたら「殺す」でも追加しようか?」
アトラがそう言うと盗賊達は黙って荷台を引き続ける。
「全く、だから冗談だと言って居るだろうに。コレだから人間は……」
そんな盗賊達に笑えない冗談を繰り出すアトラに行商人は話しかける。
「あの……魔族様。このまま街に行くのはちょっと……」
「何か不都合が在るのか?」
「いや、盗賊を使って荷台を引っ張るのは賛成なのですが……この状態で街に入ろうとすると色々騒がれてしまうので、出来れば途中で盗賊達を縛って後ろに付いてこさせるようにして欲しいのですが……」
「それはお前にとっての不都合で我々にとっての不都合ではない。ならば交渉の余地は無い」
「ああ、そうですか……」
状況を知らない人達がこの光景を見れば、奴隷を使って馬車を引っ張っている悪趣味な奴という印象に映るに違いない。行商人としてそのような良くない印象はなるべくなら避けたいのだが、取り付く島もないようなので、すぐに諦めた。そして視線を先へと向けると魔法都市が徐々に見えてくる。
魔法都市の出入り口を守る二人の門番は視線の先に見える奇妙な光景を目の当たりにし困惑して居た。
「おい、アレって人間だよな?」
「そうだな。奴隷か?」
「わからんが。まあ、この国で奴隷は違法じゃないからな」
門番がそんな会話をしていると目の前で人間が引く荷車が止まる。
荷車を引いて居た男達は御車席の方を振り返り声を上げる。
「もういいよな!? 助けてくれるんだよな!?」
盗賊の問い掛けを聞いたアトラは荷台に居る魔王にお伺いを立てる。
「魔王様、魔法都市に到着いたしました。魔王様の荷物を襲った人間共は殺しますか?」
「約束は約束だ。後は好きにさせろ」
「はっ!! 仰せのままに!!」
アトラはそう畏まりながら、盗賊に向かって声を上げる。
「魔王様は好きにしろと仰っている。なので好きにしろ」
盗賊達は歓喜の声を上げ、アトラの気分が変わらない内に元来た道に向かって逃げる様に駆け出した。そんな一連の流れを見ていた門番は問い掛ける。
「アレは何だったんだ?」
その問い掛けに行商人が答える。
「私達を襲った盗賊で、荷を引っ張っていた馬の代わりに馬車を引かせていたんです。できればあの者達を捕まえて頂きたいのですが……」
「今から追いかけても無理だろうな」
「ですよね……」
そして人間が荷馬車の荷を引いて居た謎が解けた門番はいつも通りの仕事に取り掛かる。
「で、通行証は在るのか?」
「はい、こちらに」
そう言って行商人は先に用意していた通行証の札を見せる。
それを見た二人の門番は「じゃあ通っていいぞ」とそれ以上何も言わずに道を開けるのだった。
行商人は御車席から降り、逃げた盗賊達の様に人力で荷車を引こうとするが行商人の力ではスムーズに動くことは無かった。その様子を見ていたアトラは御車席から行商人に質問する。
「人間、お前は何がしたいんだ? さっさと動かせ」
「あの……手伝って貰えませんか?」
「なんだ? 殺されたいのか?」
「えっと……冗談ですよね。ははは……」
「冗談に聞こえるか?」
「いえ……」
流石に自分一人ではどうにもならないと諦め、行商人は一度中に入って馬か人を借りようかと考える。その時、荷台から魔王が出てきて行商人の代わりに荷台を引き始めた。
「それで何処まで運ぶんだ?」
「おお、ありがとうございます!! こちらです!!」
下等な人間が魔王様をこき使って居る。その様子を見たアトラは怒りの形相で行商人を睨みつける。
「貴様の様な下等種族が魔王様をこき使うとは、どうやら死にたいようだな……」
「やめろ、アトラ。こいつにはキアーヌという店に俺達を連れて行く約束が在る」
「はっ!! では荷台の運搬は私目がやりますので魔王様は荷台でお寛ぎ下さい」
「いや、人間の街というモノがどういうものか見たい」
「なるほど、ではご自由に見て回られればよろしいかと存じます。この荷物については私目が命を賭けて運び上げます」
「そうか任せた」
「はっ!! お任せを!!」
魔王はその場から去り、アトラは不機嫌そうな顔をしながら行商人の後ろついて行くのだった。




