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廃墟と化した石造りの巨大な城。廃墟の玉座で白髪の男は目を覚ます。
周囲を見回せば人影が一人、膝を付いて頭を下げて居た。
黒い髪の執事服を着た男は、玉座に座る男が目覚めたことに気が付き口を開く。
「お目覚めになられましたか、魔王様」
玉座に座る白髪の男は自分が魔王という名だと認識し言葉を返す。
「お前は誰だ?」
「私は魔王様の側近アトラと申します」
そう言ってアトラは名乗った後、魔王の傍に置かれた黒い球体の方に視線を向けて話を続ける。
「魔王様。よろしければ、そちらの死の宝玉に魔力を込めて頂けますでしょうか?」
魔王は玉座から手の届くテーブルの上に置かれた黒い球体に視線を向け、それに触れる。
「これに魔力を込めたらどうなる?」
「この魔王城に魔力障壁が張られ、外部からの攻撃を防ぐことが可能になります」
魔王はモノは試しと思い、死の宝玉に触れた手に意識を集中させる。
魔王の手から魔力が宝玉へと集まって行く。それは徐々に光が大きくなり、死の宝玉が魔力で満たされる。そして激しい光と共に魔王城は強固な魔力障壁で覆われた。
「これで終わりか?」
「流石です魔王様!! 死の宝玉に魔力を満たすことが出来るのはこの世で魔王様ただ一人!! 流石は世界を統べる魔族の王に相応しい御方でございます!!」
魔王はアトラの言葉を軽く流し、アトラに告げる。
「アトラ、俺は腹が減った。食料を持ってこい」
その魔王の命令に対してアトラは困った表情を浮かべながら返答する。
「申し訳ありません魔王様。この魔王城は見ての通り廃墟でございます。食料や物資の類もございません。ですので、一時間程お待ち頂けますでしょうか? 南の人間の街を滅ぼし、食料を早急に確保して参りますので」
「一時間? 待てんな」
そう言って魔王は玉座から立ち上がり部屋の出口へと向かって歩き出す。
「魔王様、どちらへ向かわれるのですか?」
「南の人間の街。そこに食料が在るのだろう? ならばそこまで散歩でもするとしよう」
「ですが、わざわざ魔王様が出向く程の事は……」
「腹は減ったがすぐに飢え死ぬ訳では無い。それに何もない場所で一時間も待って居られるものか。退屈だ」
「申し訳ございません、魔王様!! 全ては私の配慮が足りない故の失態!! どのような罰でも喜んでお受けいたします!!」
「良い。罰と言うなら、人間の街までさっさと先導しろ」
「はっ!! その王命確かに受け賜りました!!」
そう言ってアトラは魔王を南に在る人間の街へと先導を始めるのだった。
――ああ、なんと慈悲深い御方なのだろう!! 私の様な愚鈍な配下の失態にも叱責一つなさらず。更には自ら行動し、私の様な愚か者に魔王様を先導する役目を与えてくれるとは!! 流石は我が魔王様!!
こうして魔王とアトラは魔王城を出て行くのだった。