50.王城への呼び出し
時々意味もなく叫び出しそうになるのをこらえつつ夜を明かし、完全寝不足の翌朝。
「サキ、昨夜はあまり眠れなかったのか? クマが酷いぞ」
「おはようマティス。あはは……ちょっと眠れなかったかな……」
マティスに指摘されて目の周りをマッサージする。
後でホットタオル作ろう。
「アーサーもおはよう。……アーサー? なんだか元気ない?」
『……おはよう主。我は大丈夫だ、主こそ大丈夫なのか? なんならすぐにこの国を出てもよいのだぞ』
いつもの快活さがないアーサーを心配したが、逆に心配されてしまった。
「アーサーの言う通りだ。必要な荷物は持ってきているんだから、この宿から国外に行く事も可能だし、集落に戻ってもかまわないからな」
「ありがとう。そうだね、だけど最後に挨拶くらいはしたいかな」
未練たらしいのは十分承知だけど、サミュエル本人からちゃんと話してほしいというのもある。
ホットタオルでクマをマシにしてから、皆で朝食を食べて王都の観光に行く事にした。
そして宿屋の外に出た瞬間、騎士らしき集団に取り囲まれた。
「聖女を名乗るサキというのは君か。ヴァロワ公爵様の命により迎えにきた、ご同行願おう」
どうしていいかわからなくてオロオロしていたら、オーギュストが私の前に立った。
「聖女を名乗るという言い方はいかがなものか、まるで神殿でお披露目された聖女を認めていないという口ぶり。ヴァロワ公爵といえば、王太子妃の父上でしたな。王太子の被害者である聖女サキに謝罪でもなさるおつもりか?」
さすが学者というべきか、いつもよりおかたい話し方で対応する姿も可愛いくて頼もしい。
話しかけて来た騎士は、詳しい話を聞いていなかったのか戸惑っているようだった。
「我々は命令に従っているだけだ。サキという娘を王城の謁見の間に連れてこいという命令にな」
『ふん、ならば王城へ行って色々カタをつけてやろうではないか。マティスよ、そなたらが同行するのが条件だと言うがいよい。なに、何か言われたとしても、我の眷属なのだから我の命令しか聞かんと言ってやればよいのだ』
「そうしよう」
マティスは頷くと、騎士の代表に話しかける。
「サキが王城に行く条件として、我々の同行を認めるように。これはフェンリルであるアーサー様のご命令だ」
「ああ、あとは移動手段は我々の荷馬車で行くとしよう。また妙な仕掛けがあっては困るからね」
マティスの言葉にムッとしていた騎士は、追撃のようなオーギュストの嫌味に鼻白む。
しかし、私が王城に行かないのは困るのか、渋々条件を飲むと言って、王城まで先導してもらう事になった。
鬼が出るか、蛇が出るか……、王城が近付いてくると無意識に唾を飲み込んだ。




