4.双子の狼獣人リアムとユーゴ
「ユーゴはオイラ達兄弟の中なら一番料理が上手いじゃないか! 野菜スープだって生煮えだった事はないし、野菜が繋がったりもしてないじゃないだろ!? 落ち込む必要なんかないよ!」
どうしようかと焦っていたら、もう一人の小さい狼獣人がユーゴを励ました。
「リアム……、ありがと」
と、尊い。
「えっと、ユーゴとリアム? 二人は同じくらいに見えるけど、双子とか?」
「うん、そうだよ。オイラとユーゴは双子で十一歳なんだ。兄ちゃんは二十三歳だけど」
「あ、同い年だ」
「「「「『は!?』」」」」
大きい狼獣人に視線を向けて言うと、先ほどと同じく……むしろアルフォンスの声も加わって皆が声を上げた。
そりゃ十一歳の双子と同じくらいの身長なのに、二メートル超えの兄獣人と同い年って言ったからだろうけど。
「コホン。私はユーゴとリアムの兄で、この家の家長でもあるマティスです。我らがフェンリル様の主殿であれば、眷属である我々の主も同然です。狭い家ですが自分の家だと思ってお寛ぎください」
私がムッツリとした表情だったせいか、マティスが咳払いをして自己紹介をした。
倒れる前も思ったけど、話し方のせいかキリッとしててカッコいい。
あれ? でも……。
「家長?」
思わず声に出してしまった。
だって、この三人は兄弟だって、マティスは私と同じ二十三歳だって言ったよね?
「サキ、この兄弟は数年前に両親を流行り病で亡くしてね。フェンリル様の眷属の長の家系だからマティスは若くしてこの家の家長であり、眷属達の長でもあるんだ。ちなみに俺は十六歳だ」
弄っている前髪の毛先を見つめながら教えてくれるアルフォンス、最後にこちらを見てパチンとウィンクをした。
やだ、可愛すぎる!!
キュンキュンしていたら狼獣人兄弟と子フェンリルのドン引きしている視線が刺さった。
そんな視線のお陰で我に返って気付いたけど、この残った食事問題が解決していない。
さっきのションボリした姿を見たら、不味いなんて言えないんだけど!
その時、アルフォンスが小瓶をポケットから取り出してスープに垂らした。
「少し掻き混ぜて飲んでみるといい。この家で食事する時の必需品で、呼び出された時は持ち歩いているんだ。パンも硬いだろう? スープに浸して柔らかくなってからスプーンで崩せば食べられるぞ」
言われた通りにスープを掻き混ぜ、ひと口飲んでみる。
あ、今入れたのってコンソメ!?
劇的に味が変わって美味しくなってる!!
バッと顔を上げてアルフォンスを見ると、ニカッと笑って親指を立てた。
あ、異世界もそのジェスチャーするんだ。
言われた通りパンも少し温くなったスープに浸す。
『うむ、今度は口に合ったようだな。やはり喜びの感情は美味である』
子フェンリルはそんな事を言いながら口の周りをペロリペロリと舐めている。
どうやら感情が甘露だとか言っていたのは本当のようだ。
「ふぅ、ごちそうさまでした。ありがとう、ユーゴ、アルフォンス」
「おおおぉ! 伝承通りだ! 食事が終わると手を合わせるんだな!」
私が食べ終わるまで、皆はお茶を飲みながら待っていてくれたが、食べ終わった瞬間アルフォンスが興奮し始めた。
なにやらマティスに押さえつけられているようだけど。
「申し訳ない、アルフォンスは伝承や歴史を研究する家系なのです。約一万九千年前に異世界から転生した審判者が主殿と同じ世界から来たと」『ウォッホン、ゴホン、ゴホン』
すごく興味深い事をマティスが話してくれてたのに、子フェンリルがものすごくわざとらしい咳払いをした。
「どうしたの?」
『どうしたの? ではない! 先ほど主達は自己紹介をしていただろう! 食事が済むまで待ったのだから、そろそろ我にも名を付けるべきではないか!?』
テチテチと肉球を床に叩きつけながら主張する子フェンリル。
え~……、きっとシロとか付けたら子フェンリルからどころか、狼獣人兄弟からもブーイングだよねぇ?