35.敵は誰だ
再び移動し始め、私達は長い沈黙の後、馬車の中で話をした。
「すまない、私のせいで危険な目にあわせてしまって」
開口一番サミュエルが頭を下げた。
「え!? 私が狙われていたみたいだからサミュエルのせいじゃないでしょ? ほら、顔を上げて」
膝の上できつく握りしめられている拳にそっと手を重ねると、いきなり抱きしめられて動揺する。
だから免疫が!! ないから!!
「私が集落からサキを連れ出さなければ……、そして私がサキに心惹かれる事がなければ……!」
『サミュエルの言っておる事は本心だな。何やら葛藤しているようだが。雑味はあるが真摯な感情はなかなかの美味ぞ』
いつの間にか私の膝から向かいの座席に移動していたアーサーが、口の周りを舐めながら訳知り顔で頷いている。
ちょっと待って、サミュエルが私に惹かれているって事は勘違いじゃなく……好きって事!?
「だ、だけど、どうせあの魔導師のおじいさんや神殿の人達が来てたんでしょ? だったら同じ事だよ」
「それはそうだが……、恐らく」
サミュエルが何かを言いかけた時、再び馬車が止まった。
窓から外を見ると、町の風景な事から昼食を摂る町に到着したのだろう。
すぐに声がかけられると、馬車のドアが開いてサミュエルがエスコートしてくれる。
「話の続きはまた後ほど、サキはまた彼らと食べるのだろう?」
「あ、うん。それじゃあ……また食後に」
移動中はずっとサミュエルと一緒だからと、休憩の時は一緒に過ごそうとリアムに言われているのだ。
話の続きが気になるけど、また食後に聞けばいいか。
…………すっごく気になるけど!!
「サキ~! ここはサキの好きな生魚も食べられるんだって! よかったねぇ」
サミュエルが先に従者に案内されるのを見送っていると、リアムが走って朗報を伝えてくれた。
「本当!? ずっと火を通した魚しかなかったから嬉しい!」
「あはは、サキってば生魚は好きなのに、火を通した魚が嫌いって変わってるよねぇ」
「リアムこそお肉大好きなのに、しっかり焼いたお肉が嫌いじゃない」
「だって触感が全然ちがうじゃないか、焼き過ぎて固い肉が嫌いなだけだよ」
『我はどちらも好きだぞ、固い肉も噛み応えがあってよいではないか』
そんな会話をしながら一行が立ち寄る食堂へと向かっていると、神殿の白装束の人が三人近付いてきた。
密かにさっきの襲撃は神殿関係者の可能性があると思っている。
なぜなら私という主がいる限り、アーサーを自分達のものにできないから。
「サキ様、道中ご不便はございませんでしたか? 本当ならば王家より先に我々がお迎えにあがるつもりでしたのに、残念ながら少々出遅れてしまいました。何かありましたら、いつでもお申し付けください。我々はあなた様の味方ですから……では失礼します」
代表者の一人が一方的に話して行ってしまった。
妙に含みのある言い方に、心が妙にざわつく。
『ふん、害意はないが、下心のようなものはしっかりあるな。主、油断するな』
アーサーの言葉に、改めて気持ちを引きしめた。




