103.取引成立
「えーと、どうしたらいいかな?」
『ドワーフなのだから酒の匂いでも嗅がせてやればよかろう』
「え~? そんなので目を覚ますかなぁ? 今空間収納に入ってるお酒は野営の時の料理用が少しだけしかないよ」
空間収納からハーフボトルサイズの瓶を取り出して言うと、マティスがスンスンと鼻を鳴らした。
「サキ、こっちの方が効果があると思うぞ」
立ち上がってジョセフの執務机の裏に回ってしゃがんだかと思うと、明らかに酒瓶とわかる物を手にしていた。
「仕事中にお酒飲んでるの……? 誰も注意しないのかな。まぁいいや、それを嗅がせてみよう」
マティスが酒瓶のコルクを抜くと、キュポンと軽快な音が鳴る。
瓶の口をジョセフの鼻の下へ持っていき、ユラユラと中身を揺らすように動かた途端、ジョセフの白目がギュルンと戻った。
「ハッ! なんだ……!? あっ、これはワシの秘蔵の酒じゃないか!」
ジョセフはマティスの手から酒瓶を奪い取ると、そのままゴクゴクと喉を鳴らして飲んだ。
「今仕事中でしょ? お酒なんか飲んでいいの?」
「んぐっ! いつもは仕事が終わったご褒美として飲んでるだけだ! 今は……そう! あまりにショックを受けたから気つけ代わりに飲んだんだ! こんな……母国ですら国宝になりそうなモンがワシ個人所有になるなんて……」
今度は涙ぐみ始めてしまった、情緒不安定か。
「代金は全財産って言ってたけど、そんなに」「もちろん払うとも!! いや、むしろこの作品に対してはワシの全財産などはした金にすぎんが……。不足分は冒険者に復帰してでも必ず払うから譲ってくれ!!」
「いや、だからそんなにはいらないってば! もらい過ぎだから!」
「バカ野郎!! 全然もらい過ぎなんかじゃないぞ!! むしろ受け取ってもらわんとこの装備に対して申し訳が立たん! お前さんのギルドの口座に白金貨五百枚入れておくからな!」
「えぇ~……、大金過ぎて怖いんだけど……」
『あの倉庫にあった物をドワーフどもに売れば、国のひとつくらい興せそうではないか? 色々面倒になったらマティスを王にして主はのんびりその国で過ごせばよい』
「やだ、それ名案かも……!」
「やめてくれ……。本気でやりそうシャレにならない」
アーサーの素晴らしい提案に賞賛を送っていたら、マティスは頬を引き攣らせた。
「あはは、さすがに冗談だよぅ…………今のところ」
「サキ?」
最後にひと言足したせいで、ジトリとした視線が突き刺さる。
「いや、本当に冗談だよ。ちょっとそうなったら獣人が見下す人のいない国ができるんじゃないかな~って思っただけで」
「何の話をしてるんだ? まぁいい、とにかくワシはもう帰って防具を眺めながら一杯やるぜ……へへへ」
ジョセフは一杯どころか一本以上飲みそうな顔で、空間収納を利用して作られた魔法鞄にいそいそと防具をしまい込んだ。
魔法鞄もかなり高級品のはずだけど、ギルドマスターってもうかるんだろうか。
用は済んだとばかりに私達は応接室を追い出されたが、翌日にはしっかり代金が私の口座に振り込まれていた。




