99 ドーズの街のギルドは掌握した
煙の上がる方向は、この街を牛耳る残りのギルドの方向と一致する。
タイミング的にも、オーク達がやったんだろう。
確か打ち合わせでは、俺達の脱出が無理そうだったらフォローしろって話になってるはずだよな。
しかし俺達の脱出に何ら問題などない。
どういうことだろうか。
ちょっと危険かもしれないが見に行って見るか。
「街の様子が変だ。ダイ、ラミ、ちょっと煙の方向を偵察して来るからここでハピを頼む。オーク兵、お前らもここを死守しろ、ガルルル」
そう言って俺は狼の姿のまま走り出した。
街中の住人は、異変を感じて家の中に閉じ籠っているのか、通りには人影が全く無い。
おかげで俺は全力で走ることが出来たのだが、ちょっと妙な気がするというか違和感を感じる。
一つ目の煙の場所へと到着すると、そこは予想通りこの街を牛耳るギルドのひとつ、『盗賊ギルド』だった。
勢力的にはこの街で一番大きなギルドだ。
それだけに建物もでかい。
建物からは、規模は小さいが火の手が見える。
それにギルドのメンバーらしき者達が戦闘している。
その戦闘中の相手とは……
「やっぱりオーク部隊じゃねかよ」
何で街の外で待機していないかな。勝手なまねしやがって。
あの数だと、部隊ごと来たな。
ギルドの建物を取り囲んで火矢を放っているところだ。
その裏手からはゴブリン兵が、狭い窓から建物へと侵入している最中だ。
何でゴブリンまでが参加してんだよ。
俺達の脱出が危なくなければ動かないはずじゃなかったのか。
何を勘違いしたんだか。
考えられることは、情報ギルドの動きが怪しかったとか。
それに気が付いて、応援を送り込もうとしていたという事も、考えられなくはない。
まさか他の煙の場所も主要ギルドの建物なのか。
うーん、そんな気がするよな。
一応見てみるか。
到着して見ると、やはり同じように街を支配しているギルドの本部建物だった。
もちろん攻撃しているのはオーク兵やゴブリン兵だ。
という事は他の煙もきっと同じだろうな。
しかしダック族が見当たらないな。
と思ったら、誰も居ない街中の通りを横切るのが見えた。
「おい、ダック共、俺だ、止まれっ、ヴォオン!」
声を掛けると直ぐに俺の元へ走り寄って来て、スライディングするように平伏した。
「ははっ、まお―――ライ様、何用でございますグワ」
今「魔王」って言い掛けなかったか?
「貴様らはここで何をしている?」
「ははっ、各重要地点での情報の統制をしておりますグワ」
統制?
「どういうことか説明しろ、グルル」
「ははっ。街中での騒ぎで我々に反発者が出ない様に、重要施設は抑える様にとの使命を受けておりますグワ」
うん、それだけ聞けば良いアイデアだな。
だがな、そこまでやるのに兵力が足りなくね?
街を支配するギルドへは、既に兵を差し向けて襲撃しているよな。
それ以外で重要施設というのは、恐らく弱小ギルドや有力者の家なんだろうけど、そこにまで差し向けられるほどの兵力は無い。
ゴブリン兵やダック兵じゃ、返り討ちされて無理だろうし。
「そうか、ご苦労だな。でもどうやって重要施設を抑えているんだ。そこまで兵力に余裕はないだろう」
するとダック兵。
「規模の小さい所であれば、ダック兵数名で事足りますグワ」
「数名でか?」
「そうグワ。この街は魔王軍が占領したと言えば一発グワ―――ガヒュ~っ!」
反射的にチョップを食らわした。
「お前は馬鹿かっ。魔王が近くにいるかもしれないのに、魔王軍を名乗るとか、頭おかしいんじゃねえか、こら!」
「し、しかし、効果てき面ですグワ。だ、誰も抵抗しませんでしたグワ」
うーむ、言い返せねえ!
くそ、一旦街の外のオーク本部陣営に行って、どういう事か確かめてやる。
俺は狼の姿のまま街の外へと疾走して行く。
すると門を出て直ぐの所に、オーク本部があった。
街の近くにまで移動していたらしい。
俺が声も荒々しく怒鳴り込むと、オロオロした様子で幹部達が説明する。
「は、はいっ、各ギルドに張り付いていた偵察兵から、次々と“ギルドに動きあり”と連絡が入ったもので、手遅れになる前に兵を動かさなければと……」
「それで全部隊にゴーサインを出したと?」
「は、はい。な、何かあってからでは遅いので……」
呆れた。
悪気は全く無いようだから、なおさら質が悪い。
「それとだ。ダックの作戦は誰が命令を出したんだ」
「ダ、ダックの指揮官から提案がありまして……危険と思われる、もしくは動き出すと思われる要所に、潜入工作作戦をするとかで動いていました」
潜入工作?
「待て、その潜入工作作戦って、街を魔王軍が占領したって話のことか?」
「はい、何でも“魔王様がこの街を支配下にした”という情報を言いふらせば、誰も手出ししないとか言ってました」
言われてみれば、確かにそうなんだよな。
魔物の間では、魔王の支配下という言葉は強烈だ。
く~、悔しいが良い作戦じゃねえか。
だから文句言いづれえ!
そこへダックの伝令が来た。
「失礼します、報告しますグワ。各ギルドは全て制圧完了グワ。これでドーズの街は我々が占領したグワ。魔王軍万歳――――グワッふぎゅっ!」
踏み潰してやった。
我慢にも限界がある。
元々の目的は、情報ギルドに仕返しするだけだったんだが。
それが魔王軍の名を語って、ドーズの街を占領してしまったのだ。
最大級の警鐘が俺の頭の中で鳴り響く。
何か、何か対策をたてないと、本気で魔王を怒らせちまう。
「良し、この街を魔王に提供する」
皆が唖然とした顔で俺を見る。
我ながら良いアイディアだ。
魔王が現れたら“魔王様への贈り物です”とこの街を渡せば問題ない!
むしろ喜ばれるぞ。
よし、この作戦でいく。
俺は「皆のもの、静まれ!」と言って、本部陣営の兵士達に俺を注目させる。
そして話を続ける。
「兵士達よ、これより命令を下す!」
兵士達がシーンと静まる。
俺は兵士達を一通り見回した後、高らかに宣言した。
「ドーズの街を完全に統治しろ。魔王の配下に相応しいようにだ。ヴォルルルッ!」
おっと、まだ狼の姿のままだったな。
オークやゴブリン、ダック達がざわつく。
それが次第に歓声に変わる。
何だか凄くやる気を出しているんだが。
魔王にあげちゃうんだぞ?
自分達の物じゃなくなるんだぞ?
まあ良い。
俺の考えはこうだ。
人間と魔物が共存する街がドーズだ。
それを魔王が支配下に置くんだ。
まるで人間と魔王が和解したみたいだよな。
さらにその街を魔王に譲った俺は、人間の貴族の客人扱いだし、人間の英雄にして勇者とも仲が良い。
だが魔物であるライカンスロープだ。
ならば魔王の客人になれる。
どうだ、完全に仲良し路線だろ。
少なくとも俺は、人間からも魔王からも狙われなくなる。
これで俺は今まで通り冒険者として、楽しい生活を続けられる。
完璧な作戦だ。
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