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98 強敵と戦った








 ハピは何かを悟ったのか、素直に俺の命令に従ってくれ、部屋の隅へと移動した。


 椅子に座っていた四つ手があるダークオークが、床に視線を向けたままゆっくりと立ち上がる。

 上半身は裸なのだが、筋肉の付き方がえげつない。

 腰にはやはり四本の曲刀をぶら下げている。

 身長は俺と変わらないのだが、やけに大きく見えるな。


 そして四つ手野郎は顔をスッと俺に向ける。


 鋭い眼光。


 恐ろしいほどの殺気。


 隙が全く見いだせない。


 何者なんだ、こいつは……


 そこへ骨付き肉を貪りながらヒデルが一言。


「やれ」


 突然、四つ手が曲刀を引き抜いた。

 

 美しい曲線を造る刃が、窓の陽を反射してキラリと光る。


 シミターか。

 

 さらに殺気が滲みでる。


 これほどの奴が居たとは、世の中はやはり広い。


 俺は小剣を鞘に納め、背中の槍を手に持つ。


「俺はライ。お前の名を聞いても良いか」


 四つ手のダークオークがボソリと言う。


「ゾラック……」


 ゾラック、聞いたことあるじゃねえか。

 確かエルドラの街の冒険者ギルドの掲示板で見た。


 お尋ね者「曲刀ゾラック」、生死を問わず金貨十枚だったか。

 良く覚えてないが、種族はダークオークだったのか。

 それも手が四つあるなんて書いてなかったし。


 それがまさかこの状況で出会うとは、俺は運が良い。


 一石二鳥で金になる!


 ゾラックが握る四つのシミターが動き始める。


 すると剣スジがぼやけだす。


 まるで蜃気楼を見る様にシミターが揺らぐ。


 魔法か?

 

 だが詠唱した様子はない。


 魔道具?


 違う、固有スキルかっ!


 そう思った瞬間、シミターが俺に襲い掛かる。


 ひとつめのシミター!


 避ける。


 二つめのシミター!


 これも避ける。


 三つめのシミター!


 避けきれない。


 槍で受け流す。


 だがまだくるっ。


 四つめのシミター!


 体を捻る。


「くっ」


 刃が肩をかすめる。


 左肩が熱い。


 その左肩から生暖かい液体が流れ落ちる。


 斬られたか!


 くそ、人間の体じゃ無理だ。


 壁際まで下がりながら、手足を狼に変身させる。


 するとゾラックが眼光を細める。


 同時に動きが少し止まった?


 その隙に俺は、肉を食うヒデルの後ろへと入り込む。


 これでそう簡単には手が出せない。


 ゾラックの手の動きは圧倒的に早い。

 しかし足の動きはそうでもない。

 狼の脚ならいける。


 俺はヒデルの陰に隠れながら、狼へと完全に変身した。


「ヴァオオ!」


 ゾラックは少し驚いている。

 だがヒデルは食うのに夢中で、俺の方を見ようともしない。

 全く気にしてない様子だ。


 いっそぶち殺してやろうかと思うが、聞きたいことがあるから今は我慢、放っておく。


 狼の脚なら俺の方が圧倒的に早い。

 狼の眼ならばあのシミターの動きになんとか対応できる……はずだ。


 俺がゾラックに飛び掛かろうとした時だ。


 ゾラックの四つの腕が大きく歪む。


 くそ、まただ。

 剣スジが読めない!


 右手のシミターが同時にきた。

 

 上段と下段へ分けて迫る。

 

 避け切れねえ!


 俺は左の手足の爪で辛うじて受け流す。


 しかし反対側から左手のシミター二本が迫る。


 避けるのは無理だし、二本とも受け流すのも無理か!


「ヴォルルル~!」


 瞬時の判断で右脚を(かば)う。


 右腕に衝撃が走る。


 見れば右腕が切り裂かれている。


 防御しながら右腕を確認する。


 凄い出血だ。

 それに右腕に力が入らない。


 駄目だ!


 直ぐにヒデルの後ろに逃げる。


 ゾラックも追撃のシミターを振り下ろすが、俺の脚の方が早い。


 (かわ)せた!


 固有スキルらしいあの剣の揺らぎは困ったな。

 接近するまで剣スジが全く読めなかった。

 剣速が速い上にあの揺らぎは厄介だぞ。


 俺とゾラックは、肉を喰い続けるヒデルを間に置き対峙する。


 これなら時間稼ぎは出来る。

 それで対応を考える。


 だが考えが甘かった。


 ゾラックがヒデルに接近。


 何をするつもりだ!


 突然ヒデルが伏せた。


 同時にゾラックは二本のシミターを投げ放つ。


 二本本のシミターが、回転しながら俺に接近する。


 一本のシミターは左手の爪で弾いたが、右手が傷のせいて持ち上がらない。


 駄目だ、やられる!


 諦め掛けた時だ。


 目の前に大きな壁が被った。


 その壁にシミターが突き刺さる。


 


「翼?」




 俺の視界が翼で遮られている。


 馴染みのある翼。


「ハピか!」


 俺は翼を払い除け、槍を大きく振りゾラックを遠ざける。


 そこで崩れる様にしゃがみこむハピ。


「ちょっと、痛かった、ですわ……」


 ハーピーにとって翼は誇りだ。

 その翼が赤く染まっていく。


 俺はゾラックを睨む。


「てめえ、ヴァルル……楽に死ねると思うなよ」


 ゾラックがうっすら笑みを浮かべ、シミターを振り上げる。


 次の瞬間、俺は雄叫びを上げた。


「ヴオオオオ~~~ウ」


 ハウリングだ。


 肉を食っていたヒデルが、真っ先に椅子から転げ落ちる。

 

 ゾラックはシミターから手を離し、床に膝をついて耳を押さえだす。


 効いている!


 そこで俺は走りだす。


 そして床に四つん這いになるヒデルの背中に足を合わせる。


 そしてヒデルの背中を力強く踏み込む。

 

 ヒデルが口から血を吐いて床に伏せるが、俺の知った事じゃない。


 ヒデルは単なる踏み台だ。


 その勢いのまま、ゾラックに向かって膝を突き出した。


「ヴォオオオッ!!!」


 俺の膝はゾラックの顔面に埋まる。


「ゴォフッ」


 まともに食らったゾラックが、大きくぶっ飛び壁に激突。

 そのまま壁に血の痕を付けながら、ズルズルと倒れた。


 俺は直ぐにハピの元へ行き抱え起こす。


「ハピ、しっかりしろ、死ぬな!」


 俺はバッグからポーションを取り出し、半分をハピの口から流し込み、もう半分を傷口へとかける。


 刺さったシミターを抜いてやる。

 かなり傷口が広い。


 ハウリングは短めにした。

 だからハーピー種族なら、これくらい大丈夫なはず。

 そう願いたい。


「ライさん……わたくしのフォロー、完ぺきでしたわよね……」


「ああ、そうだな。よくやったなハピ」


「……あ、あの二人は死んだのですの」


「いや、まだ息はある……ハピ、傷が癒えるまで少し黙ってろ」


 そこへ味方オークや獣魔達が部屋に入って来る。


「今のはハウリングだな、ライさん、大丈夫……ハピ!」


 真っ先にラミが入って来て、走り寄って来た。

 ダイも一緒だ。

 

 しばらくしてオーク兵も入って来たが、俺のハウリングでヘロヘロ状態だ。


 ゾラックとヒデルは縛り上げる。

 他の部屋には誰も居なかったらしい。

 結局、この二人しか生き残りはいない事になる。


 ハピの傷が落ち着くまでしばらく安静にしておきたいのだが、ここに居たら他のギルドからの攻撃を受ける可能性がある。

 仕方なく撤退しようと外に出る。


 そこで気が付いた。


 街の何ヵ所かで煙が上がっている。


 まさか……

















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