97 情報ギルトへ突入した
ドーズの街へ入ると、ちょっとした騒ぎになっていた。
あちこちで噂話が聞こえてくる。
もちろん情報ギルドの支部が襲われたってことだ。
意外と情報が回るのが早いな。
それに聞き耳を立てつつ早足で情報ギルド本部へ向かう。
目指す場所は通りに面していて、非常に目立つ大きな二階建ての建物。
あそこか!
入り口には既に情報ギルドのメンバーらしい、怪しい連中が見張っていた。
種族はゴブリンやダークオークに昆虫系の亜人までいる。
だけどな、所詮は情報ギルド。
戦闘には慣れていないのだろう。
装備が貧弱で飛び道具もほとんどない。
逆に俺達はオーク戦闘部隊の精鋭と金等級冒険者だ。
二倍の数で来ても負ける気がしない。
俺は建物に近付きながら言った。
「正面から急襲する。デブのダークオークは殺すなよ。行くぞ!」
俺は小走りしながら小剣を引き抜く。
通りの店で働くカエル系亜人が悲鳴を上げた。
それを聞いたギルド連中が一斉に俺達を見た。
「来たぞっ、戦闘準備!」
連中の一人が叫んだのだ。
予想通り敵は腰が引けている者ばかり。
そこへ視認阻害のマントを着けたハピが、空中からマジックミサイルの弓矢を放った。
入り口付近に固まって陣取っていた為、マジックミサイルの矢がその集団へと集中し、次々と敵に突き刺さる。
悲鳴を上げながら大混乱に陥る情報ギルドのメンバー達。
そこへ突入したのがラミだった。
「オラオラオラ~、どきやがれ!」
突入するやあっという間に数人を斬り伏せるラミ。
だが、怪我が治り切っていない身体だ。
胸に巻かれた包帯が赤く滲んできた。
「ラミ、下がれ。これは命令だ!」
俺が声を掛けるがラミは当然渋る。
「ライさん、まだやれるって!」
そう言いながらさらに二人を血祭りに上げる。
「オーク精鋭の腕を見たいから下がれ、何度も言わせるな!」
「わ、分かったよ」
何とか後ろに下がるラミ。
そこへ十人のオーク兵が、盾でガードしながら敵に突っ込む。
十人でのシールドバッシュだ。
小型の亜人たちはそれで後方へ吹っ飛ばされる。
ほう、連携が取れるんだな。
さすが精鋭だ。
オークの突撃で敵は戦意を無くし始め、逃走する者が出始めた。
そうなるとこっちのもんである。
一人逃げ出せばそれが連鎖する。
総崩れとなった。
「建物内へ突入しろ!」
俺の合図でオーク兵十名が、正面入り口から室内へと侵入した。
続いて俺とダイ、そしてラミにハピも入って行く。
そこは広いエントランスホールになっていた。
大きな階段が二階へと続いていて、テーブルやイスが並ぶ広いロビーになっている。
だがそこはシーンと静まり返っていた。
ハピがつぶやく。
「あら、誰も居ないですわね」
その言葉が合図かの様に、二回の部屋から敵らしき影が一斉に出て来た。
十人はいるか。
ダークオークばかりだ。
そいつらは階段通路に並び、階段の手すり越しに何かを構えた。
「くそっ、クロスボウだ!」
俺が叫んだと同時だった。
クロスボウから一斉にボルトが放たれた。
オーク達が盾をかざして俺の前に立ち塞がる。
「ウガッ」
「グシッ」
「ギャッ」
オーク達の悲鳴が上がる。
俺にきたボルトはオークの盾で防がれたが、それ以外は刺さっている。
もちろんそれは俺を守って自らの身体をさらしたオーク兵達だ。
いや、それだけじゃない。
ハピとラミにも刺さっている……けど、そっちは心配なさそうだ。
ハピは鳥の毛の部分で、刺さり方が浅いようだし、ラミも蛇のウロコ部分で、ケロッとしている。
しかしオーク達はそうはいかない。
酷い有り様だ。
四人がやられた。
「お前ら、俺をかばったのか……」
ダークオーク達は次弾装填せずに、クロスボウを投げ捨てる。
そして腰の剣を引き抜いた。
接近戦で来るようだ。
俺は叫んだ。
「ハピっ、タンバリン!」
ハピは刺さったボルトを気にしながらタンバリンを取り出す。
「やっとこれを使う時がきたのですわね」
ハピは不気味な笑顔を見せながらタンバリンを手に、空中に浮き始めた。
すると大慌てでバッグを探るラミ。
「待て、待て、耳栓が見つからねえって」
俺はダイに耳栓をしてやる。
「始めますわよ~」
そう言って歌い始めるハピ。
「パララ~、パラリララ~♪」
今回は初めから歌うし踊り始めた。
いきなり全力じゃねえか。
違和感にとらわれて、ダークオーク達の脚が止まる。
そこへハピの情熱のタンバリンの演奏が始まった。
空中で変な演奏に奇妙な歌、そして想像の斜め上を行く踊り。
あっという間にダークオーク達はその場でしゃがみこみ、頭を抱えて震え出す。
「助けてくれ~」
「怖い、怖いよお」
「恐ろしい……」
俺には笑いが込み上げてくるんだがな。
「ふはははは、たわいもない……一階はダイとラミが探せ。二階は俺とハピで探すぞ」
そう言ってダイはラミに託し、階段を上がろうとして気が付いた。
「ふふふ、そうだな、忘れていた……」
恐怖で壁に背をつける味方のオーク達。
まあ良いか。
「オーク部隊、治療を優先しろ。それと入り口からの敵は任せたぞ」
そう言って、階段の縮こまるダークオークに一撃づつ入れながら、足早に二階へと上がる。
まだ戦いは終わってないのだが、ハピは何だかやり切った表情をしている。
「ライさん、二番の歌と踊りもあるのですわ」
どうでも良いわ!
二階には部屋がいくつかある。
そのどれかがギルド長の部屋なのだが、部屋札が取り外されていて判別がつかない。
そこで手前から順に確認して行く。
まずは最初の扉を思い切り蹴破る。
いきなりビンゴだった。
部屋の中にはあのデブのギルド長、ヒデルが椅子に座っている。
ヒデルの前にはテーブルがあり、その上には皿に盛られた骨付き肉が山の様に積まれおり、それに必死でかぶりついている。
本当に見ていて汚い。
さっさと拉致しようと部屋に入ろうとして気が付いた。
物凄い殺気が漂って来る。
ゆっくりと部屋に入ると、部屋の隅の椅子に何者かが座っていた。
その殺気はそいつから放たれたものだ。
この俺でさえ背筋がぞっとするほどの、冷たい殺気。
「ハピ、こいつは俺がやる」
ハピには荷が重い敵だと判断したからだ。
パピもただならぬ雰囲気を悟ったのか、無言で後ろへと下がった。
そいつはダークオークに間違いないのだが、何より見た目に決定的な違いがあった。
手が四つありやがる。
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