96 情報ギルド本部が判明した
罠にはめやがったな。
俺はオーク二人に「部屋から出るぞ!」と告げて、入って来た時の扉を開けようとするが、鍵が掛けられているのかびくともしない。
こうなったら覚悟を決める。
「戦闘準備!」
狭い部屋の中では槍は不利と判断し、予備の武器の小剣を引き抜く。
オークの二人も剣を抜いた。
そして不気味な音をたてて、ゆっくりと隠し扉部分の壁が開く。
壁の中から現れたのは、武装したダークオークが五人。
連れのオーク二人が、俺の前に出てそいつらを威嚇する。
「下がれ」
「斬るぞ」
するとダークオーク五人は、お互いの顔を見合わせてヘラヘラしている。
そこで俺が声を上げた。
「どういう事だ。俺達は戦いに来た訳じゃない。魔王に会いたいだけだ。その為の情報が欲しい。武器を引いてもらえないか」
するとダークオークの一人がそれに答える。
「……貴様ら、その情報はどこで手に入れた」
先ほとまでのヘラヘラした感じではない。
厳しい顔付きだ。
「それは魔王が本当にいるってことか?」
俺がそう言った瞬間、ダークオークの一人が斬りつけてきた。
ビンゴかよ!
俺はそれを小剣で受け流す。
しかし残りのダークオークも、直ぐに剣を振りかざしてきた。
オーク二人も加わり剣で対抗するが、五人相手では不利だ。
案の定、直ぐに前に出たオーク二人が斬り伏せられる。
こいつら弱っ!
あっという間に俺一人かよ、いやダイもいるか。
仕方ない、やってやるか。
俺は喋りながら変身する。
「よくもやってくれたな。この代償はでかいぞ?」
両腕が狼へと変貌する。
ダークオーク達が驚いた様子で俺を見る。
次いで両足が変身する。
ダークオークの一人が、何やら喚きながら斬りかかってきた。
咄嗟に抱えていたダイを投げた。
「ワオーン」
直ぐにそいつの顔面にダイが噛み付く。
それと同時に隣のダークオークの首を変身した狼の爪で切り裂く。
鮮血がパッと壁を赤く染めた。
「さて、残るはあと三人だけになったぞ」
そう言いながら胴体と頭を狼へと変える。
狼の完全体だ。
すると残る三人は、困惑した表情でお互い顔を見合わせ、俺の方をチラチラ見てくる。
何か様子が変だ。
ビビってるのか?
まあ、どうでも良いか。
俺は茫然と立ち尽くす三人へと襲い掛かった。
実に呆気なかった。
こいつらも弱いな。
三人とも一撃で壁の染みとなった。
ダイも顔面に噛み付いたダークオークを仕留めたところだ。
噛み切った喉から口を外し、ペッと肉片を吐き出すと、俺に念話を送ってきた。
『久しぶりに生の血を味わったよ。まあそれは良いんだが、扉の向こうにまだ居るぞ』
そう言えば、用心棒的なドアマンがいたっけな。
その直後、扉が勢いよく開き、用心棒のダークオークが飛び込んできた。
そいつは死体の山を見た後、直ぐに俺を睨み付ける。
すると用心棒の目が驚きでカッと見開く。
「まさか、魔王……なのか?」
は?
それを探しに来たんだが。
「おい、ダークオーク。魔王について知っているのか」
「ち、違うのか……」
「違う、違う、俺は単なるライカンスロープで冒険者だ」
俺は用心棒の顔面に蹴りを喰らわせる。
「ぐはっ」
あれ、こいつも一撃で終わりかよ!
折角変身したのにこれで終わりとか、物足りないだろうが。
聞きたいことは“魔王”について、そしてデブの情報屋の居場所なんだが。
取りあえずこいつを連れて帰って、オーク達に情報を聞き出させるか。
まずは一旦、集合場所に行く。
だが、こいつをどうやって運ぶかだな。
背負って運ぶの嫌だし。
そこでロープで縛った上に猿ぐつわをして、顔が分からないように布袋を被せた。
その状態で自力で歩かせれば、奴隷にしか見えない。
良し、これで行こう。
結局、街の住人が気にするような素振りは無く、全く問題なく街中を通り抜けられた。
この辺は人間社会と違うところだな。
そして街の外にある森の集合場所へと向かった。
集合場所には既に街に潜入していた者達の他、オーク部隊の隊長クラスの者も来ていた。
俺が到着すると全員が深々と頭を下げる。
そこへ俺は連れて来たダークオークの用心棒を転がす。
「こいつが何か知っている。調べ上げろっ」
そう言ってこれまでの事情を話した。
すると数人のオークが、直ぐにそいつを連れ去る。
そして半刻もしないうちに、オークの一人が俺に連絡をしに来た。
「脂肪の塊について判明しました。そいつは情報ギルドの長らしく、ヒデルと呼ばれているそうです。ギルド本部にいると思われます。直ぐに襲撃しますか?」
「ちょっと待て、魔王についてはどうだった?」
「はっ、詳しくは知らないようですが、恐ろしく強い魔狼がいて、それを魔王と勘違いしているようです。上層部の者が詳しく知っていると言ってます」
魔狼か。
勘違いかどうかは分からないがな。
しかしそれで狼の姿の俺を見て唖然としていたって訳か。
だが魔狼が魔王になり得るんだろうか。
ダイに聞いてみると、人型以外で魔王になった者は聞いた事が無いという。
だが確認は必要だ。
魔狼は知能があるし、魔王になれない訳じゃないだろうからな。
まずは情報屋の親玉である、ヒデルを捕まえに行くか。
騙し討ちにしてくれたお礼参りもあるしな。
「良し、これより情報ギルド本部を急襲する」
俺がそう宣言すると、オークの隊長達が慌ただしく動き出した。
「おい、お前らは動かなくて良いぞ」
俺がそういうとオーク隊長の一人から反論が返ってきた。
「ライ様、それは危険です。ドーズの街はギルド同士で繋がっています。ひとつのギルドを敵にしたら、街全体を敵にするようなものです。ここはしっかりと部隊配置をしてから急襲するのがよろしいかと。大丈夫です、すべてのギルド本部の場所は尋問で聞き出せています。こっちは千人のオーク兵がいるんです。部隊を分けて一気に攻めましょう。どうぞ我々にお任せください」
こいつらは戦いたくてウズウズしているんだろうな。
気持ちは分かるんだけどね。
一応だが、魔狼が暴れた場合を考えて、オークを配置する位はやっとくか。
「ならば部隊配分と配置は任せる。そうだな、まずは俺とオーク兵十名で情報ギルドの隠れ家を急襲する。そこで俺達が街から無事に出られたら問題ない。だがそれが無理そうなら俺達の脱出をフォローしろ。それともし、魔狼が出現した場合は手出しするなよ。魔王の場合もあり得るからな。分かったな」
そこで俺はオークの精鋭を十名選ばせ、獣魔達と一緒にドーズの街の情報ギルド本部に向かった。
情報ギルドへは、少数精鋭で急襲する作戦だ。
「俺を騙し討ちにした罪を償わせてやる」
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