95 情報屋に行ってみた
オークは勿論のこと、ゴブリンやダックまでが準備を手伝ってくれている。
何台も獣車が乗り付けられて、次々に荷物が積まれていく。
しかしちょっと荷物が多くはないか?
この量は軍隊の遠征なみだぞ。
指揮しているオークに尋ねると、兵士千人と補給部隊五百人が準備しているという。
さすがにそれは多過ぎだろうと思ったのだが、ちょっと待てよと。
もしかしたら、相手は本物の魔王かもしれない。
その場合だが、上手く平和に話が通れば問題ないのだが、そうならない場合だってある訳で。
その時、オークの正規兵が千人もいれば、心強いなんてもんじゃない。
危なくなったと思ったら、申し訳ないがオーク達に壁になって貰って、俺らは逃げかえれば良い。
そう考えて連れて行くことにした。
「良し、出発するぞ!」
こうして俺達はオーク兵の部隊千人と補給部隊五百人の合計千五百人で、オーク領地を出発した。
しばらくして気が付いたんだが、ゴブリンとダックも列に混じっているじゃねえか。
オークの隊長に聞けば、ゴブリンとダックは戦力に入れてないから、人数も把握していないという。
だから何人が付いて来たか分からないらしい。
それもそうか。
俺は「戦力にならないから」という文言で納得してしまった。
放って置いても問題ないだろう。
こうして着々とドーズの街に近付いて行く。
そしてドーズの街へ近付けば近付くほどに土地が痩せ、人間の生息数が減っていく。
代わりに亜人や魔物の数が増えていく。
この辺りまで来ると、人間の貴族が自分の領地だと言う土地でも、魔物や亜人の集落が出来ていたりする。
完全に人間の勢力が届かない土地なのだ。
その先にあるドーズの街だが、人間以外にも亜人や魔物が住んでいる。
人間の勢力が届かない場所にある街に、人間が住んでいるというのも違和感がある。
亜人や魔物は分かるが、何故そんな場所に人間がいるんだろうか。
それは街へ到着してから分かることになる。
街は思った以上に大きな規模だった。
建物もしっかりとしていて、見た感じだと街中は活気付いている。
俺はこの街に詳しいという、オーク兵二名とダイを連れて街中を歩き始めた。
ただしこのオーク兵二名は、戦いの腕前は低そうだ。
余り期待しないでおく。
ラミとハピは別行動だ。
さらには何組かのオーク、そしてダックやゴブリンのチームも情報収集で動いている。
街中は結構な賑わいなのだが、人間が少ない。
人間は全体の三割くらいだろうか。
その人間達だが、どう見てもまっとうな奴らじゃない。
恐らく犯罪者や賞金が掛かっているような奴らか、何らかの理由で人間社会から逃げて来た奴等だろう。
この地に住んでいれば、少しは安心できるのだろう。
しかしこの雑多な種族が生活する街、誰が統治しているんだろうか。
歩きながら連れのオーク兵に統治者を聞くと、驚いたことに「いない」という返事。
街にあるいくつかのギルドの代表達が、この街を仕切っているらしい。
だがスラム街のような荒れた感じはないな。
最低限の生活レベルはあるようだ。
まずは情報を集める為に、オーク二人の案内で酒場へ向かう。
到着すると極普通の飲み屋だ。
ガラの悪そうな客ばかりだか、ジロリと見られることもない。
夜にはまだ少し早い時間だというのに、店内には既に酔っ払ってるコボルトの客や、ダークオークの客がいた。
俺達は適当に空いているテーブルに座り、連れのオークの一人がカウンターへと向かう。
カウンターには店員のドワーフの男がいて、連れのオークが気軽に声を掛けている。
知り合いのようだ。
しばらくすると、そのドワーフは店内にいたダークオークに声を掛ける。
客だと思っていたダークオークは、店の関係者だったらしい。
そのダークオークの案内で、店の裏手へと俺達は連れて行かれた。
店の裏手には小屋があった。
中へ入れと言われ、警戒しながら扉を開けると、用心棒らしきダークオークがいる。
そこは連れのオークが対応し、さらに奥の部屋へ行けといわれた。
厳重な警戒といえるレベルだな。
中へ入れというので、扉を開けて室内へと入る。
そこにはでっぷりと太ったダークオークが、皿の上にのった肉料理を手づかみで食っていた。
俺達が部屋へ入って行っても、そいつは食べるのをやめる気配はない。
案内したダークオークが、その食事中のダークオークに耳打ちする。
それでもそいつは食べ続けたままだ。
そして肉を頬張り、俺達を値踏みする様に視線だけを向ける。
あまり気分の良いものじゃないな。
ひとしきり食った後、少しだけ手を休めて言葉を発した。
「どんな情報が欲しい」
こいつが情報屋の頭らしいな。
そこで俺は前に出て口を開く。
「最近噂になっている、魔王についての情報を知りたい」
するとそのデブったダークオークは、ちょっと面食らった感じだったが、直ぐに平静を取り戻して言った。
「高く付くが金はあるのか」
俺が連れのオークに合図すると、金の入った袋をジャラっとテーブルの上に置いた。
「足りねえとは言わせないぞ」
俺がそう言うと、デブったダークオークはニヤリとして言った。
「良いだろう。明日の夕方もう一度来い。用意しておく」
少し考えてから「分かった」と返した。
ひとまず俺達は、この怪しい小屋から出て行く。
そして日暮れ時になって、街に潜入したメンバー全員が森で落ち合った。
そこでお互いの情報を交換する。
この時点では、特別気になるような情報はない。
せいぜい「魔王が現れた」とか「魔王が部隊を率いている」といった、噂に過ぎない話ばかりだ。
実際に魔王を見た奴は今のところいない。
明日情報屋から入るネタに期待するか。
翌日、昨日のメンバーで、情報屋の小屋に向かった。
夕方来いと言われたが、ちょっと来るのが早かった。
それでも普通に通してくれた。
昨日と同じ様に案内され、デブのダークオークのいる部屋に入った。
しかし誰もいない。
やはり早く来すぎたか。
そこでダイが念話を送ってきた。
『壁の向こうに何人かいるぞ、気を付けろ』
ダイが鼻で指し示す壁をよく見ると、床に擦った跡がある。
隠し扉か!
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