94 これからの方針を発表した
俺が興奮していると、応接の間に次々にオークが入ってきた。
恐らく幹部のオーク達なんだろう。
さらにダック族やらゴブリン族までもが現れた。
その誰もが立派な服装をしている。
いわゆる配下の部族が総動員ってとこか。
だがそれって、俺が来る事が分かっていたってことだな。
……そうか、護衛のオークが知らせたのか。
そして最後にオウドールが現れ、立派な座椅子の方に腰を下ろした。
マジか!?
残された椅子はもう玉座しかないじゃねえか、くそ!
俺は一人ブツブツ言いながら、渋々と玉座に座った。
そしてラミとハピが玉座の両側に立ち、行場を失ったダイが、俺の膝の上にピョンと乗ってきた。
静まりかえる応接の間。
空気が重っ!
そこで突如、オウドールが号令をかけた。
「全員、まお――――ライ様に頭を下げよ!」
今、魔王って言いかけなかったか?
部屋にいる全員が一斉に頭を下げた。
それは凄い光景だった。
だって各部族のお偉いさんが百人はいるぞ。
そいつらが今、俺ごときに平伏してる。
何か震えてきたんだが。
進行役らしいオークが話を始めた。
この部族のこれからの方針についてああだこうだ。
う~ん、話の内容が全然頭に入ってこない。
俺、緊張してるみたい。
そして話が止んだと思ったら奥の扉が開き、その扉から身なりの良いオークが入って来た。
見たことない恰好のオークだ。
服装の雰囲気が今までと違うから、この辺の部族じゃないっぽいな。
何する気だ?
ちょっと身構える。
そのオークは、二人の付き添いオークを従えて、俺の前まで来るとひざまずいた。
「お初にお目にかかりますじゃ。魔王――――ぐぼっふっ」
言い終わる前に、ハピの足がそいつの顔面を蹴り上げていた。
鼻血を吹き上げながら天井を向くオーク。
「貴様はNGワードってものを知らないですわね!」
ハピはそう言いながらも、オークの顔をグリグリと踏みつけ、床に押し付けている。
ハピの蹴爪が後頭部に喰い込んで痛そうだ。
付き添いのオーク二人の顔が、恐怖に染まる。
俺の心臓もバクバクだ。
初見の偉そうな奴をいきなり蹴るとか、大丈夫なのか。
やることが大胆過ぎるぞハピ!
だが何故か集まった一同は皆平伏している。
オウドールも平伏だ。
これはもしかして正解?
ハピを誉めるべきなのか?
ハピに触発されたのか、今度はラミが一歩前に出て拳を握り締め叫ぶ。
「文句がある奴がいたら前に出ろや!」
やりたい放題じゃねえか。
ここはやはり俺が出ていくべきだよな。
俺は一端深呼吸してから、ダイを抱えたまま玉座から立ち上がった。
「静まれっ―――」
言ってから失敗だと気付く。
誰もしゃべってない!
シーンと静まる室内。
ヤバい、何言おう?
う~ん、思い付かねえ!
頭が真っ白になりかけたところで、ダイから念話がきた。
『目の前の鼻血オークが何者か聞け』
そうだ、ダイのいう通りだな。
まずはこいつが何者かだ。
「お、おい、鼻血オーク、き、貴様は誰だ」
よおし、言えたぞ。
ダイを撫でる事で感謝を伝える。
「あ、おう。わしは南のオークを仕切っておる、マウリ族の族長のマウリですじゃ。マウリ族も傘下に入るべく来ましたじゃ」
あれ、それってこの大陸の三大オーク勢力のひとつじゃねえのか。
二つの勢力は既に傘下に入っているから、最後のオーク勢力だな。
ってことはだ。
この大陸の全オーク部族を全て配下にしたってことか。
ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい!
それに加えてダックにゴブリンだ。
本物の魔王に知られてみろ、魔王が軍を率いて攻めてくるぞ。
これは真剣に対応しないとな。
俺は平静を装い話を始める。
「皆の者、聞けい。この大陸のオーク勢力及びここにいるダック族、そしてゴブリン族は全て、ここにいるオウドール族長が仕切るものとする。重要だからもう一度言う。仕切るのはオウドールだっ……それとだ、全ての魔王情報を集めよ。ただし、俺の存在は絶対に隠せ。表に出すなっ。俺はあくまでもオークとエルドラの街を繋ぐ人間の冒険者だ。分かったか!」
皆「へへ~」とか「はは~」とか言ってるから大丈夫だろう。
そうだ、俺はこれを言うためにここへ来たんだったな。
少しスッキリした。
そうだ、大切な事を言わないといけない。
「それとだ。俺を“魔王”と呼ぶな! これは絶対命令である。以上だ、解散!」
言ってやったぜ!
俺は玉座から立ち上り、部屋から出て行った。
うおっ、俺の足が若干震えているじゃねえか。
そのせいか、応接の間から出た途端、身体の力が一気に抜けていく。
座り込む事はなかったが、その場で立ち止まり深呼吸。
ハピに「大丈夫ですの?」と心配されるが「問題ない」と返して再び歩く。
緊張してたとか言えない。
その後オウドールの部屋へ行き、魔王についての質問をした。
「オウドール、魔王になるための条件を知りたい」
するとオウドールは驚いた様子で言った。
「圧倒的強者、誰もが認める強さ、それが条件。しかしライ殿は既にそれは備えている。心配は不要」
「待てい、勘違いするなっ。魔王を探す為に聞いただけだからな。何度も言うが、俺は冒険者だからな?」
「了解している」
オウドールは頷くが、本当に分かってるのか?
「それでドーズの街で魔王が現れたと聞いたんだが、それについて説明しろ」
オウドールによると、辺境の街ドーズにて、魔王を見たという冒険者が現れたという。
ドーズの街は、荒れ大陸に近い地域にある街だ。
それを考えると信憑性が高い情報だ。
「良し、オウドール。俺が直接ドーズの街へ行く」
ドーズは人間以外にも、亜人や辺境の少数部族も住む街だ。
ラミやハピといった魔物も、受け入れられ易い街ともいえる。
だから俺達が行っても一緒に行動さえしなければ、違和感はないはずだ。
そして魔王を見つけたら、敵対関係になる前に友好関係を結びたい。
勇者ハルトとは友好関係だし、上手くいけば人間と魔王の橋渡しが出来る。
エルドラとオークの客人になったみたいに、魔王の客人になれば良い。
良し、この作戦でいくぞ。
俺は高らかに声を上げた。
「ドーズの街への出立の準備をせよ!」
「いいね」の御協力ありがとうございます。
引き続きよろしくお願いします。
毎度ながら誤字脱字の報告ありがとうございます。
大変お世話になってります。
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